第30話

とりあえず今日は城にお泊りください。

これから城に早馬を出しますので明後日には手紙が届くでしょう。

これから山を越えるのはおすすめできません。道になれたものでもけがをすることがありますので、事故でもあったらわたくし目が困ります。


王様と貴族の会話は礼儀とかその類の物のせいで非常に長い。

その長い会話を省略するとこの三行になった。


「それではよろしく頼む」

「お願いします」

「よろしく」


もう正直三人とも疲れてる。

ここまで来たら一日二日遅れてもいいだろう。さっさと帰ったところであるのは書類仕事だけだ。

「息子がうまくやってくれてればいいんだがな」

王様はそう言った。

「妹は、まぁ僕より優秀だから大丈夫だと思います」

魔王はそう言った。



その晩出された食事は質素ながらおいしいものだった。

人魚の自治領でとれる魚、あとは野菜、肉はなし。


「山の上にそんなものが。管理と言っても人魚たちに頼まれて街道沿いの整備や王家への納税を代わりにやっているだけですから、わざわざ山の上の方までは確認しません。私は釣りはしますが山歩きはしませんし」

「それじゃぁ利益はでないでしょう」

「人魚との協定で林業の権利を貰ってるので山の下の方の木を売るなりして損しない程度の利益はでます。まぁ正直、私自身が自治領で釣りをよくするのでその縁で人魚たちに頼まれてるようなものでして。あそこは大きな魚が釣れるし、人魚たちもいろいろ教えてくれる。あの貴族は猟が好きで山歩きをよくしてましたから、その際みつけたのでしょう。愚かなことだ。正直に言ってくれればこんなことにはならなかったのに」

「自分の取り分が減るのは嫌なものだよ。どんな理由でもね」


食事中、王と魔法使いはそんな話を貴族とした。

それに対して話に加わらない魔王。他所の国の話に首を突っ込まないのが礼儀。

というわけではなく 


「なんでここまできてそんな面白くもないおっさんの話をきかないとだめなのか」


という心。



「あなたは陛下の従者ですか?」


つまらなさそうな顔をしていたのを見たのか、食事の席に同席していた娘が魔王に話しかける。

美人とたたえるほどではないが、そばかすが残る田舎のお嬢様といった感じ。


「違います。まぁ、二人の客人ですね。巻き込まれてついてくることになった感じで」


前にもやったな、これ。


「へぇ」


といった具合で会話を始める二人。

女の方は遠回しにどこのだれだ、と聞いてくるが魔王はうまく躱す。


「こらこら、困らせてはいけないよ」


それを見かねた父親がそういった


「困らせてなどいませんよ」

「お前は自分の夫がどんな人か聞きたいだけだろう」

「夫。結婚なされるのですか」


 ここは逆に攻め時とみて魔王が逆に質問。


「ええまぁ、※※※に領地をもつ貴族様のご子息とこの度結ばれることになりまして」

「※※※っていうと」

「ここから見ると首都を挟んで反対側、闇の国とは反対側の国境沿いになるかな」


外国人とは言え、商売柄、魔王もある程度はこの国の地理を知っている。がさすがに細かい地名まではわからない。

それを見て取った魔法使いが地理を教える。


「なるほど、ずいぶんと遠くありませんか」

「貴族の嫁入りですもの」


娘は一言で返す。

当然といった具合。まぁこの辺の事情は闇の国でも同じなので特に驚かない。

本人の意志よりも家の地位や権力の方が重要。だから往々にしてこういった婚姻が行われる。


「大変ですね。御相手はどのようかたなのですか」

「さぁ?」

「さぁって、これから嫁入りか婿入りが行われるのでしょう。顔合わせくらいはしておられないのですか」

「しておりません。しておりませんのよ。なのに明日その方が我が家に来るのです」


娘の声が少々刺々しい。

ただこれは魔王ではなく、同席していた父親に向けられた棘だろうと王様は感じた。

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