04.純白のコップ壊滅
転移の門が爆音とともに、砕けちった。
魔法で作った実体のないものなので、まさか砕け散るとは思ってなかったが、ものの見事に砕け散った。
カルディアも驚いていたので、寝落ちしてた訳ではない。
すぐに魔物が溢れでてくると思って、待機していた分隊が、警報の鳴らして迎撃体制で構えていたが、なにも出てこなかった。
あれ?もう終わったのかな?
と、みんな思った時だった。
中からゆっくりと何かが歩いてきた。
あ、強い個体とかいうボス的なやつかな?って思ったけど、違った。
「悪魔よ、みんな絶対に先に攻撃しちゃだめよ」
アディさんが、黒い剣を構えて言った。
カルディアも、真剣な顔でショートソードを構えている。
マークとエリサはいつの間にか魔族化している。
俺もとりあえず構える。周りの冒険者も構える。
悪魔だと?
「こんなに大勢でお出迎えとは嬉しいなぁ」
そう言いながらダンジョン入り口の穴からそいつは出てきた。
月明かりで相手の姿がくっきりと見えた。黒い髪、白い肌、目は黒い。右の額からツノが生えている。そしてでかい。
こいつが悪魔。スーツを着てるが、筋肉がすごくてパツッパツだ。
見た目は厳ついが、全く脅威感がない。
アディさんが明らかに焦ってる。
「悪魔が人間界で何してるの」
アディさんが悪魔に問いかける。
「お前は魔族だな。なんで魔族が人間と一緒にいるんだ。ん?古い血のエルフもいるじゃなねーか。お前らこそ、何してんだ?殺し合いか?」
「私たちは、ここを守っているのよ」
「そうかそうか。そいつはご苦労だな」
すごく大変そうだなって感じに喋ってる。なんなんだこいつ?
「俺はこのダンジョンの主と契約してたアデルってんだ。ちなみに、ここの主は良い奴だったんだよ。だが、死んじまった」
急にダンジョンマスターの話しを始める悪魔。
「契約主が死んだら、契約は無効のになるはずよ。なら、あなたはもうここにいる必要はないはずよ」
アディさんドライだな。
「その通りだ。まぁ、聞けよ。あいつはな、ただ人間がダンジョンに来ないで欲しかっただけなんだよ。でも、お前ら頻繁にダンジョンに入ってきただろう?だから、このままだと人間が攻めてくるぞって教えてやったんだ。そしたら助けてくれって、俺に泣きついてきてな。契約してやったんだ。特別に友達にもなってやった」
攻めて来たわけではないが確かに調査のためにダンジョンに入ったのは事実だ。
でもきっと、この悪魔がわざと主を不安にさせて契約したんだろう。
「面倒なのはごめんだったから、みんなぶっ殺しちまえば良いと思ってな。ダンジョンコアに俺の魔力を注ぎ込んで、どんどん魔物を作らせて溢れらせたんだ。でも、コアがしょぼかったからしょぼい魔物しか作れねんだよ。だから思いっきり魔力を注ぎ込んでみたんだ、コアにな。そしたらあっけなくコアが壊れちまって、友達と一緒に消えちまったんだよ」
もろいよなぁとか言いながら、笑って話している。
友達だったんじゃねーのか?胸糞悪いやつだな。
「まぁ、経緯はどうあれ、おまえらの所為で俺の友達が死んだってことだよな」
「えっ」俺達
「えっ」冒険者達
まじで悪魔わけわかんねーな。
でも、上層のオーガよりも全然弱そうなんだが、なんでアディさんはあんなに焦ってるんだ。なにかきっとあるんだろう。警戒だけはしておかなくては。
たぶん、俺以外の誰もが、お前がって思ってる中、理不尽な悪魔が急にキレ始めた。
「え、じゃねーよ。ゆるさねーからな」
最後の言葉とともに、息ができないぐらいの重圧がかかってくる。
俺はなんとか身体強化で体制を維持できた。後ろの冒険者達は、高ランクの冒険者以外倒れてしまっている。中には、気を失ってるものもいるようだ。
くっそ、油断した。なんだこいつ、バ、バケモノだ。さっきよりもとんでもなく大きく感じる。だめだ、動けない。気持ちが折れるとかいう話じゃない、どんなに頑張っても、無理だ。絶対に勝てない。
「さぁ、かかってこいよ。特別に俺の気がすむまで遊んでやる。友の弔いで街ごとぶっ潰してやりてぇ所だが契約がもうねーからなぁ力は使わねぇ」
こうして悪魔との戦闘が始まってしまった。
悪魔は、殺気全開で俺らをただ見ていた。こちらからの攻撃を待っているようだった。
「なんだお前ら?攻撃してこねーのか?じゃぁ、俺から行くぞ」
