第26話 採掘ダンジョン、そして浪漫砲


 王都から数日歩いた距離にある資源採掘用ダンジョンは多くの学者や錬金術師が研究に必要な鉱石などを採取するために潜っている。

 故にこの地を訪れる冒険者は学者に雇われて小遣い稼ぎをしている低レベルの者が大半だ。


 それ故に。


「な、なんだよ……アレ……」


 ダンジョンの入り口に陣取る黒い全身甲冑を纏い大剣を手にした大男。

 それは何かを探しているように辺りを見渡していたのが……。


『少しよろしいかな?』


「ひ……! な、なんでしょうか?!」


 鎧男に声を掛けられたことで学者風の痩せ男はうわずった声を上げてしまう。

 しかし鎧男は痩せ男が怯えていることを気にせず話を続ける。


『ダークレック結晶をこの地で採掘できると聞いたのだが、それが何層にあるか知っているか?』


「ダークレック結晶ですか!? あれが採れる第50層だと言われてますが」



 その解答を聞くと鎧男は足早に地下へと続く魔道昇降機へと乗り込み操作を開始する。

 痩せ男以外の学者たちも皆一様に恐怖ですくんでいたが、魔道昇降機が降下を開始する駆動音を聞いたことで重要なことを思い出す。


「50層は危険なモンスターが出現したらしく封鎖されてますぅ!! 戻ってきてください!」


 しかし時すでに遅し、昇降機は完全に地下へ潜ってしまっていた。

 それを見て学者たちは顔を見合わせると各々の作業へと戻り始める。


 騒動になりそうな要因から見て見ぬふりをする。

 それは"狂気の研究者反逆事件"が起きて以来出世欲を強め、《事なかれ主義》に汚された研究者らにとってそれは極めて当たり前な行動だった。





 視界の片隅に電撃蝙蝠の大群が映ったので《ヒートレーザー》で纏めて処理する。

 あれに噛みつかれると暫く身動きが取れなくなるからな。この改良型マジック・シートでも攻撃を完全に防げるわけではないから身に迫る危険は予め排除しておかないと。


 ということで私は数日前の試験脱走の結果を見て改造した戦闘用擬態マジックアイテムを纏っていたのだけど。


(やっぱ警戒されてるっぽいな……)


 馴れ馴れしく近寄られるよりはそちらの方が好都合なのだけど、ああも怯えられると今後の冒険者としての活動に影響が出るかもしれない。


 それはさておき、今日のお目当ては魔力阻害の特性を持った稀少鉱石シルエット・ストーンの一種”ダークレック結晶”の採取だ。これは市場でも出回ることはなく、仮に出回ったとしても殆どが騎士団やアカデミーに買い漁られてしまうから欲しければ自分で直接取りに行くしかないという。

 さらに言うと上層のシルエットストーンは完全に取りつくされたらしく、現在は強力な魔物や瘴気に支配された50層以下の危険域のみで見つかっているらしい。


 故に出し惜しみはしない。というか遠慮せずに全力全開で魔物を吹っ飛ばしていこう!

 そう考えていた矢先、進路上に危険度Aランクのモンスター《ガラス・バッド》の群れが現れた。


(試運転には丁度いいかも)


 マジックシートに戦闘態勢への移行を告げる魔力を流すと、鎧は一人でにこの身体から剥がれ浮遊する大砲のような姿へと変形する。


「放て!」


 その号令を合図に、《マジックシート》改め《マジックキャノン》は《ヒート・レーザー》を数十倍に強化した極大攻撃魔法レーザー・タイフーンを水晶蝙蝠の群れを一息で蒸発させてしまう。


 膨大な熱量によって生じた蒸気や解けてガラスに変化した岩を見て改めて思った。


「うん。やっぱり小手先の小細工より馬鹿力だな!」


 さあ、この調子で歯向かう敵を残らず一掃していこう!




―――――



「—―対象が行動開始。魔力量から《賢者》と推定。このまま尾行を続ける」

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転生したら公爵家の《養女》な《幼女》だった件 カボチャマスク @atikie

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