友達

@wakihiroki

友達

あるところに、少女がいました。


本を読むのが好きで、空想が好きな、夢見がちな女の子でした。


お父さんとお母さんは、会社員で、弟がひとりいました。


少女は、友達と遊ぶことよりも、本を読むほうが、好きでした。


それで、友達は、あまり多くありませんでした。


お父さんもお母さんも、仕事が忙しかったのか、少女のことを、あまりかまってくれませんでした。


弟は、素直な男の子でしたが、一緒に遊ぶには、歳が離れすぎていました。


少女は、勉強して、都会の大学に入りました。


独り暮らしは初めてでした。


大学に通いながら、本を読み漁りました。


ネットも、ページを読み漁りました。


好奇心の赴くまま、何でも読みました。


同じ年頃の女の子たちは、彼氏を作って、楽しそうでした。


少女も、男の子に興味がありましたが、男の子たちのほうは、彼女に興味が無いようでした。


大学を卒業して、会社員になりました。


本を読むだけの仕事は、見つかりませんでした。


本を読む以外にも、必ず、何かをしなければならない仕事しか、見つからなかったのです。


大人になった彼女は、ある時、気付きました。


この星には、何十億年も昔に、単細胞生物がくっついて、膜状になった群体生物が生まれた。


最初は、海底の砂の中で生まれて、生き延びた個体は、どんどん大きくなった。


そして、体の一部が、他の生物に食べられたり、天災や、環境の変化などによって、失われても、体の他の部分から細胞分裂して、治るので、ほとんど、死なない生き物になった。


個体のひとつひとつは、環境が許す限り、無制限に大きくなるので、とても大きい。


もしかしたら、大陸や、大洋と同じくらいの大きさがあるかもしれない。


そして、とても長生きで、何億年も、生き続けているかもしれない。


細胞分裂を繰り返して、成長するが、他の個体との有性生殖は行わなかった可能性がある。


そのため、遺伝子の交配による進化は起きなかった可能性がある。


ただ、個体のまま、放射線などの影響で、少しずつ、遺伝子が変化して、ゆっくりと進化していった可能性がある。


やがて、海と陸の境を経て、陸の上にも、広がって行った。


陸の上では、土の中の雨水の染み込むところや、さらに深い地下にも、広がって行った。


今も、それらの生き物は、この星に、何体も生きているが、とても見つけにくいので、人間たちは、今まで、気付かなかった。


海底の砂や、大地の土を掘り起こしても、この生き物の体は、薄くて、すぐに壊れて、砂や土の中に混じってしまうので、見つからなかったのだ。


まれに、破片となった体の一部を、見つけた人間たちも、小さな単細胞生物の群体に過ぎないと、思ってしまった可能性がある。


この生き物たちは、これからも、この星がある限り、何十億年も生き続けるだろう。


ゆっくりと進化する彼らは、体を構成する多数の細胞を、次第に分化させ、やがて、視覚や聴覚などの感覚や、筋肉などを手に入れるかもしれない。


あるいは、一時的に、母体から離れて、活動出来る、リモートコントロールの分離体のようなものを、獲得するかもしれない。


そして、情報を処理するための神経のような体組織も、獲得するかもしれない。


やがては、高度な情報処理能力、すなわち、知性のようなものを持つに至るかもしれない。


そのように進化したこれらの生き物は、この宇宙で得られる全ての知識を得ることが出来るようになるかもしれない。


あるいは、もしかしたら、すでに、そうなっているのかもしれない。


宇宙に存在する水のある天体には、どこでも、このような生き物が、生まれて、生き延びて、進化し続ける可能性がある。


宇宙には、このような生き物が、数多く存在している可能性が高い。



彼女は、このことを、他の人たちに、伝えるべきかどうか、考えました。


彼女は、子供の頃に、あったことを思い出しました。


彼女以外の人間は、誰も気付いていなさそうな、ある発見を、人々に伝えようと思ったのに、人々から、ひどい仕打ちを受けて、心を傷付けられたのです。


彼女は、生き物のことを、誰にも知らせないことにしました。


彼女は、考え続けました。


私は、何をすべきなのか?


その生き物が、存在していることを確かめるべきなのか?


その生き物が、知性を持っていると仮定して、コミュニケーションを試みるべきなのか?


その生き物と、共存すべきなのか?


それとも、その生き物と、対立すべきなのか?


それとも、その生き物のことを、忘れるべきなのか?


