犬とフェレット

増田朋美

犬とフェレット

犬とフェレット

とりあえず今日は、雨が上がった。九州で降った大雨は峠を越えたらしい。でも、土砂崩れやら何やらものすごい災害が起きたようで何だかその片付けで大変なことになっているらしい。静岡は、とにかくなにもなかったが、九州ではものすごい災害になっていて、何で毎年のように、こんな大災害が起きてしまうんだろう、と、みんな途方にくれていた。さらに今年は、発心熱の流行もあり、多くの国民がやる気をなくして、鬱になっていく人も、数多く見られた。

そんな中、ペットの世話だけは、途切れもなく続いていた。みんなどんなにやる気をなくしても、犬の散歩だけは、必ずやっている。それが吉となるか凶となるかは、その人の運次第というか、その人の感性によりけりであるといえる。

「いやになっちゃうわ。こんなときに、犬の散歩を頼まれるなんて。」

浜島咲は、大きなため息をついて、一緒に散歩しているシェパードの顔を見た。咲の隣の家にすんでいるおばさんが、子供が体調を崩したため、犬を預かってくれと、咲に頼んだのだ。全く、年配の人というのは、何て勝手なんだろう。好きな時に、動物を飼って、何かあると人に預けたりする。どうせ預けるのなら、ペットホテルに頼めばいいじゃないの。と、咲は思うのだが。

とりあえず、その日は雨が上がって、ものすごく暑い日だった。雨が降ると、大洪水で、晴れると旱魃でも起こるのではないかと思われるほど暑い。これで、発疹熱の病原菌も、終わってくれないかなと思ってしまうような暑さだった。皆マスクをしているけれども、ものすごく暑いので、つけてなんかいられないほど、暑かったのである。

やれやれ、暑いなあ、そんな中、犬は元気で、ぐいぐい引っ張って歩いている。一寸休憩したいなと思っても、犬は元気である。

「ねえ、一寸公園に行って、休憩しない?」

と咲が犬に言っても意味はないのだが、思わずそういってしまった。確かシェパードの名前は太郎だった。なんで、こんな犬に日本的な名前を付けるんだろうなんて、咲はあきれてしまうけれど、飼い主さんは、その名前をものすごく気に入っているらしい。

「太郎君、こっちに行こう。ちょっと公園で休憩しよう。」

と、咲は、太郎君に、公園のほうへ行かせようと、リードを引っ張った。すると、そういうところはやっぱり頭のいいシェパードなのだろうか。やすやすと方向転換して、公園のほうへ歩いて行った。

「ほら、向こうに東屋が見えるから、そこでちょっと休憩していきましょうね。」

と、咲が東屋まで向かって歩いていくと、東屋にはすでに先客がいた。テーブルのうえには小さな動物が、ちょこちょこと歩いている。それでは、太郎を行かせないほうがいいだろうか?と咲は思ったが、

「おーい、フルートの浜島さんだっけなあ。あだなは確か、はまじさん。」

と、声がしたので、無視をしないわけにはいかないと思い、東屋の中へ行ってみた。声の主は杉ちゃんだ。その隣には、水穂さんがいた。

「あら、右城君じゃない。今日は具合がいいの?」

と、咲が尋ねると、

「たまには、運動させた方がいいと思ってさあ。ずっと布団の中に寝てばかりいては、体もなまっちまう。」

と、杉ちゃんが代わりに答えを出した。

「しかし、はまじさんは、犬なんて飼っていたんだっけか?」

「まあ、この子は、隣の家のおばさんのワンちゃんを、預かっているの。なんだか、娘さんが、具合が悪くて、東北のほうへ行っているんですって。」

杉ちゃんにそう聞かれて咲は答える。

「そうですか。ずいぶんかわいいワンちゃんではないですか。今時、大型犬は珍しい。」

と、水穂さんが言った。かわいいかな?こんな大きな犬、かわいいとは思えないのだが。かわいいと言ったら、チワワとか、ミニチュアダックスフントのほうが、よっぽどかわいいと思うのだが。

