乙女、パスタに感動

松川 真

乙女がパスタに感動するまで


 私は今日も料理番組を見て作る。タケシは出かけてるから、ゆっくり趣味に没頭できる。『3分〜50分 de クッキング』。今回は何を作るんだろう。ワクワク。



「今日のゲストは今をときめくクレイジー俳優、呉井仁くれいじんさんです」



「食後に歯を磨けば、歯ブラシも食事を楽しめるゼェェェッ...YEAH☆!!!!」


 料理番組以外あまりテレビをみなかったから、名前だけ聞いたことのある呉井仁を初めて見た。

 初っ端から吹き飛ばされそうになる。



じんさん、今日は何を作りますか?」


「シェフから奪った金色こんじきの七色パスタです」


「お...おぉ。期待が膨らむ名前ですねぇ。」


 金色なら七色じゃねぇだろと思いながらも期待に胸が膨らむ私がいる。あと奪ったのかよ。



「まず、鍋に水をいれて火をかけます。


 さぁ、ここからが一仕事ですよ皆さんっ!『ファイヤァ!!』と叫んでください。ファイヤァ!!

 」



 ん?なんて?もう一回言って。



「叫びながら、こうやって両手を炎みたいにビラビラさせて飛び上がってください」


 え?やるの?今ってただ普通に水を沸騰させるときよね?



「始めは躊躇ちゅうちょするだろうけど大丈夫!!。

 僕たちは必要以上に自分で自分を抑え込んでいる。今日は僕を信じて心を解き放ってみて!ただ気持ちいいから!!火も喜びます。ファイヤァ!!」



『僕を信じ』たらどうなるの?全然安心できない。あんたを信じてたら、3日と経たない内に『ウォーター』とか叫びながら洗濯機の中で回ってるわ。



 ・・・・・・



   「...ファイヤ...」





「ダメダメ!!もっと大きな声で!!

 ファイヤ!!」


 番組越しなのに、まるで私を見てるかのように話してくるの、ちょっとダルい。



「ファイヤ...!」




「その調子だ!FIREEEEEE!!!!!」



「ファイヤァ!!」



 あれ、なんか...楽しい...?

 むしろ気持ちい。


「ファイヤァ!!!」


「ファイヤァ!!!ファイヤァ!!!」



 仁さんより沢山言っちゃった。アレ。私なんで今までビクビク生きてたんだろう。恥ずかしさが少しずつ薄れていって...



「それだ!!素晴らしい!!!!FIREEEEEE!!!!」




「ファイヤァ!!!ファイヤァ!!...ボウゥッ!!」



 そんな。思わず『ボウゥッ』とか、火が暴れてる音つけ足しちゃった。でもいいの。




 呉井仁は白目向いて奇声を上げながら顔ブレの画を撒き散らして飛び跳ねてる。



「気持ちが入らなかったら他の言葉でもいい。

 燃えてるとか、炎とか、


 心にひたるやつを叫ぶんだ!!浸ったやつを!!」




 心に浸るやつ!?なにそれ。でもなんか感覚で理解しちゃってる私がいる。悔しい。だけど、こんな引っ掛かり、水を得た私の心を押さえつける枷にもなりやしない。




「...ボウゥゥゥッッ!!!」


 私はこれがシックリ来るみたい。心が解き放たれていく。




「ヒタパン。おいしいよね」


 何いってんだこの人。



「ファイヤァ!!ボウゥゥゥッッ!!!!ウッヒョォォォォォ!!燃え上がってぇぇぇ....」



「シィィィッ!!!!静かに。何やってんだ、みんな!?料理に集中して。沸騰の音が聞こえないじゃないか!」



 ええーそんな。

 急にファイヤと叫んでいる自分が恥ずかしくなって止めた。なんだろう。今すっごく恥ずかしい。この時の私は『音なんて聞かなくてもお湯を目で見たらいいじゃない』と考える余裕が無かったみたい。



「...いまだ!みなさん!沸騰した鍋にパンを投げ込んで!!パンはなんでもいい!!今を逃したら美味の世界が閉じるから早く!!このタイミング以外は全て美味しくない!!ひたパンタイムだ!ポイポイポイポイポイッ!」



『まだ沸騰したお湯しかないから、いつ入れたって同じでしょ』と考える暇もなく、急き立てられた私は必死でパンを探す。パン?食材に無かったものを急に提示してきたというか、事前情報、何も教わってないんだけど。多分パスタが必要ってことしかわかんない。



 ...冷蔵庫の上だ!私は袋に入った食パンを掴んで台所に向かって疾走する。台所に入るためにカーブした時、狭くなった壁に右足親指が激突。痛みのあまり呻きながら転げ回る私に、番組の呉井仁の声が聞こえてきた。




「あータイミング逃しちゃったねぇ。残念でしたぁ。ヘヘッ!」



 呉井仁、こいつ...


