上海蟹

水;雨

ーーー九龍城怪異譚より、九龍宝貝5 仙女水話から一部を改変して抜粋。

 宝飾のなされた珊瑚の森を、翠玉の丘を乗り越え来るは煌びやかな五色の陶磁器の上海蟹。仙人の潜水艇にて童子の戯れる玩具にて御座います。丘を二つ三つ超え過ぎて、彼の地にたどり着き、赤光を放てばそこに透かし見えるは水精たちのうたた寝姿。悪戯心の芽生えた童子、吹き出した泡を脇目も降らずどんどん拵えます。ふわふわ泡の絢爛寝台にゆらゆらのせられ、するすると上へ上へとのぼりのぼった水精たち、目覚めみれば嬌声をあげて九龍城へと広がりゆきます。しかして、陰へ入りて、尸解のわざに似たりけり。どうしたって童子の悪戯心は立ち消えず、今ではこの地の水脈、地脈は悪いことでつとに有名なのです。


 それで、九龍城には何故か敵対していた海賊が残した青磁の大水瓶が何処かに幾つも隠され、隠した者と共に、水精によって護られていると闇から闇へと囁かれ、そこには大昔に塩と香木で儲けた銀銀財宝がぎゅうぎゅうに詰め込まれていると言われます。

 九龍迷宮は地脈の合間を縫って巧妙に中華の無意識から睦出されているので、ここでは正常に事が運ばず、風水的に見ても気が淀んでいる悪地で、仙道的に見ても、外道が蔓延る魔境で御座います。

 そのような危地で秘宝を探り当てたければ、この地で買春、薬物売買、賭博とともに行われている違法行為で手に入る、この世に五匹しかいない陶磁器の上海蟹を博打に次ぐ博打で手に入れ、三日三晩紹興酒に沈め漬け、九龍城が奇跡的に寝静まった頃を見計らって、枕元に置いて寝入り、夢見る童子の隠れんぼに誘われて、自然を装いその秘所を見鬼しなければならないとされています。そこには真相が刻印されていると、道士の間でも密やかな噂になっております。


 ーーー九龍城怪異譚より、九龍宝貝5 仙女水話から一部を改変して抜粋。現代日本の仮名遣いを用いて訳出せり。李さん(仮名)の多大なる助力を得ましたことを書き添えておきます。ちなみにこの小話はとあるゲームにも大いに影響を与えたと言われており、何処かにその残り香があるやもしれません。

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