太陽と光
朦朧とする意識の中、何となくボンヤリと颯人の姿が見える気がする。
はは、幻覚まで見えだしたら終わりだよな、何て自分で嗤ってしまう。
その懐かしく感じる様な淡い幻覚は何となく俺の為に泣いている様な気がした。
その幻影は勢い良く俺を抱きしめ口を開く。
精液や汗、涙に血液で汚れている事など気にしていない様にグッと強く。
「俺のじゃなくていいからいなくならないでよ!」
叫び声の様なその声に一気に意識が引き上げられる。
「は、や、と?お、れ、きたな、い、ぜ?」
「そんなのどうでもいいよ。君が今、ここに存在してたら何でもいい。」
そう言われ胸が熱くなる。
また、こんな事言わせてしまったな、
「ごめんな、ありがとう。かえろうぜ?俺たちの幸せのゴミ屋敷にさ。」
「な、に、急に。てか、ゴミ屋敷なのは、翔のせいだろう?」
涙を拭い俺の顔を見て笑う。
そんな笑顔に釣られて何だか俺も笑ってしまう。
立ち上がった颯人は勢い良く俺を抱き上げる。
「い、た。怪我人なんだから、もっと丁寧に扱えよ。」
「はっ。良く言うよ、どうせ自業自得なくせに。」
「どうせ、ってなんだよ」
憎まれ口を叩き合いながら帰路に着く。
これは向き合うための第一歩にしか過ぎない。
やっと向き合えるぐらいまともになったって、スキニハなれないかもしれない。
それでも今はこの時間が尊くて大切で、颯人と過ごしていたいと心の底から思う。
「颯人、颯人、颯人。はやと」
何だか口にしたくなって沢山名前を呼んでみる。
どこと無く彼の口端が上がったのを見ると、俺は急に意識の糸がプツリと切れた。
「はやとぉ……」
—————。
————。
———。
知らないうちに眠りについてしまっていた様だ。
目を開けるとそこは見慣れた景色が広がっていた。
身体を起こし首を回し颯人を探す。
体の痛みはだいぶマシになっており、体に違和感を感じ見てみれば胴体は包帯でグルグルと巻かれていた。
「ははっ。家事はできんのにこう言うのは不器用なのかよ」
「あ、おきたの?おはよ。……仕方ないだろう、初めてなんだから。」
いないと思って口にした悪態はしっかりと、本人に届いてしまい俺は慌てて立ち上がり声の主のもとに急ぐ。
「違うんだよ、別に文句とかじゃ無くてさ。」
「いいけどさ、事実だし。あ……のさ。何でそんなに怪我と体液まみれだったか、聞いてもいい?一応、付き合ったるんだし、さ。」
歯切れ悪く続くその言葉に短く息を吐き笑いかける。
「セフレ全員と縁切った。ほら」
そう言いながら、もう既に器と化してしまった薄いそれを投げ渡す。
向き合うにはまずは信用が大事だからな。
「え、……ほんと、だ。」
「あとさ、履歴書の書き方教えて」
「なんで、急に?」
「別に。何となく。それが付き合う上での当たり前、だろ?」
俺が視線を外しながらそう告げると彼はが嬉しそうに笑ったのに気付いた。
その様子にこれが正解だったのかと安堵し顔を上げると優しく笑う颯人と目が合った。
朝ごはんにしようと提案する彼に頷き俺は野菜室を開ける。
いつも入っているのは確か……豚肉にキャベツに人参に玉ねぎ。
「そういえばさ、何で毎朝、野菜炒めなんだ?美味しいから良いんだけどさ。」
「確実に作ってやれるのは朝だけだからさ。それならせめて野菜取って欲しくてさ。」
そう口にしながらトントンと、小気味のいい音を立てながら野菜を切る姿に心臓が高鳴る。
俺のために、こんなに材料使うのに、手間もかかるのに。
何だか嬉しい様な気恥ずかしい様な、むず痒い気持ちになり視線を逸らす。
その視線の先には、太陽の光に二人分の指輪が輝いた。
意識をしてしまえばそれはとてもとても輝いて見え、頬を一気に熱くする。
激しく高鳴る心臓。おまけに変な汗までかく始末だ。
え?あれ?もしかして俺……もう?
照らすのは。 ゆゆ @yuyu08167
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます