ベランダから見る夏の日
朝、西に向いた窓を開ける。
既に太陽は目線より上に上り、家の壁を暖めていた。窓からベランダに椅子を出し、背にもたれる。今日もまた、暑い一日が始まった。
ニイニイゼミの単調な音の隙間から、ミンミンゼミのリズムが重なる。空には、平べったい高積雲が僅かに広がる。
太陽は南中近くまで高くなり、ベランダの庇からその力強い日差しを照らした。セミは相変わらず、街にノイズを撒き散らす。遠くの山際で積雲がぽこぽこと湧き始めた。
ふと、淀んだ生暖かな空気から、爽やかな空気に変わったのを肌で感じた。どうやら、海風が入ってきたようだ。海風は経路上の暖かい空気を巻き込み、温度を中和しながらここまでやって来た。風が段々と強くなるのを感じる。セミたちがより一層声を大きくする。
暫くして、遠く平野の奥に目を移すと、雄大積雲が成長しているのに気付いた。しかし、今日は中層がよく乾燥していて、雷は鳴らないだろう。伸び上がった積雲は圏界面のかなり手前でその成長が鈍化し、成長と同じ速さで消滅していった。そんな雲が山際にいくつか並んでは消えた。
次第に遠くの雄大積雲から雲が地平線付近に広がり、その雲の下に太陽が沈む。直接肌を痛めつける短波放射は弱まり、地面からの長波が空気を介して体を暖める。しかし、より一層強まった海風が体の周りの空気を交換し続け、熱交換を効率的に進める。セミはいつの間にか、一匹も鳴いていない。着陸体制に入った飛行機のエンジン音だけが街に響く。
そろそろ、暗くなってきた。今夜は新月だ。月の明かりが無ければベランダでの生活は難しい。
部屋に椅子を入れ戻し、中に入る。部屋はまだ、昼の暖かさを残していた。窓を開け放し、夜の爽やかさを招き入れた。
(終わり)
夏休みの忘れ物・ほか 古田地老 @momou
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