落ちるために必要なもの

 クメという名の何かとナルカミという名の何かの、なんだか妙にふわふわした対話劇。
 彼らが一体何者であるか、その答えは一応中盤あたりで明かされているのですが、でもそれを明かしたらネタバレになると思うので、ここでは伏せます。もっとも、謎解きミステリ等のネタバレのようにお話そのものが台無しになるわけではないのですが(たぶん)、でもたぶん素のままの状態で読むが一番だと思うので。
 というわけで、レビューで言うべきことがほとんど言えなくなってしまったのですけれど、それはそれとしてやっぱり『ふともも』が好きです。キャッチコピーとして取り上げられてもいる部分。設定の面でそこにふとももを持ってくること自体も面白いんですけど、それ以上にその描写というか、クメの語り口から滲み出る感覚が好きです。郷愁のような欲望のような。全体を通じて独特な空気感の漂う、不思議な手触りの作品でした。