第2話 フィロソフィー
教室内では、学生たちが授業を聞きながら寝ていたり、スマホをいじったり、談笑したりをしていた。
その中で唯一、北山あかりが笑顔で名塚圭介の汚い黒板の字を板書していた。
「えー、1836年にエマーソンが提唱した超越主義では、『個人の無限性』が解かれました。これはどういうことかというと、トランセンデンタリズムといって、trensend、つまり、『乗り越える』という意味を使って、人間がこの世で経験する諸々の経験を超越して、自己の内なる何か絶対的な価値を直観によって読み取ろう。ということです。えーそれから、、、」
圭介は自分のペースで話し続け、学生のことなど気にせず、黒板の板書を消し、また新たな汚い字を書き始めた。
やがて、チャイムが鳴ると、学生たちは一斉に起き、帰る支度を始めた。
「あっ、今日、やったとこ、テストに出すから!」
そう言うと、圭介は、学生たちのやべえ!まじかよ!写してねえよ!の声を無視して、象形文字のような黒板の字を消し始めた。
あかりはその圭介を笑顔で見ていた。
その夜、あかりと圭介はラブホテルでベッドを共にしていた。
あかりは圭介の隣で笑っていた。
「また今週も全然聞いてもらえなかったね」
「僕の授業ってやっぱり分かりにくいのかな?」
「だって大学の4時限目なんて1番眠い時間じゃん」
「そうだよね」
「おまけに哲学なんて誰も聞かないよ」
「今日やった範囲は僕は好きなんだけどなあ」
「あと、やっぱり字じゃない?誰もあんなの読めなくてやる気失くしちゃうよ」
「じゃあ、君は授業について行きたくて僕とこんなことしてるの?」
「逆だよ!授業なんて単位もらえる分まで勉強したらどうでもいい」
「だったら何で?」
「先生のこと、興味あるんだもん。遊ぶことしか頭にない学生なんか興味ない」
「僕は学生の頃はもっと遊びたかったよ。院試と博士号の勉強で学生時代は遊んでる暇なんて無かったから」
「だからいいんじゃん!」
「全然遊ばない人と真面目な学生がこんなことしてるのってパラドックスみたいじゃない?」
「要するに矛盾を面白がってるの?」
あかりは笑って、
「面白がってるなんかないよ!ただ、ちょっと、大人の経験をしてみたいだけ」
あかりが圭介の頬にキスをする。
「奥さんには、、、内緒だよ?」
あかりが圭介の唇にキスをする。
圭介があかりにキスを重ね、あかりを静かにベッドに倒す。
THE BEDROOM 氷川奨悟 @Daichu06
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