「ええ、まあ、かわいいと言えばかわいいかしらねえ。シェパードと言えば、警察犬にでもなりそうな犬だけど。」

と、咲はちょっといやそうに言った。

「それだったら、テーブルの上に乗っている、フェレットちゃんのほうがよっぽどかわいいわ。」

確かに、テーブルの上には、フェレットが一匹乗っていた。白い、長毛のアンゴラフェレットである事は咲も見て取れた。フェレットも犬と一緒で色いろ種類がある。最近はテレビで、動物の様子を撮影した動画を投稿する番組もあるので、フェレットも何度か見たことがある。確か、フェレットで人気のあるのは、マーシャルフェレットとか、バスパレーフェレットなどが有名だが、マニアックなフェレットとして、アンゴラフェレットという種類があるという。

しかし、そのテーブルの上に乗っている小さなフェレットは、前足が一本かけていた。一つだけ残った反対側の前足と、残った後ろ脚で一生懸命歩いているが、どうしても体を引きずるような感じになってしまう。何とも痛々しいフェレットだ。

「あら、このフェレットちゃんは、足が一本足りないのね。なんかちょっと、心が痛いわ。」

咲は、とりあえず正直な感想を言った。

「まあなあ、お前さんのワンちゃんだって、一寸足を引きずっているように見えるな。」

と、杉ちゃんが言う。確かにそうだった。太郎は左の後ろ脚を引きずっている。隣のおばさんの話によると、太郎は子犬の時にしでかしたけがのせいで、後ろ脚が悪くなったという。それであまり長時間散歩を必要としないというが、それでもシェパードはフェレットよりも、もっと運動量が必要なのは確かだ。

「まあいいじゃないの、同じ障害のある動物同士、仲良くやっていこうぜ。」

と、杉ちゃんが言った。太郎は、その間にも、小さなフェレットのことをじっと見ている。

「こいつは正輔だよ。まあ、足が一本足りないのは、しょうがないことだと思ってくれよ。」

と、杉ちゃんは、フェレットの正輔君を紹介した。

「そうなのね。何だか、フェレットちゃんには似合わない名前ねえ。」

と、咲は、にこやかに笑った。その間に、二匹の障害のある動物たちは、もう互いに心を通わせてしまったのだろうか。太郎は、正輔の体をなめてやっている。

「こら、太郎ちゃん、何をやっているの。」

と咲は太郎に注意したが、

「いいんじゃないですか。きっとお互いに通じ合うものがあるんですよ。」

と水穂さんに言われて、注意をするのはやめておいた。杉ちゃんが、水穂さん体は大丈夫かと聞くと、水穂さんはすみません、大丈夫ですと言った。

「本当は、二匹で公園の中を走り回らせてあげたいですね。本来は動物ですから、思いっきり走り回らせてやった方がいいでしょう。」

と、水穂さんがいう。本当はその通りにしてやりたいものだ。

「でも、二匹とも障害あるから、できることをさせてやればそれでいいのさ。」

杉ちゃんは、平気な顔をしていた。でも確かに、足の悪い犬とフェレットはどこかかわいそうな雰囲気があった。彼らは、人間の世話なしでは暮らしていかれない。それは、人間の障碍者にも当てはまるのかもしれなかったが、そんなことは言ってはいけないことになっている。

すると、遠くの方から、一人の女性が歩いてきた。女性と言っても、一寸高齢の女性だ。よくよく見ると、一寸雰囲気がおかしい。あれれ、何だと杉ちゃんが言うと、彼女は、杉ちゃんたちの目の前で、フラフラと座り込んでしまった。

「おい!おばちゃんよ!何をしているんだ?大丈夫か?」

と、杉ちゃんがそういうと、彼女は、肩で大きく息をした。咲が熱中症でもなったかしらと言って彼女に近づく。大丈夫ですかと聞くと、すみませんと答えるので意識ははっきりしているらしい。彼女の着ているブラウスの胸ポケットから、障碍者手帳が見えたので、たぶん精神障害のようなものがある女性だろうということが分かった。

