【悲報】織姫と牽牛の逢瀬、雨天中止

藤田大腸

今年も雨の七夕

 今日は七月七日。織姫が牽牛と会うのを許される日です。


 しかしながら今年もまた雨が降ってしまいました。しかも豪雨で、天の川周辺には特別警報が出されていました。これでは向こう岸に渡ることはできません。織姫は心底、梅雨前線を恨みました。


「ううっ、またステイホームさせられるなんて……いつになったら夫に会えるの?」


 ヨヨヨと泣き崩れる織姫。そんなとき、一人の少女がスーッ、と目の前に現れました。


「だっ、誰?」

「私はカササギです」


 まあ、と織姫は悲鳴じみた声を上げました。


 七夕の日にはカササギたちが集まって天の川に橋をかけて、織姫が向こう岸に渡れるようにします。そのカササギの一羽が人間の姿を象って、織姫に会いに来たというのです。


「しかしどうして人間に……?」

「天帝様のお力のおかげです。毎年雨が降ってさすがに可哀想だから相手をしてやってくれ、と」


 織姫は牽牛と結婚した後、機織りをしなくなったために父君である天帝の怒りを買って天の川を隔てて引き離されてしまい、年に一度、七月七日にしか会うことを許されなくなりました。自業自得ではありますが厳しい仕打ちに悲しみを覚えたものでした。しかし天帝は娘に対して非情になりきれなかったようです。


「ああ、慰めてくれる子がいるだけでも救われるわ」


 織姫は父君に感謝しました。


 カササギは言いました。


「では、たくさん慰めてあげますね」


 不意打ちに織姫は目を白黒させました。何と、カササギが自分の唇を奪っているではありませんか。しかも体はいつの間にか押し倒されていました。


「なっ、何を……!」

「ですから、織姫さまを慰めて差し上げているのです。体で」

「いやその、あなた、女よね?」

「それがどうしました?」


 カササギは有無を言わさず織姫を攻め立てました。舌をねじ込み絡ませて、ピチャピチャといやらしい水音が部屋に響きます。


 織姫は抵抗できませんでした。キスのテクニックが牽牛よりも上だったのです。カササギの求めに応じてしまったことを自覚した途端、罪悪感が襲いました。


「ああっ、あなたごめんなさい……」

「何を謝る必要があるんです?」


 カササギはまた口を塞ぐと、服を脱がし始めました。白い肌をあらわにされても、抗うことはできません。やがて水音に加えて二人分の嬌声がしはじめましたが、豪雨の音にかき消されて外に漏れ聞こえることはありませんでした。


 ちなみに七夕に降る雨は催涙雨と呼ばれ、牽牛と織姫が流す涙とされているそうです。

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