 放送番組だから私を見て言ってるわけじゃない。ってことは初めから視聴者が間に合わないことはあらかじめ織り込み済みだから『残念』って言葉を使ったわけよね。



 ...ただのクレイジーじゃない。ただのいじわるだ。私たちは踊らされてる...いや、もしかしてやってるの私だけ!?そんなこと考えると急に怖くなってきた...考えるの、ヤめだっ。





「いよいよパスタの時間だ!!」



「みんな、パスタを300g。僕が今手に取ってあるくらいの量だ」



 300ってたぶん2〜3人前か。



「そしてパスタを口に加えて噛み砕こう!そして細かくなったパスタを鍋の上からペペペペペって、吐き出すんだ。鉄砲になったと思って。口に入れたピーナッツをどこまで飛ばせるか試す要領で。



 みんな見てて。アウアウアウアウ!バリバリバリバリ...


 ガアァァァァ!!歯がぁぁぁ...!!痛い」





 でしょうね。そうなりますよね。




「モゴ$@モゴ$#@亀@#*7990トンボ997草原と犬9」


(訳:次は口の中で細かくなったパスタを...ペペペぺだ)



「プップップッ!!!

 ...アツッ!!アツッ!!アチッ!!うわっ!!グワッ!もうやめたいっ!!なんでこんなこと言っちゃったんだぼくアツァッ!!」




 仁さんは勢いよく飛び込む細かいパスタから跳ね返る熱湯を顔で受けながら熱さに悶える。



「アハハハ」


 私はお腹を抱えて転がり回る。

 私、こんなに笑ったの久しぶり。

 呉井仁、すごいじゃん。なんかカッコイイ。



 さっきみたいに踊らされるのは癪だし危ないから、パスタを口で噛み砕かずそのまま鍋に入れて仁さんが最後までパスタを口から飛ばすのを見守った。



「パスタができる間に他の準備をしましょう。えぇと次は...


 ...まずい!!みんな!宇宙人が攻めてきた!!倒して!!

 」


 そういったかと思うと仁さんはシャドーボクシングを始めた。



「薄目を凝らして僕の周りを見て!!」



 また仁さんが変なこと始めた、どうせ減るもんじゃないと目を凝らしてみる。宇宙人、いた。仁さん戦ってるし。ってか私ん家にめっちゃ来てるし、2体くらい冷蔵庫漁ってる。


 え?何このでかい飛行船みたいなの?1,2,3,4...5隻!?降りてきた宇宙人が窓をすり抜けて入ってきてるんだけどこれって夢?



「みんな!!鍋つかみをつけて!!」


 呉井仁はカメラに叫ぶ。


「鍋つかみ付けたら助かるの?」


 と呉井仁に聞こえるわけじゃないけど叫ぶ。



「付けたらボクシンググローブみたいで力が漲るかと!」



 呉井仁、会ったらタダじゃおかない。






 10体ほどの宇宙人がキシャーと叫んで今にも襲いかかってきそう。



 なんで料理番組観て命がけの戦いに放り出されるの?戦うとか以前の話じゃない。すでに負けてるようなもの。あぁ、観なきゃよかった。こんなところで、こんなタイミングで、呉井仁のために死にたくない。



 もうヤダ!!どうにでもなれ!!これは夢。そうよ夢っ!!なれるよ!美少女戦士!!こうなったら何でも試してやる。誰も観てないし私の部屋でやってることだし。


「ええと...パスタクッキングふわとろマジ卍...コスチュームなんとかアップ...変わるチェンジメタモルフォーゼ!!!変換・革命・気候変動ォォォ!!!」



 思いつく限りの変身しそうな言葉と、私が思うカワイイ言葉を並べ立てた。


 拳を握り、両腕を胸の前でクロスさせると、私の体は光り出した。


 え?変身できるの!?やった。物は試しね。なんとかなるかも!


