第4話 最後のラーメン
もののついでなので、山形にも電話してみることにした。やつは秋田と同じでパソコンの前にいるよりも、田んぼの真ん中にいるタイプなのだ。
「はい、山形でしたぁ」
「あ、もしもし? 岩手だけど。大丈夫か?」
「あ、岩手さん! よかったぁ無事だったんですね……!」
電話に出たのは案の定、涙声の山形である。気が優しく、人見知りがちの彼にとって、ギャーギャーうるさい人間は天敵だ。ゾンビなどもってのほかだろう。
「今、どこにいるんだ?」
「あ、えぇっと……みんなで、最後の晩餐をしてるとこです……」
あはは、と弱々しく笑う山形の声に紛れ、なにかを啜る音が激しく聞こえる。
「最後の晩餐って……」
「まあ、そんなにお高いものではないですけど」
「山形、まだ昼間だぞ」
「いや、今そこ突っ込む?」
いくら俺でもそれくらい知ってるからね?
そう呆れ気味に言って山形も何やらずるずる啜る。
「ちょうどお昼だから、いつものラーメン屋に来てたんですよねー。そしたらもう急にこれじゃないですか。バリケード作って立てこもってるけど時間の問題だし……それなら最後にみんなでラーメン食おうか? ってなって」
「お前は気が弱いのか肝が据わってるのかどっちなんだ?」
よくその状況で食べられるな、と妙な方向に尊敬の念を感じざるを得ない。
「いやー、だってもう食わなきゃやってらんないです。せっかく水張った田んぼは荒らされるし、町もめちゃくちゃだし、あー、蔵王温泉の方も大変なことになってんだろうなあ……芋煮の味付けを巡る対立以上の戦いなんてここ数年してなかったのに」
「何か、店に使えそうなものはないか? ラーメン屋ならそうだな、ほら、小麦粉で爆弾作るやつとか」
「粉塵爆発ですか? そんなことしたら、俺らも一緒に吹っ飛んじゃいますよ」
「そうだよな。お前は何か持ってないのか?」
「うーん、食べかけのオランダせんべいしか……あ、」
通話口からがさがさと音がする。
「なんか見つけたか?」
「おふだがあったんです……この前青森さんとこに行った時、頂いたやつですよ」
「おふだか。まあ、なんでもいいから、試してみたらいいんじゃないか」
正直、青森の不思議なところはたまにわからないなと感じる。この時代になぜ、お土産におふだなのか。だが、いい奴には違いないし、ひょっとしたら何か訳あっての事なのかもしれない。まさか、かの恐山の力によってこの事態を予測していたのか。とにかく試す価値はあるだろう。
そして数分後。
電話口から大興奮の山形の声がした。
「どうだった?」
「岩手さん、これすごいですよ! 壁に貼ったら、なんかゾンビたちが離れていきます!」
なるほど。どうやら厄除けの札だったらしい。
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