水穂さんが咲にお金を渡した。咲は自動販売機に行って、急いで水を買ってきて、彼女にこれを飲んでくださいと言った。いえ、大丈夫ですという彼女に、それじゃダメですと咲は、彼女の口の中に水を無理やり流し込む。彼女はやっぱり水が必要だったのだろうか、がぶがぶとおいしそうに飲んだ。水を飲んだら、少し落ち着いてくれたようだ。

「どうも申し訳ありません。」

と、彼女はいう。

「しっかし、こんな暑い中で、麦わら帽子も何もかぶらないで、外へ出るなんて、一寸おかしいですうねえ。」

と、杉ちゃんが言う。彼女は恥ずかしいのか、悲しいのか、複雑な表情をしている。

「一体、なんでこんな暑い中に帽子もかぶらないで外へ出てきたんですか?何かお使いか?そういう感じでもなさそうだな。」

杉ちゃんはそうつづけた。確かに、お使いとかそういう事であったら、買った商品や、買い物袋を持っているはずだ。しかし、彼女は手ぶらである。

「はい、すみません。」

と彼女は言う。

「すみませんじゃないよ。なんでこんな暑い日に、いかにも熱中症になっちまいそうな恰好をして、外へ出るのか、理由を聞いているんだ。」

と、杉ちゃんが言った。

「ええ、一寸訳がありまして。」

彼女は、このまま見過ごしてくださいというような顔をしている。

「そうだけど、熱中症でぶっ倒れそうになっているやつに、理由を聞かないで家に帰すわけにはいかないねえ。それはいけませんね。」

と、杉ちゃんはつづけた。杉ちゃんという人は、一度質問すると答えを得るまで、質問をやめない癖があった。それはある意味迷惑でもあるが、重要なことを聞き取ることができるという長所もある。

「ええ、実は、もう家に居場所がなくて。」

と、その人は言った。

「家に居場所がない?一人暮らしなのか?」

と、杉ちゃんが言うと、

「ええ、こんな話を、車いすで幸せに暮らしている方に話すというのは、一寸、」

という彼女。其れを聞いたフェレットの正輔が、人を馬鹿にするなとでも言っているのだろうか、ちいちいと声を立てた。水穂さんが、その背中を撫でてやった。

「まあ、確かに僕みたいなバカな風来坊に話しても無駄だと思うかもしれないが、ここにいる水穂さんも、人種差別には慣れているので、ちょっと話してみてやってくれ。」

と、また杉ちゃんが言った。女性は、水穂さんの着物をじっと見つめる。確かに、単衣であるけれど、葵の葉が大きく入れられた、銘仙の着物を着ている。

「そうですか、私より、不幸な人がここにいるとは気が付きませんでした。ごめんなさい。」

と、いう彼女に、

「だから、謝って済む問題じゃないんだよ。私より不幸なんて、決めつけないでもらえないか。こいつは、少なくとも、昔は不幸だったかもしれないが、今はそうでもないと思うからな。」

と、杉ちゃんはちょっとむきになったように言った。

「そう、今はそうじゃないのね。それならあなたも幸せな人ね。そんな、着物を着ていても、平気な顔で外を歩けるんですもの。」

と、彼女はそういうことを言う。

「だっからあ、幸せとか不幸とかそういうもんは、他人に口を出してもらうもんじゃない。自分が幸せだと感じられれば幸せだし、不幸だと感じられれば不幸なの。そして、そういうことは、見かけだけではわかるもんじゃない。口に出してみて、初めて決まるんだ。だから、お前さんが、なんでここに来たのか、その理由を言ってみてくれ。」

杉ちゃん、本当にめちゃくちゃなこと平気で言うのねと、咲は思ったが、杉ちゃんの顔は真剣そのものだ。それを言うのはやめておこうと思った。

「だから、ここへ来た理由を言ってみな。いえばらくになれるからよ。」

と、杉ちゃんにまたいわれて、女性は、そうねといった。

「ええ、あたしたちは、娘が結婚して、子供が生まれたので同居することにしたの。子供がまだ小さいので、家で誰か見てくれる人が必要になってね。でも、食べるものから何から何まで、娘の許可をもらわないとできないのよ。」

