エピローグ

これからの道


それから。

あおい高等学校は、無事に全国大会へ駒を進め、金賞を受賞した。


二人は、遠距離になりながらも、少しずつお互いを知り、そして関係性を深めた。


小針は地元の国立大学に進学。

そして……。


「信じられない!」


耳元で大声で叫ぶ男。


「な、なあに?」


小針は目の前にいる菜花を見つめた。


夏宿かおるが、夏宿かおるが……四級だなんて!」


「だって、そればっかりはおれが決めたことじゃないし」


小針は、『採用』と書かれた紙を握り締めて、自分の最愛の人を見つめる。


おとぼけで天然男だと思っていた。

仕事だって、結構ほどほどにやっているのだろうなと思っていた。

しかし、自分がいざ彼と同じ道へと踏み出そうとした時に、聞かされた事実。


菜花なばな夏宿かおるは、県庁内では評価が高い男……』


県庁職員の待遇は等級で表される。

新人は、一級から始まる。

そして、職員の最高位、本庁部長が十級だ。

人事評価は毎年行われ、様々な基準を満たすと、等級が少しずつ上がっていく。

菜花が位置する四級職員が占める割合が一番多いのだが、逆を言えば、ここから上に上がるのも至難の技となってくるからだ。


「それに、いつ五級になるかなんて分からないし」


「いやいや。二十代でそんなとんとん拍子で上がっていく人ってそういないって聞いたし。四級って普通三十代後半からだよ? 結構、エリートコース歩んでいたんじゃないの!」


「そんなことは」


夏宿かおる! 自覚した方がいいって。自分のこと、ちゃんと見つめて」


「……おれは、自分の好きなようにやりたいだけ。等級なんてどうでもいいんだけど……」


「もう!」


本当に天然で危なっかしいんだから。


「それより」


「え?」


菜花は小針の手に握られた採用通知書を見て嬉しそうに目を細めた。


結助ゆうすけと一緒に働けるのが嬉しいな」


「それは」


まるっきり同じ部署に配置されるとは思っていない。

県庁とは、県内全域をカバーしていることもあり、本庁以外での勤務も多い。

だから、同じ建物内で一緒に働ける日々は少ないのだろうなと思ってはいるが、それでもなお、同じ立場として勤務ができることを幸せと思う。


「新幹線で通えるところだったら通うからね」


「そうだね。おれもそうする」


「なるべく一緒にいたい」


「うん」


小針は見慣れた菜花の住まいを見渡す。


「引越しの手続きしなくちゃ」


「ここにくる?」


「え? そう思っていたけど」


一瞬、不安になる。

だけど、すぐに菜花は笑顔を見せる。


「いいよ。おいで」


数年越しの恋は、こうして確かなものになっていく。

高校生の甘い恋が、大人の恋に変化しても、小針はずっと菜花が好き。

そして、彼も、いつまでも『子どもの小針くん』という気持ちが拭いされないが、少しずつ成長を見せている彼を暖かくして見守っていた。




–––終–––








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幸せの王子の恋 雪うさこ @yuki_usako

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