断罪のカルマー咎人の少年は罪滅ぼしの為に罪を犯すー

結城辰也

第1話 真っ黒な咎人の誕生

 アレストルク城から馬車で三十分のところに犯罪とは無縁で平和な村があった。


 今日もまた鶏の鳴き声に起こされ村人たちは夕日が暮れるまで働いていた。


 だがここにそれでも起きない少年が自部屋で掛け布団を散らかし静かに寝ていた。


 もう夕食の時間だと言うのに少年は呑気に静かな寝息を立てている。実に寝てばかりの少年だ。


 それを裏付けるように今日も食っては寝ての繰り返しだった。逆に言えば平和だった。


 少年の寝入りっぷりは部屋に近付く者の足音では起きないほどだった。


 だから実際に廊下の足音がどんどん近付いているのに少年は夢の中――


 静かと言うよりはほんの少し苛立ちを覚えた感じで扉の取っ手を回す音がした。


 そして自部屋の扉が軽い風が起きるくらいの勢いで開いた。


「シン! お父さんが修道院で待ってるわよ! 言われたこと……忘れたの?」


 謎の人物は開いたと同時に少年の部屋に入り込みすかさず言い始めた。


 どうやら少年の名はシンと言うらしかった。これからは少年改めシンとする。


 シンは構うことなくまだ寝ていた。本当に起きる気配がなく一筋縄ではいきそうになかった。


 謎の人物はこれでは駄目だと悟りシンまで近付くと立ち止まった。


「ほらほら! シン! いい加減に! 起きなさい!」


 まるでシンの母親のような振る舞いだ。本当に母親なのではと言いたくなるくらいに両手でシンの体を揺らしていた。


「う……んん」


 さすがの少年も揺らされるに弱かった。ようやくだが寝起きは最悪のようだった。


「シン! 起きたのならさっさと修道院に行きなさいよ? お父さん……待ってるから!」


 シンは急に寝姿から立ち上がった。どうやらお父さんとの約束を思い返したようだ。


「やばい! 忘れてた! 母さん! 俺……行ってくる!」


 謎の人物はシンの母親だった。今後は謎の人物改め母親とする。母親は呆気に包まれた。


「はぁ。……分かったわ。それじゃあ行ってらっしゃい」


 母親の言葉をシンは最後まで聴くと返事をすることなく跳び出す勢いで寝具から出た。


 床に置いてある靴を履き母親との会話よりも修道院に行くことをシンは優先させた。


 どうして靴を脱いだままなのかと言えばシンが単純に汗を掻くのが苦手だからだ。


 そうこうしている間にもシンは自部屋から廊下に出た。ここは二階なので下りないといけなかった。


 さすがに何度も家を出入りしているのでシンは迷うことなく階段を見つけ下り始めた。


 まだまだ体力が有り余っているシンは今度は玄関に向かうべく一階を独走していた。


 最後には玄関のところにまで行き立ち止まっては玄関の取っ手を握り締めた。


 割と急いでいたのが現実に現れた為に玄関の開き具合は比較的に勢いがよかった。


 こうしてようやく起きたシンは父親の待つ修道院へと急ぐのであった。




 今になってシンは修道院に辿り着いた。人気のない修道院は不気味で森の丘にあった。


 ここまで来させるなんて父さんはなにを考えているんだとシンは思いながら中に入ろうとした。


 相変わらず無駄に厳重だと思いながらシンは最初の門を開けそして最後は修道院の両扉を開けた。


 中は夕方なので薄暗くとてもじゃないが入り辛いのは確かだった。シンも身構え始めた。


「父さん! 来たよ! 俺だよ? シンだよ!」


 まるではなっからだれもいないのではと言わんばかりの静けさだった。不気味に拍車が掛かる。


 なんの返事もないので怖いを感じつつもう仕方ないなとシンは恐る恐る中に入った。


 余りの怖さにシンは両扉を閉めるのを忘れどんどん歩を進めていった。


 最初の部屋にはだれもいなかった。小部屋だが確かにだれもいない。と言うことはこの小部屋の奥にある両扉を超えた先に父親がいるのか。


 シンは恐る恐る進んでいる割には引き下がろうとは思わなかった。逆に好奇心も沸いていた。


 やはり小部屋にはだれもいなかった。だからシンはゆっくりと奥にある両扉の取っ手を握り開け始めた。


「父さん? いるの?」


 好奇心もあるが恐怖心の方が勝っているので小声だった。これでは縦に長い大部屋の奥にまで声が届かなかった。


 だが声は届かないが大部屋は燭台の蝋燭で明るかった。どうやら全ての蝋燭が点いていた。そして奥に目をやると――


 急にシンの表情が青ざめていった。急な出来事で心の整理が付いていないがそれは確かに起きていた。シンは慌てて中に駆け込んだ。


「お? シン? 遅かったじゃないか」


「と、父さん! そ、それ!」


「ああ。これかぁ。悪しき血は裁かなければならない」


「そ、そんな!」


「う……。シン。助けて」


 酷い有り様だった。幼馴染のゼイラがシンの父親に殺されかけていた。しかも既に手遅れだと言わんばかりの光景だった。


「シン。私のこと……忘れないで。お願い……だから」


 ゼイラは瞬く間もなくゼンマイが切れた人形のように死んでいった。


「ああ!? 嘘でしょ? ねぇ! 嘘だと言ってよ! 父さん!」


「なにを慌てている? これが咎人の仕事なんだ。実はな。父さん。元罪人なんだよ。罪滅ぼしの為には仕方のないことだな、これは」


「嘘だ! なにを言ってるの? 父さん?」


「お前こそなにを言っている? 聖人様に人を殺させるのは罪深きこと――。この世界はな。罪を持った奴だけが罪を裁けるのさ。覚えておけよ。なぁ? シン」


 目の前の残酷な光景がシンにとっては受け入れがたいことだった。実の父親が罪人で罪滅ぼしをする為に幼馴染のゼイラを殺してしまった。


「うわああああ!? あああああああ! 助けなきゃ! 助けなきゃあ! ゼイラを! ゼイラを!」


「もう遅いんだ。ほら。ゼイラはこのとおりさ」


 ゼイラはシンの父親の長剣に心臓を貫かれていた。しかも宙吊りにされた挙句、ゼイラは床に落とされた。次の瞬間にシンは混乱し燭台を手にしていた。


「うん? シン? なにをしている?」


「うわああああああ!」


「そうか。お前も……か。ふぅ。父さんな。もう……疲れた。もう……お前の好きなようにすればいい」


「あああああああ! お前がゼイラを! ゼイラを殺したぁ! うわああああああ!」


「ぐふ。そうだ。シン。お前だけは……生きてくれ。頼むから……な」


 これがシンの最初の罪だった。罪人は死刑になるか。それとも――。運命とは皮肉な物だ。罪を罪で洗い流すことは本当に出来ることなのだろうか。

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断罪のカルマー咎人の少年は罪滅ぼしの為に罪を犯すー 結城辰也 @kumagorou1gou

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