強面兵団長と、癒しのハーブティー

彩瀬あいり

強面兵団長と、癒しのハーブティー

 グスタフ・ガルンストは、イレーグ国内において、もっとも血気盛んといわれるオルタ兵団の中でめきめきと頭角を現し、わずか数年で団長にまでのぼりつめた男だ。

 剣の腕はたしかなもので、白兵戦で彼に敵うものはいない。

 かと思えば、馬を巧みに操って突き出す槍の腕もたいしたもので、鎧の継ぎ目を狙い敵を串刺しただとか、引っ掛けて空を舞わせただとか、嘘のような話も飛び交うほど。

 つまるところ、それぐらいに彼は強く恐ろしい男として知れ渡っているのである。

 ゆえに、彼はこう呼ばれる。



「さすが、化け物団長ですねえ」

「口を動かす暇があるなら、手を動かせ」

 部下の軽口に返したのは、血まみれのグスタフである。

 都のご令嬢が見れば卒倒しそうな殺戮現場だが、横たわっているのはマグルと呼ばれる大型の肉食獣。

 グスタフらは、戦火にあった地方を訪れている。近隣の村を統括する町・カースに居を構えた一団が到着してまずおこなったことが、森に出るといわれる獣の探索だった。

 戦は人の命を奪うだけではなく、動物や植物の命も奪っている。

 餌場を探して移動したか、肉食獣としても知られるマグルの姿を見かけたとなれば、捨て置くわけにはいかない。

 イレーグ国における兵団は、治安維持部隊といえる。王族を守護する近衛騎士団と違い、泥臭く活動するのが兵士たちの仕事だ。

 マグルの肉は脂が乗っていて、美味として知られているが、血がひどく臭う。

 それは異臭と呼べるものであり、その血が新たな獣を呼ぶ可能性がある。マグルを狩ると、その場で解体するのが習わしだった。

「これだけあれば、治療院の人も喜ぶでしょうね」

「そうだな。マグルから取った出汁は滋養効果も高いときく」

「マグルの粥は万能ですよね」

 しばらくすると、兵団の面々が荷車を持って現れ、肉塊となった獣を積み、町へ戻ることになった。



 地方における最大の問題は、流通だろう。これには、情報も含まれる。

 都から離れれば離れるほど、それらは形を変えてしまう。人を介したぶんだけ、内容が変わっていくのだ。

 こうした情報の差異は、逆にも作用する。地方の噂が美化されて都に届き、いざ現地へ向かってみると、噂ほどではなくて落胆するという現象がそれだ。

 今回オルタ兵団がカースへ赴くにあたり、真偽を確かめたいと思っていたことのひとつに、『癒し手』の存在がある。

 癒し手とはその名のとおり、癒しの力を身に宿している人々のことだ。技術をもって患者を治す医師とは違い、彼らは不思議な力を使う。傷を癒す奇跡の力は、戦いを生業とする者には崇められているのは言うまでもないだろう。

 癒し手の数は減少しており、奇跡の力にあずかるためには、彼らのもとへ赴く必要がある。

 しかし、治療を必要とするような者が長距離を移動するのは難しく、またなんとか辿り着いたとしても、順番を待つ必要があったりという問題もある。地方にいる癒し手は貴重といわれる所以ゆえんだ。

 癒し手は男女問わず存在するが、カースにいる癒し手は女性だという。

 癒しの力とは無縁だった地に現れた天使の存在は、王都でもいっとき話題になった。今回その地に派遣されることになったオルタ兵団は、喜びの声をあげたものである。

 だがその時、果たして噂は本当なのだろうかという議題が浮上した。

 天使などというから若い娘を想像しているが、果たしてそうだろうか。

 現役を引退した老婆が、余生を過ごすために地方へ移り住み、そのさなかに戦乱が起こったため、老体に鞭をうって働いている可能性も否定できないではないか、ということである。

 バカバカしい――と、グスタフは思った。

 清らかな天使に会いたいなどと騒いでいる者の大半が、彼女持ちである。それとこれとは別だと彼らはいうが、それは相手に失礼だろう。

 なお、女性は大切にするべきだと思うグスタフ自身には、そういった相手はいない。

 世間一般的に見て、グスタフ・ガルンストは熊だった。

 立派な体躯、いかつい筋肉。上背もあり威圧感がある。団長という職についているため、部下を叱責することも多いのだが、その声がまた雷のごとく大きく鋭い。無関係の通行人が半泣きになったぐらいだ。

 口数は多いほうではなく、その状態でじっと相手を見据えるものだから、敵でなくとも降参したくなるだろう。

 捕虜の口を割らせるために、あいつを立たせておけばよい。

 入団した十四歳の頃から、グスタフは無言で威圧することが得意だったし、むしろそれを推奨されていた。なかば癖のようになっており、戦場での勇姿と合わさってつけられた通り名が「化け物」である。