 光が消えたから変身が終わったみたい。私は自分の姿を姿見鏡でみる。さっきまでの私が赤いヘッドギアを被ってる...


 え。これで終わり?視線を下に落とすと、無地だった鍋つかみにニコちゃんマークの刺繍。



 ....この呉井仁ンンンゥゥゥゥ!!!!!もうやけくそだ。生きてお前に一泡吹かせてやる。



 ふいに『私の変身のセリフのせいでこんな格好になったかもしれない』と頭を過ぎったが考えるのを止めにした。






 意味がわからない。なんで料理番組みてたら命がけで宇宙人とキッチンにあるものだけで戦わないといけないわけ?理不尽すぎるよ...


 私は号泣しながら戦った。

 頭の中めちゃくちゃ。気を抜いたら終り。



 だから顔グシャグシャにして戦うしかないじゃない?



 だからエネルギー弾を避けられない時、それより強いパンチをぶつけて叩き落すしかないじゃない?



 だから鍋つかみの可能性を引きちぎれるくらい信じるしかないじゃない?



 だから生き延びるためにフランスパンで宇宙人の剣を粉砕したり、倒した敵の武器を装備するしかないじゃない?



 だから私の前に現れた敵全員に漏れなく『あんたは隣のやつにパートナー寝取られてるよ』とかウソ吹き込んで、同士討ちさせるのをソファに寝そべってポップコーンとオレンジジュースを両手にダラダラ傍観して、飽きたらタケシに今日いつかえってくるとかメッセージ送ったり、テレビは今料理番組で使えないからグッド・プレイス最新話までイッキミ再開したりするしかないじゃない?





 なんなの?なんで私がこんな目に?もう最悪。ボリボリ。






 私は敵将と一対一の勝負を申し込んだ。相手はあっさり承諾して宇宙船から将軍が窓をすり抜けて現れた。


 まず相手の攻撃力を奪うことにした私は、サーベルに直接左鍋つかみストレートを食らわせ砕いた。ひるんだスキをついて将軍の懐に踏み込み、鎧をフライパンでかち割った。怯んだスキにエプロンを脱いで顔になげつけると、エプロンがヒラヒラと将軍の目の前で展開して顔を覆い視界を奪った。割れた防御の弱い部分に3回転回し蹴りをお見舞いして、防具を完全に破壊し、現れた皮膚にマーガリンを塗りたくった。こそばくてゲラゲラ笑ってる将軍の首に竹串を当てて、降参させた。



 『将軍の危機』と、加勢する周りの宇宙人たちが一斉に襲いかかる。私はポケットに忍ばせた大量の竹串を体を旋回させて、全方位に飛ばした。


 竹串は全ての宇宙人の耳を貫きピアス穴を開け、竹串に刺しておいた、スライスちくわが耳にまとわりついてイヤリングと化した。


「次はあんたらのちくわの輪っかん中にキュウリねじ込むから。それともチーズ?」


 そう私が言いながら睨み回すと、宇宙人はSomethig in Chikuwa 的絶対恐怖を抱き、平謝りしながら、5隻のうちの一つの宇宙船を私に譲る条件を飲んで、帰っていった。


「はぁ、はぁ。1000体くらい倒しちゃった。私ってこんなに強かったんだ...喧嘩したことないのに喧嘩馴れしてる...」



「忘れてた!番組今どこ?仁さんはまだ戦ってる?」


 テレビを見るとボロボロになった呉井仁はまだ戦っていたので、戦った視聴者だけは見える戦いを見届けた。みえてない人には、『視聴者そっちのけで3時間空気と格闘する仁さんをただ見る』という番組に映った。




「さあ、あともうちょっとで調理は終わりですねぇ!ここからが楽しいところ。テンション上がってきた!!ウッフィィィィィッ...YEAHHH☆!!!」



 嘘でしょ?テンションがまだ上ってなかった?その言葉今使う?まだ元気に上があるわけ?私もう無理なんだけど...


 宇宙人と戦って疲れ果てた私は台所の椅子に座って眠り込んでた。



「・・・・最後にセロリを乗せて...完成です!」


 やばい。疲れて寝てた。30分くらい寝てた?眠たい目をこすって番組を観る。



「では食べてみましょうか...


