いろいろやりきれない……つらい……

 16世紀と紀元前3、4世紀ごろの、それぞれ別のふたりのお医者さんの、少し似た内容の裁判のお話。
 不勉強なものでわかりませんがおそらくは史実、例えば最終話『その後』に書かれた内容はどこかで小耳に挟んだ記憶があって、したがって主軸のふたりについてもそうではないかと思ったのですが、まあ仮に史実でなかったとしても「こういうの絶対あったよね」と思わせる時点でもう事実上の事実(ひどい表現)で、それだけに本当やりきれないお話です。
 こういう過去は確かに存在して、それもそう簡単になにがいけない・誰が悪いと割り切れないあたりが実にしんどい。特に第五話「アグノディス医師 裁判(後)」でのアグノディスの強い覚悟のこもった台詞からの、最終話「その後」のあまりにもあんまりな現実。なんかもう「あ゛ぁ゛〜……」ってなりますね。人類は愚かだ……(突然の自意識の肥大化)。
 いやふざけているみたいですけどむしろここが感想の肝というか、なによりやりきれないのはこの暴走する自意識、作中のあれやこれやにぶりばり腹立ててる自分そのものだと思うのです。それもよくよく考えたらその場その場でわかりやすい方について怒り散らしてるだけで、つまりほとんどワイドショーとかネットの炎上見て怒ってる人状態。実際、内容についてまともに言及するにはあまりに知識が足りなすぎて、なのに自分は『正しい』をやりたいし他人の振りかざす『正しい』は妨害したいという、昨今の人類にありがちな欲求をゴリゴリ煽られるこの感じ。うぅ、いやじゃ……わしはモンスターになんぞなりとうない……。
 いやここで「知識が足りないから」とか言ってないで、頭が足りないなりに少しでも考えられるかどうかがいろんなものの分かれ目だと思うのですけれど(でないとあまりに浮かばれない)。それはそれとして、歴史や史実というものの強みを最大限に引き出した、読み手の感情を煽るのが巧みな作品でした。淡々としているようですごいエネルギー。完全にもっていかれました。