恋話

「それで? 湊君は香奈のどこが好きなの?」

「え、えぇ!?」

「……そんなに驚かなくてもいいのに」

 おばさんが前のめりになってそういうことを聞いてきたので、俺は驚いた。

 それもそのはず。

 おばさんは『自分とパパの子どもなんだから魅力的なのは当然だわ』とくらいは思っていそうで、そんなことに興味を向ける人だと思っていなかったのだ。

 それとも、改めて俺の口から聞きたいのだろうか。きちんと娘の良さを言語化出来るかの試練なのかもしれない。

 ……もしかして今、恋人としての資質を試されてる? それとも、考え過ぎ?

「あ、それ私も聞きたい!」

「聞きたいわよねぇ」

 カナもまた前のめりになり、目を輝かせて俺のほうを見つめてくる。

 本人を前にして、良いところを挙げるのか……。

 恥ずかしいが、好きなところを挙げるのをためらってしまうのは良くないだろう。

 ここは素直に、そして堂々と答える。

「もちろんカナのことは全部好きなんですけど、特に好きなのは天真爛漫なところです」

 おばさんの顔が、パッと明るくなった。

 どうやら、悪くは受け取られなかったようだ。

「あぁ。分かるわ、すごく。天真爛漫といえば、うちの香奈みたいなところあるわよね」

「そ、そんなことはないと思うんだけどなー!?」

 対するカナは思ってもみなかった答えのようで、とても驚いていた。顔に赤みがさしているので、少し恥ずかしさもあるのだろう。

「そんなことあるよ!」

「みっちゃんは自信満々に頷かないでよー!」

 そうは言われても、おばさんの言葉には同意しかないのだから頷いてしまうだろう。

「褒めてるんだよ?」

「わ、分かってるけど……」

「多分なんだけど、香奈は天真爛漫って言葉を子供っぽいと解釈したのよ」

「う」

「なるほど」

 反応を見るに、図星らしい。

 言われてみれば、天真爛漫という言葉は子供に向けられることのほうが多い気がする。そうだと母親にも恋人にも主張されれば、あまりいい気分はしないだろう。

「でもきっと、湊君は子供っぽいって言いたいわけじゃないんでしょう?」

「そうですね」

 子供っぽくないとは言い切れないが……俺が言いたいのはそういうことではない。

「あのね、カナ」

「うん?」

 頭の中でどう答えようかゆっくりと整理しながら、言葉を続ける。

「天真爛漫にはたしかに、子供らしいという意味もあるよ。でもね、俺がカナに言いたいのは飾らず自然のままの姿ってことなんだ」

「自然のままの……」

「うん。カナ自身が飾らない自然体だからこそ、同じく自然体の俺を見てくれて、それでいてきちんと受け入れてくれてるでしょう? 俺はそれを、誠実だと感じるんだ」

 目線の先にはカナ。

 そして向こうにはおばさんがいる。

 話す内容は、カナの良いところ。

 ……就活の時の面接って、こういう気分なのかもしれない。

 上手く文章として成立しているだろうかと不安になりながら、言葉を繋いでいく。

「その誠実さに応えられるような人間になりたいと思わせてくれるし……そういうのをすべてひっくるめて、俺はカナのことが大好きだよ」

 膝の上に置いた手のひらに力が入る。

 出来る限りなんでもないような表情を保っているが、全然保てていないような気がする。

 それもそうだ。俺はどうして、おばさんもいる前で大好きだなんて告げているんだろう。いや、これは流れ的に不可抗力なんだ。こういうところに誠意が表れ……これは果たして、誠意なんだろうか?

 分からない。助けてほしい。

 脳内で理由になっていない言い訳と、誰に向けるでもない救援を出しながら反応を待つ。

 目線の先のカナが、ふっと笑った。

 それにつられて、おばさんも笑う。

「素敵な恋人ね、香奈」

「ふふん、そうだよ! 私の恋人さんはとっても素敵なの!」

「あらあら、さっきまで子供っぽいって言われて怒ってたのに」

「そ、それはそれ! これはこれ!」

 ついにおばさんは声をあげて笑い始めた。

「というか、予想以上に真剣に答えられてびっくりしたわ」

「私も、もっとキャピキャピした恋バナ的なノリかと思ってたからびっくりしたよ!」

「え」

「そんなこと思われてたなんて全然思ってなかったから、すごく嬉しいよ」

 全然そんな雰囲気だと思っていなかった。

 やはりというかなんというか、考え過ぎだったらしい。かなり照れ臭い。

「高校生なんだし、もっと『顔がめちゃくちゃ好みなんです!』みたいな俗っぽい理由でもいいのに。実際、カナって並以上にかわいいと思うし」

「いや、カナは誰よりもかわいいですけど……!」

 それはもう、全力で同意するほどかわいい。幼馴染の贔屓目を抜きにしてもかわいいけれど、

「かわいいってだけで、一生を添い遂げようなんて思いませんよ」

「あら。一生を添い遂げてくれるの?」

「う、え」

 どうやら墓穴だったらしい。

「こ……言葉の綾で……」

「えっ! 添い遂げてくれないの?」

「途中で見捨てるの?」

「そんなこと俺がすると思ってるんですか……?」

「冗談よ」

 おばさんのほうが一枚上手だ。

 それからも色々と聞かれてからかわれるという自体になったが、悪い気はしなかった。こういう交流も大事だと思うし……うん。きっと。

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デモネ、スき。 城崎 @kaito8

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