夏休みの忘れ物・ほか

古田地老

夏休みの忘れ物

夕焼けが終わりを告げる夏休み――


前の学校の友達んからの帰り道、車の窓から入ってくる少し湿った風を顔に受けながら、ぼんやり外を眺めている。後ろへどんどん飛んでいく風景を見るのが、車に乗っていて一番好きなこと。屋根から屋根を走り抜ける忍者や、反対車線を縫うように走るレーシングカーをいつも妄想している。


「来年、中学生になったら前の学校の友達にまた会えるね」


そうなんだ。隣町の小学校に転校しただけだから、次入る中学校でみんなにまた会える。

「今のクラスの友達はみんな同じ中学行くんだっけ?」

「同じクラスで2人、中学受験する子がいるよ。新木さんと、――」


あれ?名前が思い出せない。確か濁点が付いていて、4文字で、顔は“こんな感じ”

「あ、思い出した。喜多川くん」


月曜日からまた学校が始まる。

忘れかけていたクラスの子の名前と顔を記憶の片隅から引っ張り出さなきゃ。


――あの子の名前、なんだったっけ?

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