第25話 冒険者登録、そしてダンジョン挑戦の資格
実に簡単なことだった。というより答えは既にサラ(を名乗る少女)についての考察で思い至っていたのだ。
確かに自分に似せるだけならマルを少し改造するだけで事足りる。だが違和感を隠しきる事は出来ない。人間というのは案外細かい所作まで記憶している。
だからその人物のことを良く知っている者が周囲にいると呆気なくばれてしまう。
そうなれば色々と面倒くさいことになるのは目に見えている。
だが思い返すと自分は殆ど全く表舞台に姿を現していない。事実リリウムは私のことを殆ど全く知らなかったのだ。
だったら事は簡単に終わる。
「というわけで明日明後日は自分の代わりをしてね」
「私が、ですか?」
早速工房に入ってマルに頼み込む。
「ですが私の機能ではマスターの完全な模倣はできません。専用の改修を施さないことには」
「そこは大丈夫。こいつを着てもらうから」
そう言って魔術冷凍庫から一枚の透明質な皮を取り出す。
「こいつはこの前の悪魔の性質と《リーディング》を組み込んだ変装用のマジックアイテムだ。これを被って常識的な行動をしてれば多分バレない」
「マスターが常識的な行動……?」
「そこに引っ掛からなくていいから。とにかく3日間代役よろしく」
「はぁ、わかりました」
そう言ってマルはマジックアイテムを羽織る。すると皮は勝手に彼女の体にフィットするよう収縮し包み込む。
後は私の血を一滴だけ垂らして……。
「わぁ……、本当にマスターにそっくりになっちゃいました」
「身長はちょっと高くなってるけど、誤差の範囲内だな」
そう言って彼女に予備の制服を渡す。
「それじゃあ自分はこれから街に行くから、後のことはよろしく!」
「はい。ごゆるりとお楽しみください」
予備のマジックアイテムを持ち出し、周囲に人がいないことを確認したら窓から飛び出す。
久しぶりの娑婆の世界だ。少し羽目を外して楽しむとしよう。
♢
街中を幼女が1人で出歩いていることに違和感を感じないのは、恐らくよっぽどな世間知らずくらいだろう。
目的はどうあれ多くの人が声をかけるだろうし、そうなったらすぐに身元が割れてしまう。
となると変装して赴く以外にないわけだが、そうなると威圧感のある恰好をした方がいいだろう。
というわけで思いつく限り怖そうな人間をイメージしてマジックアイテムに投影させた結果――。
「(これじゃあ鎧、というより着ぐるみだな)」
元々の身長が142センチなのに変装後は201センチ。しかも全身を鎧と包帯で覆っているから傍目から見るとダンジョンから逃げ出したモンスターにしか見えない。
流石にやり過ぎたのか、注目を集め過ぎている。なんせ少し歩くだけでその周囲にいる人間の視線が一気に向いてしまうのだから。
だが因縁をつけられることはない。事実……。
「が、ガイさんの冒険者登録とダンジョン入場許可証がこれです。Fランクなのは規則なので……!」
『問題ない』
変声魔法でかなり無機質な声になっているからか受付嬢は今にも気絶してしまいそうなほど緊張している。
申し訳なさを感じつつ発行された2枚のカードをポケットに仕舞い込む。
何はともあれこれでダンジョンに入る術は手に入れた。とりあえず化かすことが出来たのかを確認するために今日はこのまま寮に戻るとしよう。
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