第1話 転校生の私が生徒を助ける。そして彼との出会い

 2018年 春。

 三年生になった私は、花咲学園に転校した。

 あの時先生は、「せめてあと半年は頑張れ。三年になったら、転校を許可するから」と言ったので頑張って二年間を過ごした。


 転校先の学校に着き、職員室に行くときにある人物とすれ違った。その人は、スカートは短くて髪はくるくると巻かれていて、まるで、ファッション雑誌から出てきたような風貌に思わず振り返った。

 この時は、あの人がまさかあんな人物だったなんて思いもしなかった―――。


 今日は始業式の日だから、先生に挨拶をして一緒に体育館に向かった。

 体育館に行くと、他のクラスは整列しているのにひとクラスの列だけはバラバラになっていたのを見て不思議に思い先生に聞いた。


「あの、先生。なんであのクラスだけは列がバラバラなんですか?」


 すると、思いがけない答えが返ってきた。


「あー、大丈夫だ。気にするな」

「え? あ、はい」


 きにするな? どういうこと? なんであのクラスだけ許されているの? 疑問にしか思わなったが、これ以上聞けなかった。


 それよりも、目を疑った光景がひとつ。先ほどすれ違った人がバラバラになっているクラスの一人だったのだ。

 驚いたが、それも聞けなった。


「転校生を紹介します。本日、3-Aに編入する春菜サキさんです」

「はい」


 教頭先生に紹介されて、緊張で階段を一段一段あがる度に足が震えていた。


「森川高校から来ました、春菜サキです。宜しくお願いします」


 声が少し震え気味になってしまった。大丈夫かな? ちゃんと聞こえたかな?

 礼をすると全校生徒からの拍手が盛大に聞こえてきて、これからの学校生活が楽しみになってきた。



「実は、春菜が編入するA組はスクールカーストと呼ばれるものがあるんだが……」

「スクールカースト?」


 始業式が終わり、教室へと向かう廊下で先生が突如口を開いた。


 スクールカーストとは、クラスメイトが順位付けされていて“一軍・二軍・三軍”の三つの軍に分けられている。

 一軍は、何でも許されて自由に楽しく過ごせる。二軍は教室や廊下で騒ぐことは許されないが、大人しくしていれば大丈夫。

 だが一番最悪なのは、三軍である。三軍は、もちろん教室で騒ぐことは許されないが廊下で騒ぐのも許されない。常に空気を読みながら学校生活を送らなければいけない。

 先生から説明を受け、緊張とは裏腹に不安と恐怖が押し寄せてきた。



 HR。先生が先に教室に入って、先生の紹介で教室に入る。


「改めて。春菜サキです。宜しくお願いします」


 前のほうの席は拍手してくれたが、後ろの方はもはやこちらを見る気無し。


「春菜さんの席はあそこで」


 先生が指さした席は真ん中の列の、前から三番目の席。




 新学期が始まってから五日目。ホームルームで学級委員を決めることになった。相変わらず、先生の話を聞いているのは前のほうだけ。


「では、誰か学級委員をやってくれる人はいますか?」


 勿論、手をあげる者はいない。かといって、ここで私が名乗り出るのもおかしい。教卓では、先生が困っている。


「佐藤、どうか?」


 先生の一番前に座っている佐藤由香里さん。


「いや、そういうのは一番苦手なんで……」

「そう……か」



「転校生でいいんじゃない?」


 先生がすごく困っていると、後ろから声が聞こえてきた。

 そう言ったのは、一軍リーダーの湊崎花蓮。


「へっ?」

「賛成! なんか、一番できそう!」


 ほかの一軍メンバーも煽ってくる。


「春菜、どうだ?」


 どうって言われても……。

 恐る恐る後ろを振り返ると、“あんたがやりなさいよ”というような目線を送られたから、「はい」と返事をしてしまった。




 お昼休憩、トイレに行くときに誰かがパンとジュースを持ってトイレに入る瞬間を見た。私も用を足したかったので行ってみるとぶつかった女子生徒がパンとジュースを片手にトイレに入る瞬間だった。


「なに、してるの?」


 私の声に驚いて、彼女が振り返ると


「及川さん?」


 私がぶつかった相手は、隣の席の及川里奈さんだった。


「それは、その……」


 何か言いたそうに見えるけど、何も聞かないで欲しいようにも見えた。



 教室に戻ると、トイレでご飯を済ませた及川さんが席に座って怯えていた。

 その周りには、一軍の女子二人がいた。


「あのさ。トイレで一人で食べてたんでしょ?」

「いっそのこと、トイレに住んじゃえば?」


 派手な女子たちが及川さんを貶していた。私は、思い切って止めに入った。


「あの!」

「なに? 転校生」

「あ、えっと……」

「何か用ですか?」


 声をかけたがなんて言っていいかわからず黙っていると、一軍の一人である斎藤ありささんが聞いてきた。


「あの……、そうやって貶すのはよくないよ」

「は? うるせえわ。黙れよ」


 注意したが、逆に追い詰められてしまった。何も言えなくなってしまった私を、及川さんが見てくるのが分かって苦しくなってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶対女王。 櫻葉ゆう @arayu_0123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