額縁の中のセロ弾き

小学校の図工の時間にうまく描けた絵は家に飾られるのが我が家の習慣でした。僕は小さい頃絵を描くのが好きでした。特に好きだったのが本を読んで気に入った場面を絵にする授業でした。


選んだ本は宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』。幾度と読んだページをめくると、そのセロ弾きはな猫に虎狩りの曲を聴かせるところでした。


ここがいちばん元気がいいから描いてみよう。


セロ弾きはチェロをごうごうと弾きました。その激しさを必死に紙に写します。曲を聴かされた猫はついに暴れだしました。画用紙の中でも猫はひっくり返ります。


ゴーシュさん、ゴーシュさん、そんなに派手に弾くともっと猫が暴れてしまって、僕には手が負えないよ。それでもチェロは唸り、猫は飛び跳ね、絵の具は散る――。


やっとの思いで描き上げたセロ弾きは額縁に入れられ、今も虎狩りのを響かせています。

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