-

 あの日の帰り道、いつもと何も変わらないはずの烏丸通は果てしなく長かった。走っても走っても終わらない、どこまでも続いている長い長い烏丸通。そう感じたのは、背後に彼女の気配を感じ、何度も立ち止まり、何度も振り返っていたせいかもしれない。しかし今になってぼんやりした記憶を思い返してみれば、やはりあの日の烏丸通は、僕をそこから帰さないという強い意志を持ち、実際に長くなっていたのではないか、と思わずにはいられなかった。

 その後、しばらくしてから一度だけ例のカフェバーへ足を運んでみた。もちろん約束などしていないので、彼女が僕の前に現れることはなかった。僕は初めて自分でアイリッシュコーヒーを頼んでみたが、二人で飲まなければ意味がないことに気づいてしまった。そのため、一切口をつけずに、彼女がいつも座っていた向かい側の席の前に、時間の経過とともにクリームとコーヒーが混ざり合ってしまったそれを放置して店を出た。それが最後だった。

 それ以来、僕は烏丸通に足を運んでいない。ただ、来週あたり、少し遠出して東京にアイリッシュコーヒーを飲みに行こうかと考えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

長い烏丸 KARASUMA GOODBYE 江戸川雷兎 @lightningrabbit

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