 泣く子がさらに悲鳴をあげる、化け物団長・グスタフの名前は有名で、そんな恐ろしい男に嫁ぎたいなどという女性は誰ひとりおらず。二十六歳になってなお、独り身を謳歌している真っ最中だ。

 たぶん一生満喫するはずだと、本人は思っている。




 カースの治療院は、孤児院を兼ねた教会に併設されていた。

 これはどこの町でも同様で、医師と癒し手がまったく別の存在であることの証だろう。

 癒しの力は、古くは魔力と称されていた、今は廃れてしまった力の名残で、保護の対象でもある。一部の特権階級が利用しないよう、国が目を光らせている状態だ。

 カースの癒し手もまた、どんな人物であるか調べておかなければなるまい。



 広場でマグル討伐の報告とともに、その肉を提供する。有志による炊き出しがおこなわれており、早速そちらにまわされた。

 兵士たちは各人が手伝いに入り、それらを見送ったのち、グスタフは教会を訪ねた。

 教会主は禿頭を下げ、王都からやってきた兵団長を歓迎する。孤児院に案内しようとする手を制止し、グスタフは癒し手のことについて訊ねた。そんな場所へ顔を出せば、子供たちが泣き叫び、阿鼻叫喚の地獄と化すだろう。

 教会主は、グスタフを反対方向へ導いた。

 ついていくと、教会の裏にまわる。そこには畑が広がっており、うねが並んでいた。

 まわりこむようにして進んでいくと、農具を保管しているとおぼしき小屋がある。雨風に耐えうるようにか、石とレンガで作られており、傍には井戸もあるようだ。

 教会主はその小屋へ向かうと、おもむろに扉を叩いた。

「アーネ、客人だ」

 中から物音がし、ギイと軋んだ音を立てて扉が開く。

「どなたがお怪我を……」

「そうではない、都からいらっしゃった御方が、おまえに訊きたいことがあるそうだ」

「都から?」

 姿を見せた相手は、フードを被った小柄な人物だった。声からして若い女性だとは思うが、それもさだかではない。

「君が、カースの癒し手か?」

「……あ、はい。たぶん」

「たぶん?」

「我が町にいる癒し手は、この者で間違いはございません」

 答えたのは、教会主のほうだった。

 フードの人物はただ黙って立っており、前を向いているのか下を向いているのかもわからない。

 そのまま語りはじめる教会主を制止し、退去を願う。周囲の声も大切な情報ではあるけれど、それらは兵士たちが住民から聞き出す手筈てはずになっている。癒しを受けた療養者へも、炊き出しを提供しながら接触しているはずだ。グスタフの仕事は、癒し手本人への聞き取りだった。

 渋々ながら去っていく教会主の背中を見送ったあと、グスタフはあらためて目前の人物を見下ろした。

 己の胸元あたりにある頭は小さく、フードの布が余っている。

 ローブの裾も地につき、ところどころがほつれている。全体的に、丈が合っていないらしい。

「どこか落ち着いて話をできる場所はあるだろうか」

「でしたら、中へ」

 促されて覗いた先は、納屋ではなく生活空間だった。

 椅子と机があるほかには、天井から下げられたランプがある程度。

 片側の壁には棚が設えられており、書物や箱、畳まれた布など、「部屋にあるものを全部置いてます」といったふうになっており、グスタフはさりげなく目を逸らす。

 癒し手はといえば、簡易的なかまどにかけてあった薬缶を取ると、カップに注いでいる。着席したグスタフの前に提供された茶は、若草色をしていた。

「これは……?」

「すみません。自家製のハーブティーで、あの、これしかなくて、本当にすみません」

 見慣れない色合いに首を傾げるグスタフに、相手はバタバタと頭を下げはじめた。その動作に、フードがさらに乱れる。

 あまりの勢いに、グスタフは慌てて声をかけた。

「いや、こちらこそすまない。とてもよい香りがしたものだから、どんなものか気になっただけなのだ」

「よい香り、ですか?」

「頂いてもよろしいか」

「あ、はい、えと、どうぞ」

 新緑の中にいるような香りが、鼻先をくすぐる。口に含むとほのかに甘く、けれど爽やかなあとくちで、非常に飲みやすい。

 癒し手は、薬師を兼ねている者もいるというが、彼女もまた、そのたぐいなのかもしれない。


 ――しかし、良い味わいだ。自家製と言っていたか。種類と配合を教えてもらうことは可能なのだろうか。いや、しかしもしもこれが秘蔵のものであったとするならば、門外不出ということに。