と、泣き泣き語りだす彼女。

「そうなのか。具体的に食べるものはなにを食べているのかな?」

と杉ちゃんが聞くと、

「ええ、私は、鮭の塩焼きとか、金山寺とか、そういうものが食べたいのに、娘が作るものは、大きな肉の塊だったり、魚料理がほとんどなかったり、カレーや、シチューなどの口に合わないものばっかりで。」

と、彼女は言う。つまり、年寄り特有の、もっと簡素なものが食べたいということだろうが、食べ盛りの子供がいるような家だから、そんなものは作れないだろうなと咲も思った。

「まあ、それはしょうがないよ。だったら、何か楽しめることでも見つけたら?そうだな、例えば趣味的に華道とか習ってみるとか?」

と、杉ちゃんが言うと、彼女は、

「そうね。でも娘がそういうことをしたいというと、私を教室まで送り迎えしなきゃいけないのが面倒だと言って、喧嘩になったことがあるので。」

と言った。日本人はなんでも穏便にというところがあるけれど、多かれ少なかれ衝突はしなければならないのではないかと思った。

「まあ、喧嘩するほど仲がいいというじゃないかよ。喧嘩ができるってのは、うれしいもんだぜ。それにな、今はオンラインレッスンというやり方もできるじゃないか。それで、家の中にいながら、レッスンしてもらうことだってできるよ。」

と、杉ちゃんは簡単に言うが、咲はそういうことはなかなかできないだろうなと思う。喧嘩ができるのはうれしいという考え方をする日本人は少ない。ましてや高齢者ではなおさらである。

「だけど、私がパソコンを使うことができないので、教えるのが面倒だと、娘に言われてしまいました。

考えてみれば、娘の子供も、小学生になったばかりで、学校の事とか宿題の事とか、いろいろあって忙しいだろうし、今は私が黙っていれば、普通に暮らせるのですから、それで我慢するしかないと思っています。」

彼女はそういうことを言った。確かに、高齢者にパソコンやスマートフォンを持たせるのは、至難の業であると言える。いくら必要だからもってと言われても、どうしてもスマートフォンは、高齢者向きに作られてはいない。それで簡単なことを家族に聞く必要があり、家族もそれが重なれば面倒だということになってしまう。

「だけど、お前さんは、つらいんだろ?家に居場所がないって言ったのはそっちだろ?だったら、それを何とか打破していかなきゃならないんじゃないのかよ。今は、家にいても外の刺激に触れられる道具はいっぱいありますからね。それを、駆使して、居場所をつくるというのは、悪いことじゃないと思うぜ。」

と、杉ちゃんに続いて咲も、

「ええ、例えば、どこかのサークルに入るとか、そういうことは躊躇するかもしれないけれど、オンラインで家でレッスンを受けるということは、できると思いますよ。其れとか、通信講座で何か始めるのだっていいんじゃありません?ほら、時々、スーパーマーケットにも、通信講座の案内状があるじゃありませんか。」

と言った。

「ほら見ろよ。そういうわけで、いろんな道具があるんだよ。だから、それを使ってさ、自分の居場所くらいみつけろよ。それで、同居生活少しでも、楽しめるような気持ちにするんだな。」

と、杉ちゃんがやれやれという顔で、彼女に向かってそういうことを言うのだが、彼女はまだ納得できないという感じだった。

「いいえ、黙っています。だって、私が黙っていれば、みんなそれで済む話ですもの。私さえ、いなかったら、それでいいんですから。私は、そういう存在だって、そういういてもいなくてもいい存在だって、そういうことにして生きていけばいいんですから、、、。」

そういうことを言う女性に、足元からわんわん!という声がした。それは、シェパードの太郎君の声だ。シェパードは、声が太く、一寸吠えられてもしり込みしてしまうような人もいるが、彼女はそういう人ではなさそうだ。

