第4話 ほたるこい
ゆいちゃんが見つかったのは3日後のことだった。
キャンプ場から車で20分ほど離れた川の下流で、早朝に散歩していた男性が河川敷で子供の靴を見つけ、通報を受けた警察が川底で沈んでいるのを発見したそうだ。
どうしてそんなところにいたのか誰も分からなかった。
キャンプ場で1人でいたゆいちゃんを連れ去った誰かが、川へ突き落としたのではないかというのが警察の見解だった。ゆいちゃんのお父さんの派手な交友関係が週刊誌にすっぱ抜かれ、逆恨みによる犯行ではないかとワイドショーで騒ぎ立てられたが犯人はいまだに見つかっていない。
警察やらマスコミやらで日常なんて吹き飛んでしまって、ゴタゴタがまだおさまらない中、みんなにろくに別れも告げず、その土地から逃げるように僕は引っ越した。
ヨッシーは一体なんだったのか、分からない。
ゆいちゃんを闇の向こうへ連れ去った怪異なのか。
もしくは、あの時見たのは夢でただの不思議な子供だったのか。
それとも、誰かに殺されたかわいそうなゆいちゃんを、僕が思い出を改ざんして作り出した幻なのか。
思えばヨッシーは、僕が理想とする姿だった。
答えは闇の中だ。
大人になった今でも家族は誰もあの土地のことを一切話題にださず、あのとき遊んでいたメンバーとは連絡をとったことがないため、誰かと語り合えない思い出は輪郭がぼやけ、セピア色に染まっていく。
けれどホタルの季節になると、ヨッシーとゆいちゃんがホタルの舞う中、遊んでいる夢を見る。二人は子供姿の僕を見つけると、笑いかけ歌い出すのだ。
ほう ほう ほたるこい
あっちの水はにがいぞ
こっちの水はあまいぞ
ほう ほう ほたるこい
一緒に遊ぼうと、僕を呼んでいるような、あの歌を。
ほたるこい ももも @momom-
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