第3話 むかいみなみ風

中2の夏。


私は当時吹奏楽部に入っていた。しかもそこそこ強い部活。担当楽器はクラリネット。自分で言うのもなんだが、そこそこ上手かったと思う。クラリネットは大所帯で15人くらい居たのに任されるのはいつも1st。先輩を差し置いて。

でも謙虚にみんなと仲良くしてた。今では考えられないけど。

波風立てないように、生きてた。

でも、事件は起きた。


私が同じパートの、1番の親友だと思っていた子に裏切られたんだ。


あれはコンクールのひと月前ぐらい。そこそこ強かった部活は毎日死ぬ気で練習してた。その時に『楽器泥棒』が出た。盗まれたのは部活で1番上手い先輩のトランペット。

もちろん楽器庫には鍵がかかってたし、その鍵も部員以外は触ることすら出来ない。


そう。『部員以外』は。


だから部内で犯人探しが始まった。

もともと女子間のギスギスが少なからずあったこの部活で犯人探しなんてトラブルが起きないはずがなかった。「私はやってない」とかの繰り返し。ギスギスしてたから、練習にも身が入らずに。


そうして迎えたある日。

その1番の親友に

一緒に楽器庫の掃除をしないかと言われた。

あの事件の後楽器庫にはあまり近寄りたくはなかったけど彼女の頼みなら、と。


そうやって楽器庫に入って楽器に手をかけた瞬間、


カメラのシャッター音が響いた。


驚いて顔を上げるとその親友がニヤリと笑ってスマホを構えていた。

ああ、嵌められたんだなって思った。


その後、私がどれだけ弁明してもみんなが信じてくれなかった。写真っていう証拠が撮られてたから。そうして即退部。あとからその親友はずっと私が1stを吹いていたのが気に食わなかったって言っていたらしい。もう知らないことだけど。


波風立てずに生きていたはずなのに、なんで。

そう思うと今でも泣くよね。


私の人生、理不尽。

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かぜのまぼろし ちーずけいく @cheese_cake

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