願いを叶える記事と、友の願い⑫




冬弥が消えてからの数日は、友亜も完全に立ち直ることはできなかった。 自分を犠牲に、友亜がこの先笑っていけるように願ってくれた冬弥。 

もし自分が死ぬことを考えたら、それだけで震えそうになるくらいに怖い。


「友くん・・・?」


現在は、千晴と一緒に屋上へ来ている。 この場所が最も冬弥に近いと思ったからだ。


「ごめんごめん。 ちょっと、ボーっとしてた」


あれから、というより友亜は一度千晴の告白を保留にした。 最初は自分だけが幸せになっていいのかと思ってしまったためだが、悩みに悩み、結局は付き合うことにした。 

元々千晴のことは好きだったし、冬弥もそれを望んでいるのではないかと考えたのだ。


「手作りにしてみたんだ」

「わぁ、凄い! 本当にこれ、食べていいの?」


昼休み、千晴が作ってくれたサンドイッチを見て友亜は楽しそうに笑った。 冬弥の願いは自分が笑うこと。 そして、友達に囲まれること。

願いを叶える力を失い、どうなってしまうのか分からなかったが、意外にもすんなりみんなはそれを受け入れてくれた。

というのも、願いが叶うという現実が、明らかにおかしいことだときちんと分かっていたためだ。


―――冬弥・・・。


幸い、友亜の周りは明らかに人が減ったが、友達として付き合いを続けてくれる人も多くいる。 男女問わず、それは友亜の性格のよさを知ることができたからだろう。


―――僕、頑張ってるよ・・・。


時にはくじけそうになることもある。 酷い言葉を言われたこともあった。 新聞部の部員も、三分の一程に減ってしまったということもある。 

だがそれでも、自分一人だったらこうはいかなかっただろう。 千晴の作ったサンドイッチを食べながら、記事やメモを書いていた冊子を開く。 思えば多くの願いを叶えたと思う。 

大体は些細な事だが、冬弥との思い出として友亜にとっては宝物。


「冬弥くん、見守ってくれているかな?」

「冬弥は面倒見がよくて、信頼できる親友だから、きっとね」


千晴には冬弥のことを全て話した。 だが、魂が消滅しただろうということは言っていない。 それを考えるだけで心が痛む。 

誰かを守るために自分が犠牲になるだなんて、守られた側は余計に苦しくなるのだ。


―――本当は知っていたんだ。

―――冬弥が、僕が付いてくることを想定して、何でもやってくれているということ。


利用していたわけではないが、それに甘えていたのは事実だ。 冬弥の言うことやることに、間違いはないと。


―――でも、これからは自分で選ばなくちゃいけない。


使っていた冊子には、気付いていない最期の言葉が書かれていた。 おそらく願いを書いた後に、冬弥が書いたものだろう。 風になびきパラパラと揺れるページに、その言葉が映った。


『友亜と親友でいれて、俺の人生は本望だったよ』




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願いを叶える記事と、友の願い ゆーり。 @koigokoro

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