 うん!50人に1人だけ食べれる味!」



 呉井仁は見慣れた白目をひんむかせて、そのまま倒れ込んでテーブル越しに消えた。急に一人残された司会者は、突然の呉井仁の不在に何かしなきゃと思ったのか、裏声で音頭を取りながら、今思いつたようなダンスを踊りだした。放送から既に6時間経ってるんだから時間を埋めなくていいのに。寧ろ唐突に終わってもいいくらい。


 私はテレビを消して鍋に目をやった。

 なんかただパスタが伸びただけじゃ説明できない何かが鍋の中で溢れていた。


 宇宙人のいたずら?寝ている間に好き勝手やって帰ってったみたい。対峙中に宇宙人が落としていった芋ようかんも入ってる。




「ミサただいま。」


 タケシが帰ってきた。


「おー、なんか作ってる?これは...ブラックホールに吸い込まれてる芋ようかん風モダン焼き!?


 おいしそう!」



 なんで『ブラックホールに吸い込まれてる芋ようかん風モダン焼き』の次の言葉に『おいしそう』を出してこれるの!?


 だけど、そんなブッ壊れ感があるのも、タケシの魅力の一つなんだけど。


「食べてもいい?」



「これパスタだから。いや、食べないほうが...」



 タケシは引き出しから箸を取り出して鍋から直接、私には説明不可能だけどあえて言うなら『黒いカレーをぶっかけた綿菓子に芋ようかんをぶっ刺した物体』の切れ端を取って口に放りこんだ。




「うん、意外と...グハァァッ!!」



 タケシはまるで真下に超磁力が生じて、吸い付けられるみたいに、目にも止まらない速さで床に体を叩きつけて倒れた。



「タケシッ!!しっかり!」



「おばあちゃんが、自分で作りすぎた料理を『食べ物を粗末にしたくない』って言いながら一人で食べてたんだ。それ、俺もいいと思ったから俺も食べ物を最後まで食べるように頑張ってたんだ。時々しんどいときとか、カロリー高すぎると思ったらやらない時もあるけど続けてて...」




「タケシ!!もう喋らないで!!」



「ミサ。頼む。俺の口にさっきのやつを、また..口に運んでくれ」



「ダメ!」




「俺はさぁ。ずっと信念貫ける人間じゃないけどな。

 俺が強く欲してるときくらい、貫かせてくれや。じゃないと…俺が誓ってきたものが、俺の中でどうでもいいものに変わっちまう…もう殆ど残ってないんだ。譲れないもの。だから、頼むミサ」



「そんなこと言わないで」



 ダメ。そんなこと言われたら。『食べたらダメ』なんて言えないよ…タケシごめんよ。止められない私を許して。



 今日作った料理を全力で食べてくれるタケシ。


 信念を大事にするタケシ。




 私は取り分けて、手を震わせながらタケシの口に2口目を入れた。



 タケシは2口目を飲み込んで数秒絶つと再び、床にめり込むくらい、ことさら倒れ込んだ。



「ばぁちゃん…」



 焦点の定まらないまま天井をまっすぐ見つめるタケシは呟き始めた。おばあちゃんが見えているのかもしれない。『タケシのおばあちゃんご存命』『おばあちゃんが孫のピンチに幽体離脱してきてるのかな?』の二言が、脳の片隅で主張し始めて嫌な気持ちになった。



