第2話 ゾンビ・ストーリーは突然に




「ああ〜〜よかった〜〜〜。外、ゾンビだらけで超怖かった……」

 中に入るなり、秋田は背中と両腕に背負った大荷物を下ろし、リビングのソファにダイブした。リュックの中からゴトっと重々しい音がし、気になってそっと中を見てみると、何本もの猟銃があった。


 俺たち都道府県は、普通の人間とは違う存在なので、肉体の損傷程度では死なないし、ゾンビに噛まれてもゾンビになることはない……と思う(データも何もないので全然確証はない)。


 だがどちらにせよ負傷・流血は普通にするし、歳すら取らないくせに痛みだけは生々しく感じる、という至極適当な体ではある。だから秋田はマタギの技術を駆使して、襲いかかるゾンビたちの中を必死でやって来たらしい。

「ゾンビって、やっぱ熊より怖い?」

「熊より怖いよ〜。あ、いや待って、熊のが怖いかなぁ……あいつらクソ力強いからやっぱ熊のがヤバい」

「噛まれてないよな?」

「噛まれてないよ。今日は朝から山にいてさ。山菜採りのおばあちゃんがまーた迷子んなって降りれなくなってたから、道案内してやったんだ。んで町に降りたら、人っ子一人いないの。みんな怯えた顔して家に引きこもってる。おばあちゃんを家族と住んでる家に帰した時に、その家でニュース見してもらったんだけど、もうびっくり」

「お前スマホ買えよ」

「買ったわ! たまたま今日は、存在を忘れてただけで……」

 その時、テレビから新しいニュースが流れて来た。

 キャスターが各地の無人カメラの映像とともに原稿を読み上げているが、カメラ搭載のドローンがゾンビに壊されるなどして悲鳴が上がる。しかしなんとかキャスターは冷静さを保ち、『ゾンビは音と光に反応するからニュースは音量を下げてイヤホンで聞くか、ラジオ放送を聞くこと』、『ゾンビはなんらかのウイルス感染者であり人に襲いかかってくること』、『感染者に噛まれることで他へ感染すること以外は何もわかっていないこと』、そして何より『絶対外に出ないように』と繰り返し視聴者に伝えている。

 ため息をついて、俺はテレビの音量を下げ、字幕表示をオンにする。

「全然収まってないみたいだな。うえは何をやってるんだ」

「いつものことだべ。自分でなんとかせにゃ」

 そう言うと、相当疲れていたのか秋田はぐうぐう寝始めた。


 俺がゾンビのことを知ったのは、書斎での研究データをまとめていた時のことだ。


 作業中にラジオを聞くのが日課だったので、そこから外で何か事件が起こっていることを知ったのだ。しかしそれでなくても、思えば朝から少し体の不調があった。俺はそこであることに気づいて頭が真っ白になった。都道府県おれたちの性格や体調はすべて、住民のあり方に左右される。だからこれ以上感染が広まれば、噛まれようが噛まれまいがそのうちゾンビ化してしまうだろう。


 都道府県がゾンビ化するようなことがあれば、当然それはうえからの解体処分につながり。


 そうなれば人々は永遠に、故郷とアイデンティティを失ってしまう。


 恐ろしくなった俺はとっさに玄関にバリケードを作って、ひたすら震えた。こんなことが現実だとはとても信じられなかった。自分が死ぬことも当然怖かったが、県民みんなが死ぬことが怖かった。昨日まで平和に暮らしていた人たちが、無残にゾンビに襲われゾンビになっていくのを想像しただけで恐ろしく、あれこれ打開策を頭の中で考え続けるも、全然いい案が浮かばない。

 そんな時、玄関が猛烈な勢いで叩かれた。


「一体、どうしてこんな事態に……」

 

 秋田に毛布をかけた俺は、情報収入をするべくノートパソコンを開くことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る