そういって、悪魔は消えた。
「タケシ、後ろだ!」
だれかの声が聞こえる。それと同時に俺の後ろから悪魔の声が聞こえてこう言った。
「てめぇが一番びびってんなぁ、わかるんだよコエェんだろ?動けねーんだろ?」
笑いながら俺を蹴り飛ばす。高く舞い上がって、そのまま地面に頭から落ちる。地面い叩きつけれる瞬間、カルディアに抱かれていた。カルディアの回復魔法で、なんとか意識を保つ。身体中痛い。
「タケシ、こいつは無理だ。誰も勝てない。下手に標的になるな、静かにしていろ。私とアディで時間を稼ぐ、その間に逃げれたら逃げろ。こいつは悪魔だから飽きたら帰るかもしれない」
「な、なに言ってるんだよ」
「じゃあな、タケシ」
待ってくれ、やめろカルディアやめてくれ。
カルディアは、動けない俺を横に寝かして、アディさんと一緒に悪魔に斬り掛かっていった。それこそ、今まで俺が数年間カルディアと一緒にいても見たこともないぐらい強い魔力を纏った状態で挑んでいった。
悪魔に斬りかかる二人。悪魔はガードすることもなく。好きなようにさせている。でも、決して倒れることはないし、ダメージを受ける感じもない。
二人の動きが止まったところで悪魔言った。
「それで、終わりか?つまらねーな」
その後、すぐに二人とも一発で殴り飛ばされてしまった。
もろに拳を受けたカルディアが俺の方に吹っ飛ばされてきた。すぐに近づい回復魔法をかける。息はあるから、伸びてるだけだ。無茶しやがって。
俺たちの様子を見ていたSランクの冒険者達が数人果敢に挑んでいったが、皆殴り飛ばされてしまった。
「だらしねーな人間」
アディさんは、エリサに起こされていた。
そして、立ち上がり剣を構えて、また悪魔に向かっていった。アディさんもう無理だ。剣ごと叩き倒されるアディさん。
「エルフも人間も大したことねーが、魔族の嬢ちゃんは根性があるようだ。でも、もうボロボロだな。死んじまうぞ、ほら」
悪魔が思い切り拳を振り上げる。あんなの直撃したら死んじまう。
「アディさん、だめだ逃げろ」「アディにげて!」
振り下ろされた悪魔の拳。爆音とともに立ち上がる土煙。
俺とエリサは、ただ叫ぶことしかできなかった。
振り下ろされた拳がぶつかる前に、アディさんが後ろ吹き飛んだのが見えた。
土煙からマークの姿が見える。
悪魔がアディさんを殴ろうとした時、マークが間に入って振り下ろされた拳を止めたようだ。
そして、土煙が収まってマークの全身が見えて俺は絶句した。
悪魔の拳がマークの両腕だったものと一緒に肩にめり込み、マークの体を大きく変形させてしまっているのが見える。
「なかなかやるじゃねーかお前。魔族か?いや違うな、人間だな。人間のくせにこんな力があるなんて、すげぇじゃねーか。でも、続かねーとつまらねえぇな」
つまらなそうに蹴り飛ばされるマーク。
だ、だめだ、あれは、まずい。まずい、まずい。
口から大量に血を流してる。片方の肺は完全に潰れてる。マークが死んじまう。
マークがアディさんの方を向いて、何か言っているみたいだ。口が動いている。
アディさんが体を引きずって、マークを守るように覆いかぶさった。
くそ、フラグはへし折ったはずなのに。
フラグ、そんなの何も意味がない。何言ってるんだ俺は、これが現実だ。
どうしたらいい、どうしたら良いんだ。やばいやばいやばい。
「なんだ、お前ら仲良いな。それじゃぁ、一緒に潰してやるよ」
やめろ、やめろ・・・
「やめろぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!!!!」
カルディアを置いて、何も考えずに悪魔に向かって飛び込んでいった。あまりにも無謀だ。
俺が飛び込んで行っても、二人を助けることはできない。
無駄だとわかっているが、勝手に飛び込んでいった。
あと2メートルぐらいというところで、黒い塊が横をすり抜けていきバランスを崩して倒れる俺。
そこからは、すべてスローモーション。倒れながら、俺は黒い塊をぼーっと見ることしかできなかった。
それは、俺の横を通り抜けそのまま悪魔を殴り飛ばした。
今までなかった初のこちら側の有効な攻撃だ。
徐々に感覚が戻ってきて、黒い塊がエリサだったと分かった。
エリサの後ろから巨大な拳がでていて、それで悪魔を殴り飛ばしたのだ。