「だって、私は、役に立たない年寄りだもの。あなたたちにいくら言われたって、それが変わることがありません。」

と、彼女の主張は変わらないらしい。

ふいに、どこかから誰かがせき込む音がした。誰だろうと思ったが、水穂さんだった。おい、しっかりしろと言って、杉ちゃんが、水穂さんの背中を撫でている。咲は、急いで自動販売機に行こうかと思ったが、水穂さんの口元を拭いてあげる方が先だということに気が付いて、ほら、右城君しっかりして、と、急いでカバンの中から、ハンカチを取り出した。

すると、太郎がいきなり例の女性に向かって吠えた。そして、動かしにくい後ろ脚を引きずって、自動販売機のほうへ歩き始める。女性は、まるで太郎に導かれるように、彼の後ろをついて行った。幸い、児童販売機は東屋の近くにあった。咲は、太郎が彼女を誘導していくのを眺めながら、この辺りはコンビニもスーパーマーケットも離れていて、飲み物を買うには、自動販売機に行くのが一番なのだということを、思い直した。

太郎が彼女を誘導していくのを見ていたのは、咲だけではない。あの、小さなフェレットの正輔君も、太郎をそっと見ている。まるで正輔君が、発案者のように。いや、そうかもしれない。動物は動物同士で、何か通じているものがあると思われたから。

やがて一人と一匹が、戻ってきた。女性の手には、一本のペットボトルの水が握られている。杉ちゃんが、ありがとうと言って、それを受け取り、

「水穂さん、頑張ってこれ、薬と一緒に飲み込んでくれ。」

と、彼に頼むように言った。水穂さんは、それを受け取って、血液で汚れた手で、巾着を開けると、その中にあった粉薬と、杉ちゃんに渡された水を飲み込んだ。そうして、数分後に静かになった。

「よかったわ。私が、背負って製鉄所まで連れて行くわ。こう見えても、こういう所で、体力なら自信があるのよ。」

と咲は水穂さんに言った。それでは、急いで帰ろうかと杉ちゃんたちは帰り自宅を始めるが、足の悪いシェパードは、彼女に向かってまた吠え始めた。一体なんで、彼はまだ、この高齢の女性に吠え続けているのだろう。彼女がまだ決着のついていない問題があるのだろうか。シェパードに人間の言葉が話せたら、素晴らしい伝言者になってくれると思うのだが、不幸なことに、犬の声は、わんわんとしか、人間には通じないのである。小さなフェレットが、それを感づいたのだろうか、悲しそうな顔でそれを見ていた。

「ほら、お前さんも、もうちょっと、生きようと思ってくれないか。まあ、娘さんと喧嘩するのはやむを得ないことだと思ってさ。まあ、お前さんの人生を生き生きとさせるための、道具を得るためには、多少のことは、あってもいいじゃないかくらいにしておけ。でも、それを乗り越えてくれれば、お前さんはとても楽しい人生になると思うよ。」

と、杉ちゃんが、太郎の言葉を通訳するように言う。杉ちゃんたら、犬の言葉までわかっちゃうのかしらと咲は、太郎の方を見たが、太郎は、まさしくそれだという感じの顔で、わんと咳払いするように吠えたのであった。

「そうね。私も、自分なりの人生楽しまなきゃね。」

と、彼女は、それにやっと気が付いてくれたらしい。ようやく発作の治まった水穂さんが、

「ええ、いつになっても、人生は自分のためにあるんですから。」

と弱弱しく言った。右城君、右城君もそれを考えて頂戴よ、と咲はそう思うのだが、それはあえて口にしなかった。

「じゃあ、家に帰ったら、新しい人生の第一歩を踏み出してくれよ!」

と、杉ちゃんが彼女に言うと、彼女は、やっとにこやかな顔になってくれて、

「ありがとうございました!」

と、太郎の頭をなでて、東屋を出ていったのであった。




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犬とフェレット 増田朋美 @masubuchi4996

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