「...残してもいいときも…あるよね。場合によりけり…だよね。柔軟な信念に変えていきたい…ぐふ」



「トドメを刺しちゃったー!!!タケシー!!」




 私は宇宙船にタケシを乗せて病院に瞬間移動した。



 タケシは無事だった。良かった。明日には退院できるって。



 私はお腹が空いたので、タケシの横で食べようと、近くの弁当屋で買ったものを出した。


「それなに?食べていい?」


タケシが私が食べようとするものに興味を持つ。


「パスタだけど」



「パスタだって!?ダメだ。パスタは今トラウマなんだ。しばらく食べれない」




「そっか。スープパスタだけど」



「なぁんだ。スープパスタか。おいしそうだ。食べていい?」



「いいよ」



 私はスープパスタをフォークでとってタケシの口に運んで一口食べさせた。


 タケシは口をモグモグさせながら喋りだした。




「ミサ」



「ん?」



「これ、パスタだね。」



「うん」



「ごめん...俺、今パスタ食べれないんだ」




「うん」



「…明日から食べれないってことにしようか?」



「うん!」




 タケシはスープパスタを2人前平らげた。


 タケシ。スープパスタに感動。




 私もスープパスタを一口、口に運ぶ。



「うっ」





「ミサ!?大丈夫か!?」





「う…んまぁ。。」



「びっくりしたぁ。ハハハ。うまいよね」




「乙女パスタに感動!!」


 そう叫んだ声があまりに聞き覚えがあり、聞いただけで感情を激しく駆り立てられた。


 声と同時に、タケシの正面のカーテンを開けて現れたのは、ベッドで寝ながら私を指差している呉井仁だった。



「あなたは...呉井仁っ!!この病院に来てたんですか!!」


 ここで会ったが100年目だコノヤロウ。



「どうして宇宙人が襲ってきたんですか?」



 呉井仁はしばらく私の質問を受けて語り続けるのを聞いた。



「………『芋ケンピおいしいね』って言ったら宇宙人が『唐突に何だあんたは?』って言ってきたから『何だあんたって何だあんた』って言ったら『何だあんたって何だあんたって何だあん…」



「この話、早送りするとどうですか?」



「『何だあんたって何だあんたって何だあんたって何だあんたって何だあんたって何だあんたって何だあんたって何だあんたって何だあんたって何だあんたって』って言ったら『何だあんたって何だ...」




「最後のとこまで早送って!」




「『何だあんたって ✕ 378』(私は実際に全部聞かされました...)って言われたから『もうやめよう』って言ったら『そうだね。ありがとう』って言われて…」




 止めるタイミングどうなってんだよ。何だあんたら。あと『ありがとう』ってなんだよ。何に感謝してんだか。『止めてくれてありがとう』的な?



「あの..これで話は終わりですか?」



「いや。芋けんぴは太いのが好きで、いっそ芋のまま食らいつきたいんですけど、それをカレーが許してくれないって言うか、うどんも嫉妬に駆られてケンピを嗅ぎ回って…」



「…クレイジーさん。話を整理させてください。つまりあなたは宇宙人からレシピを盗んだから、襲われたってことですか?そのトバッチリに視聴者も巻き込まれたと?」



「うん、作ってみたくてね。こっそり借りたんだ。返したのに来るもんだから。まぁこれはいつものことだから、それよりも面白いのは納豆に巻き付かれて手巻き寿司になったら巨人がお腹を空かせて顔にヨダレが垂れて『熱ぃ』ってもだえてたら見つかって…」



「クレイジーさん、私、あなたのファンなんです。御飯を作ったので食べてください」


 私は弾丸の中身めちゃくちゃの呉井仁のマシンガントークを何とか静止させて。

 宇宙船をポケットから出して家に瞬間移動した。料理番組で作った物体を鍋ごと持って病室に戻り呉井仁に渡した。



「え?いいの?嬉しいな。ファンってホントにありがたい存在だ。うん」


 呉井人はハンバーガーくらいの大きさの料理を口に頬張って、残りをストローで吸った。


「クレイジーさん、あなたにどうしても伝えたいことがあります」



「まだ何かくれるの?君って人は。そっちの彼はタケシくんだっけ?ごめんね。タケシ。」



 初対面のタケシをさっそく呼び捨てながら、歓喜あまって涙を流す呉井仁。


 次の瞬間、仁の顔は爆発しそうな顔に急変した。



「オゴゴ…」



 さようなら。呉井仁。




「シェフからレシピを奪うな。死にかけた」




「ゴフッ」




 気絶した呉井仁の額に赤色で『3』の数字が浮かんだ。3週間か3ヶ月か、3年だかわかんないけど、しばらく静かにしてくれそう。




 仁のポケットからプリントアウトされたレシピが出てきた。スープパスタだったんだ。料理番組の作り方とは全然違う。なんだこいつ。



 1日経ってタケシは退院した。病室までいって最後にスヤスヤと眠っている呉井仁を見たら、額が『2』になってた。マジかよ。復活早ぇよ。だけど仁さんの寝顔は可愛い。



 ***

 翌日、早起きして呉井人から奪ったレシピでお昼ごはんを作って持っていた。


 お昼休み。スープパスタに感動した。完治してない腕の十字傷が日に照らされてキラッと光った。




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乙女、パスタに感動 松川 真 @kanari_garusia

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