仮面は外さない

みなづきあまね

仮面は外さない

朝まで雨が降っていたが、晴れ間が出た。私は「今がチャンス!」と思い、先日出しそびれた郵便物を手に取り、財布だけ鞄から出し、「ちょっと郵便局へ行ってきます。」と近くの先輩に声を掛けると、颯爽とオフィスをあとにした。


1階で外に通じるドアを抜けようとしたとき、後方からバタバタと忙しない足音がしたので少し振り返ると、彼が速足で下に降りてきたのが見えた。彼もどうやら外へ行くようである・・・最近、このパターン多いんだよなあ。


ちょっと外出する時や帰り、私が階下まで降りてしばらくすると、バタバタとした足音と共に、彼が降りてきて、「あ、お疲れ様です。」となんでもないですよ風に声を掛けられる・・・。偶然にしてはよく出来すぎていると思いません?


私はここで留まると、なんだか思うツボな感じがして、あえて彼を待たずに社外へ出た。晴れてはいるがいつまた降り始めてもおかしくないし、電線からぽたぽたと落ちる水滴を避けたくて、傘を持って行った。


郵便局で用事を済まし、会社へと道を戻っていると近くのコンビニに彼が昼ご飯を買ったのか、レジでお金を出している姿が見えた。いつもコンビニのご飯だからなあ・・・さっきは無視しちゃったけど、本音は・・・。


私はコンビニの角を右に曲がり、少し歩調を落とした。会社の入り口を通り、傘を傘置き場に置いて振り向いたのと同時に、買ったものを下げた彼がいた。


「あ、お疲れ様です。」


「お疲れ様です。」


「というか、大丈夫ですか?体調?」


「え?なんで?」


私は一瞬ぎくりとしたのを悟られないように、階段を上り始めた。


「だって、今朝体温計借りてたじゃないですか。」


「あ、見てた?うーん、熱はなかったんですけど、頭から上が調子悪いっていうか・・・わかります?朦朧とした感じというか、のぼせている感じなんです。」


「わかりますよ。ただの疲れならいいですけどね。このあと、関節が痛くなってきたりしたら・・・」


彼はちょっとからかうように私の方を見て、あたかも脅してますよという風に笑った。


「え、やだ!絶対やだ!酷い。」


私はすねたような顔をすると、彼の右腕をパチンと叩いた。


「痛っ!」


「・・・何でもないと思いますけどね。」


私は若干自信なさげにそう答えると、痛がる彼を横目に先にオフィスのドアを抜けた。声を掛けられ、心配され、話ができて嬉しいけど、何も考えていませんよというくらい冷たい顔は崩さないようにして。


彼は私とは反対側の自分のデスクに腰を下ろし、私は「ただいま~」と隣の同僚に声を掛け、座った。私が座るなり、彼女はこっちに身を乗り出して、


「見てたよ!」とニヤニヤ笑ってきた。


「でしょうね!コンビニ帰りだったみたいで下で一緒になっただけだけど。朝、熱を測ってるの見られたみたいで、超恥ずかしい・・・」


「ふーん。でも彼ってほかの社員とたいして仲良しでもないから、好意を見せてるのかどうか判断できなくて難しいんだよね~私から見ると、まだ『気になってはいるけど、どうこうしたいわけじゃ』って感じかな。うーん、面白い!」


そうあれこれ分析している同僚を横目に、私はちょっと彼を振り返った。既にパソコンに向かって仕事を始めていた。


「私もその辺分からないんだよね。とりあえず私が煩悩まみれだから、冷静になりたいって唱えてるのは自覚してるよ。」


はあ、と一回溜息をつくと、私は「やるか~」とパソコンの電源を点けた。のぼせているのは熱じゃないのかもしれない。

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