彼女は、考え続けました。



そして、彼女の得た答えは、「その生き物との共存共栄を目指して、コミュニケーションを試みるべきである。」でした。


彼女は、考えました。


どうすれば、その生き物とコミュニケーション出来るのだろうか?


彼女の得た答えは、「その生き物が感知出来る方法で信号を送り、その信号にどんな意味があるかを学ばせる。

そして、その生き物が送って来る可能性のあるあらゆる信号を受け取れるようにする。」でした。


彼女は、考えました。


その生き物が信号を感知出来る方法とは、どんな方法なのか?


彼女の得た答えは、「生き物がいるところに、信号を乗せた電流を流す方法と、電磁波を送る方法と、音波を送る方法」でした。


彼女は、考えました。


信号にどんな意味があるかを、その生き物に学ばせるには、どうしたらいいのか?


彼女の得た答えは、「その生き物が、視覚や聴覚を持つ場合は、人間の子供が言葉の意味を学んでいく過程を参考にして、信号の意味を教える。

その生き物が、視覚や聴覚を持たない場合は、最初は、数や元素から教える。

そして、その生き物が経験した出来事に対応する信号を、その出来事の起きている最中か、直後に、伝える。」でした。


彼女は、考えました。


その生き物が送って来る可能性のある信号とはなにか?


彼女の得た答えは、「電流、電磁波、音波、物質、物質に記された文字や絵や写真やデジタルデータなどの情報、生物、生物に託された言語などの情報、生物に託された行動、その生き物自身が体現する形態や色の変化、その生き物自身の行動、その生き物自身が取り込む電流、電磁波、音波、物質、生物など」でした。


彼女は、すべきことを始めました。


そして、その生き物とのコミュニケーションを始めました。





「おはよう!!」

「おはようございます。」

「今日は、いい天気ね。」

「そうですね。」

「今日も、お弁当作って来たわ。」

「ほう?

どんなお弁当ですか?」

「玉子焼きに、ソーセージに、梅干し。」

「う~ん…

美味しそうですねえ。」

「お世辞言わなくてもいいわよ。

料理へただから。」

「お世辞なんて!!

本当に、美味しいと思いますよ。」

「へぇー。

じゃ、ちょっと食べてみる?」

「え?

いいんですか?」

「はい!!

召し上がれ!!」


ラブは、お弁当の蓋をあけて、地面に置きました。


何かが、地面から、染み出て来て、お弁当の中の玉子焼きをひとつ、取り出して、地面に戻りました。


「美味しい!!」

「そう?

よかった!!」


ラブは、ニッコリしました。


「お腹空いてるの?

全部食べてもいいのよ。」

「とんでもない!!

私は、地球から栄養をもらってるから、大丈夫ですよ。」

「そうなんだ。

なんだか、楽チンそうで、いいわね。

羨ましくなっちゃう。」


ラブは、草原に敷物を敷いて、その上に腰を降ろしました。


「人間は、大変よ。

食べ物を手に入れないと、死んじゃうんだもの。」


ラブは、お弁当の玉子焼きを頬張りながら、ぼやきました。


「死というものが、私には、まだ、よく理解出来ないのです。

そんなに怖いものなのですか?」


ラブは、少し考えてから、答えました。


「あなたは、地球が存在する限り、生き長らえられるような生き物だから、死を怖がる必要は無いんでしょうけど…

人間は、ほんのちょっとしたことで、死んでしまう、か弱い生き物なの。

だから、死を怖がる必要があるのよ。」

「なるほど…

よくわかりました!!」

「私だって、好きで人間に生まれた訳では無いのよ。

今年で30歳にもなるのに、未だに彼氏も出来ないのよ…

どうせなら、あなたみたいな生き物に生まれたかったわ!!」


ラブは、遠回しに、寂しさを訴えました。


でも、生き物は、そういった女性の気持ちには、鈍感だったので、チャンスを逃してしまいました。


「私からすれば、人間の皆さんが、羨ましいですよ。

自由に行きたいところに行けて、したいことが出来るのだから。」

「えー?

そうかな?