「今のは効いたぞ。お嬢ちゃん。まさか精霊から攻撃をうけるとはな。物騒だな人間界は」
悪魔の半身が赤く光りながら再生している。どうやら、体半分を消失させる威力だったようだ。
「まさか体半分も持ってかれるとは思わなかった。油断した」
エリサは何も答えないが、そのまま高速で移動しながら悪魔を殴り続けた。
悪魔は殴られるたびに、体が徐々に消失していった。
「調子にのるなよお嬢ちゃん」
高速で移動するエリサを黒いオーラに包まれた悪魔が蹴り飛ばした。
蹴られた箇所の闇の精霊の一部分が消失している。
「まさかこんなに魔力を使うとは思ってなかったが、遊びは終わりだ。ここまできたら契約がなくても力を使わせてもらう」
悪魔から黒いオーラが吹き出てきて、周りを包み込む。
周囲が暗くなり始め、重圧なんてもんじゃない、オーガに上から押さえつけられているような感覚で、俺は地べたに這いつくばって動けない。
く、苦しい。息が、息ができない。
残る魔素を全部使い切るぐらいの力で、俺を含めた周りやつらに全力の身体強化をかけた。なんとか、それで俺は息が吸えた。
カルディア、カルディアは・・・よかった、大丈夫そうだ。
周りを見ると、みんな同じように地べたに這いつくばっていた。まともに立っているやつなんていなかった。エリサ以外は。
エリサだけは、立って悪魔に殴りかかっていた。でも、ダメだった。
あんなに高速に動いて悪魔を翻弄していたはずなのに、ダメージだって入ってはずなのに。黒いオーラがで始めてから、悪魔はただずっと立って、エリサの攻撃を全て受けていた。
エリサがいくら殴ろうと、もう体の一部を消失されることはできなかった。
そして、エリサが悪魔に捕まった。片手で首を締めらえている。
「さぁ、捕まえたぞ。これで終わりだ。邪魔な殻は剥ぎ取ってやろう」
闇の精霊の部分だろうか、悪魔が剥ぎ取り地面に叩きつけた。
ルーさんだったろうか、黒い小さな塊が残る。
「おやおや、よくみりゃぁ随分可愛い顔してるじゃねーか。気に入ったよ。お前、俺の家に飾ってやるよ」
もうダメか、もうダメなのか。
悪魔は、エリサに何かをしようとしている。
マークは瀕死。アディさんもカルディアも動けない。
そして、なんも役になってないけど俺もボロボロ。
他の冒険者も動いていない。
悔しくて涙が出てくる。
たのむやめてくれ。俺の仲間を殺さないでくれ。
もがきながら、悪魔に向かう俺。
次の瞬間、事態が急変する。
唐突に悪魔の手が切れて、エリサとともにドサっと地面に落ちた。闇の精霊がよろよろエリサに近寄ってエリサを覆った。
何が起きた?状況がわからない。悪魔の方を見えると、もう一人悪魔が増えていた。
また悪魔だと、終わった。俺はそう思った。
でも現実は違った。
「やめなさい」
もう一人の悪魔が喋る。
「てめぇは・・・悪魔か?何しやがる!!」
どうやら仲間では無いようだ。
「もうやめなさい」
この悪魔はやめろとしか言わない。
「誰だか知らねーが、なんでお前の指図を--」
徐々にアデルの体が薄くなっていく。
「お、お前。わ、わかった。わかった、やめろ。やめてくれ」
急にアデルが、焦り始めたのがわかった。
なんなんだこいつは、アデルよりも強い悪魔なのか?
「おい、人間ども。横槍が入っちまったから引き上げるとするよ。運が良かったな。また縁があったら会おうじゃねーか、あばよ」
そういって悪魔アベルの姿は消えた。周囲の黒いオーラはなくり、体が軽くなった。やっと普通に息が吸えた。これは、助かったのか?
そうだ、もう一人いるまだ終わりじゃない。
すぐにもう一人を探す。
もう一人の悪魔は、意識のないエリサのそばに立って「僕の契約は過去も対象となります。さようならエリサ」と言って消えていった。
契約?な、何だ?なんの契約だ?
そうだ、そ、そんなことより、はやくマークに回復を--
そこで俺の意識はなくなった。
普通の会社員の異世界冒険物語〜仲間から追放される訳でもなく、寝取られそうな幼馴染がいる訳でもなく、だから復讐もなく。程々に強いがちやほやされる訳でもなく、悪い奴もそんないない異世界で必死に生きる〜 ときすでにおすし(サビ抜き) @time_is_sushi
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