レンタル魔女は、返却不可!(仮)

工藤 流優空

気持ちもあめ。天気も、あめ。


 あめは、きらいじゃない。

 でも、今日はちがう。だって、だって……っ!


「なんでこんな日に! かさを忘れちゃうかなっ」

 

 ほんとにもう! あたし、一生の不覚!!!


 大事な大事な、あたしの相棒が! このままだと、びっしょびしょ!

 あたしは走る。全力で走る。

 運動会のリレーの時だって、こんなに早く走ったことないんじゃないかな!?


 そう思えるくらい本気モードであたしは足をフル回転させる。

 水たまりをふんだって、気にしない。あたしはぬれたって、かまわないんだから。


 この上から降ってくる水が、全部あめだまだったら、どれだけいいかっ!

 考えたってムダ。そんなことより、早くおうちに帰らなくちゃ。


 そんなことを思っていた時。あたしの腕から相棒がするりと落ちちゃった!

 そして、落ちた先は……。まさかの水たまり!

 ぽちゃん。小さな水音は、あたしの絶望の音。


「あー!!!!」


 あわててだきあげたときには、もう手遅れ。

 ふわふわだった手触りは、びちょびちょに。

 ぴんと立ったかわいいお耳は、へなりと曲がって。

 ついでにあたしの気持ちもぐにゃりと曲がっちゃって。


 あたしの口からは、思わず大きなためいき。

 そして、水たまりにもう一つ落としたものがあることに気づいたんだ。

 ぐっちゃぐちゃに丸めた作文用紙。

 もう二度と、見たくもない。

 私の気持ちも、ぐっちゃぐちゃ。


 どうして、こんなことに。あたしは、相棒をかかえて立ちつくした。

 

「こんなことって……。あんまりだよぉ」


 あたしはつぶやくように言って、水たまりをにらんだ。

 すると、ふしぎなことが起こったんだ。

 水たまりが、波打ってさっきまでなかったものをうつしだしたの。

 水たまりにうつったものを見て、おどろいた。

 そこには、今まで見たこともないような建物があったんだ。

 

 まるでおとぎ話に出てくる、お菓子の家みたいな建物だった。

 あたしは思わず、建物があるはずの方向を見上げた。


 ピンクや水色、かわいい色がいくつも組み合わさった家だった。

 なんて、派手なおうち。

 今まで何回もこの通学路を通ってるはずだけど、こんな建物、あったっけ。

 その建物には大きなかんばんがついていて。


『レンタル魔女紹介所』


 そう、書いてあった。レンタル魔女?

 レンタルビデオ屋さんなら、行ったことあるけれど。


 あたしは首を左にかたむけた。そこではっとする。

 お店だ! じゃあ、そこであめがやむまで、ひなんさせてもらおう。

 そしたら、相棒がこれ以上ぬれることもないし、おっことしちゃうこともない。

 相棒を今度こそしっかりだきしめて、あたしはお店の方へ走り出した。




 

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レンタル魔女は、返却不可!(仮) 工藤 流優空 @ruku_sousaku

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