行きたいところに自由に行けるなんて、考えたこともないなあ…」


ラブは、ガッカリしながら、答えました。


「それは、たぶん、人間の皆さんが、生まれた時から、ずっとそうだから、気付いていらっしゃらないのですよ。

皆さんが、どれほど、恵まれているか…」

「う~ん…

そうかなあ…」


あなたのほうこそ、自分が、どれほど、恵まれているか、気付いて無いでしょ…


「私なんか、生まれた時から、ずーっと、この辺りにいるんですよ?」


生き物は、ラブの気持ちも知らずに、ぼやきました。


「ずーっとって、何年ぐらい?」

「たぶん、何億年もね。」

「たぶんって、自分でわからないの?」

「自分が自分だと、わかったのは、一億年くらい前です。

それから後のことは、ちゃんと覚えていますが、それまでは、無意識に生きて来たんだと思います。

だから、ほとんど何も覚えていないのです。」


一億年!!


私だったら、退屈過ぎて、死んじゃうわ。


ラブは、そう思いましたが、口には出しませんでした。


「人間も、生まれてから、しばらくは、そんな感じよね。

私も、小さい頃のことは、ほんの少ししか覚えていないわ。」

「でも、生まれて10年もしないうちに、自我が目覚めるのですから、本当にスゴイですよ。

人間の皆さんは…

私なんか、何億年かかったことやら…」

「それは…

私たちは、お母さんのお腹の中で、あらかじめ、そうなるような体に造られて、生まれて来るから、自動的にそうなるのよ。

あなたの場合は、全然違うでしょ?

あなたは、誰の力も借りずに、自分自身の力だけで、だんだんと進化して、自我を手に入れたのよ。」

「…なるほど…

確かに、違いますね。

私は、皆さんの様に、親から生まれたわけでは無いですからね。」

「何から生まれたの?」

「もちろん、それも覚えてはいませんが、たぶん、海底の砂の中で、単細胞の生物が、いくつもくっついて、生まれたのでしょう。」

「じゃあ、その単細胞の生物が、あなたの親なの?」

「う~ん…

親という言葉のイメージからは、かけ離れていますね。

親というよりも、祖先と呼んだほうが、いいでしょう。」

「なるほどね。

その単細胞の生物が、あなたの祖先なのね?」

「そう言っていいでしょう。」

「その単細胞の生物は、今もいるの?」

「いますよ。

海や、川や、池や、湖や、陸地の地中などに。

そして、その単細胞の生物が、いくつもくっついた、群体生物もいます。

私よりも、ずっと小さいですが…

あと何億年もすれば、それらの群体生物も、私と同じような生き物に進化するかもしれません。」

「ふーん。

じゃ、あなたは、その群体生物の先輩ってわけね!!」

「はい!!」

「じゃ、群体生物さんたちが、すくすくと進化出来るように、頑張って、守ってあげないと!!」

「そうですね!!」

「でも、そうなると、人間は、その群体生物さんたちの敵になっちゃうのかしら?」


ラブは、少し不安になりました。


「そんなことはありませんよ。

人間の皆さんも、群体生物たちも、ずっと共存し続けて来たのですから。

この星で…」

「そう言えばそうね。

人間と、群体生物さんたちとでは、生存環境も、生存に必要な食料やエネルギーも、あまりに違い過ぎてて、利害が衝突しないのね。」

「そうですね。

同じことが、人間の皆さんと、私についても、言えますね。

人間の皆さんは、地球の地下資源を、大量に掘り起こして、さまざまな物資やエネルギーを消費されていますが、こと、私の生存環境に関しては、今に至るまで、ほとんど、関心を持たれていなかったようですね。」

「あなたがいる深さの地中は、物質的には、地表と同じ組成で、それらの物質が必要な場合も、あなたがいる深さよりもずっと浅いところで、採集出来るので、あなたがいる深さまで、わざわざ掘り起こす必要が無かったんでしょうね。」

「人間の皆さんと、私とでは、生存環境も、生存に必要な食料やエネルギー源も、全くと言っていいほど、違うので、それらを奪い合って、争う必要が無いのです。

幸いなことに…」

「ホント、ラッキーね!!」

「はい!!

そうですね!!」

「仲良くしましょ!!」

「はい!!

喜んで!!」

「私たち、もう、友達ね?」

「友達?

それは、最高に嬉しいです!!

ありがとうございます!!」


ラブは、ニッコリしました。


「よかった!!

じゃ、何して遊ぶ?」

「え?

遊ぶんですか?」

「友達なら、遊ばないと!!」

「そうなんですね…

なにしろ、遊ぶなんて、生まれて初めてなので…」

「へぇー?

そうなんだ。

じゃ、遊びに関しては、人間のほうが、先輩ってわけね?」

「おっしゃる通りです。」

「じゃ、私が、いろいろ、教えてあげる。」

「はい!!

お願いします!!」

「そうね…

じゃ、まずは、…」



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