 厳つい顔のグスタフであるが、彼はハーブティーの愛好家なのだ。殺伐とした日々の仕事を癒してくれるそれらを、こよなく愛している。

 国内で流通している一通りの茶葉は知っているつもりだったが、そのどれとも違う味わいに舌は喜び、感動が身体中に広がる。

 なんとかこれを我が物にできないものだろうか。

 ううむと唸ってしまったところ、目前の人物がビクリと震えた。

 俯いているのかフードが垂れており、ますます顔が判然としない。かすかに震えているようにも見え、グスタフは嘆息した。

 相手はおそらくは女性。

 であれば、化け物たる自分を恐れるのは仕方がないことだ。

 とはいえ、仕事はこなさねばならず、グスタフはできるだけ穏やかに聞こえるように祈りながら、口を開いた。

「詰問に来たわけではないのだ。我々は、戦禍のなかで治療に励んだ癒し手に感謝している――」

 癒し手だけでは無理な治療もあるため、医師団の派遣も考えている。兵団は状況確認も兼ねてやってきており、しばらく滞在すること。こちらからの報告を受けて、医師団が出発することになっており、彼らと入れ替わる形で帰還する予定であることを告げる。

「それまでのあいだ、なにか手伝えることがあれば遠慮なく言ってほしい。とはいえ、我々ができることは、力仕事ぐらいなのだが」

「……お医者さまがいらっしゃるのですか?」

「そうだが、べつに癒し手の領分を侵そうという意味ではない」

 自分の力を信じず、ないがしろにされたと怒る癒し手もいるだろう。

 グスタフが否定すると、フードがふるふると揺れた。

「いいえ。むしろ皆さまが喜びます。きちんとした治療が受けられるのですから」

「だが、癒しの力とは別だろうに」

「ええ。あんな不気味な力に頼らなくてもよくなります」

 安堵した声に、グスタフは首を捻った。

 なにかがおかしい。

 問いただそうとした時、扉が叩かれる。教会主が癒し手を呼びにきたらしく、話は途中で終わってしまい、グスタフは野営地へ戻ることになった。


 その後、団員たちから受けた報告によりわかったことは、癒し手はあまり良い印象が持たれていないという現実だった。

 医師でもないただの女性が、手をかざしただけで傷を治すのだ。グスタフらにしてみればそういうものだが、知らない人からすれば、得体のしれない現象であるらしい。

 痛みから解放されたことは嬉しいけれど、なにかおかしな術をかけられているのではないか。

 まやかしではないのか。

 囁かれる声は悪い意味で広がり、あの癒し手は「魔女」と称されているのだという。

 魔女は、冥府の魔物と契約を交わし、人間であることを止めた者の末路だといわれている。戒めとして語られている、御伽噺のようなものだ。

 しかし、古い慣習が残る地方では、それを正とする考えがあることもたしかであり、それらを教訓とすることを咎めるわけにもいかない。そもそも魔女などいないのだから、見えない存在を必要悪と定めても実害もなかろう。

 だが、魔女と呼べる存在が形を持ってしまえば、話は変わる。

 教会の隅に、隔離されるように住んでいたアーネという名の癒し手を思い出して、グスタフは唸った。

 今日、どうにも様子がおかしかったのは、このせいだったのだ。癒しの力を不気味だと称した理由が、よくわかった。

 ひとまず、明日また訪ねてみよう。そして告げてやらねばなるまい。癒し手は悪しき者ではなく、その真逆に立つ存在なのだ、と。

 戦いの場で幾人もの人をあやめ、冥府へ送ってきた己とは違う。彼女の力は、救い以外のなにものでもないのだから。


 明くる朝、グスタフが癒し手の住む小屋へ向かっていたところ、畑の中で動く影が見えた。

 盗人かとこっそり近づけば、そこに居るのはローブを羽織った小柄な人物――癒し手だ。目深にかぶっていたフードは外されている。

 早朝の太陽が照らす、不揃いに切られた赤い短髪。白い首筋が朝日に映え、グスタフはごくりと唾を呑んだ。

 そのかすかな音が聞こえたのか、赤髪の人物が振り返る。

 青と緑。左右に違う色を宿した若い娘と目が合った瞬間、彼女は慌てて小屋へ向かって走り出した。グスタフもまた、つられたように駆け出す。

 あっというまに距離は縮まり、手を伸ばして白い腕を掴む。その細さに驚くグスタフの前で、彼女が尻もちをついた。

「すまない。驚かせるつもりではなかったのだ」

「……なにか、御用でしょうか」

「話をしにきた」

「なんの、おはなしですか?」

「ひとまずは立ってくれ」

 畑の脇に設置された休憩用の椅子に腰かけ、グスタフは癒し手を見る。相変わらず下を向き、こちらを見ようとはしない。

 この体格差だ。相手にしてみれば、自分は昨日以上に恐ろしいことだろう。

 なるべく距離を取るグスタフの耳に、戸惑いの声が聞こえた。

「兵団長さまは、恐ろしくはないのですか?」

「なんの話だ?」

「私のこの姿が、です」

「素晴らしい癒し手だと、よくわかる姿をしているじゃないか」

 癒し手は身体に複数の色を宿しており、その数が多ければ多いほど能力が高いといわれている。

 彼女は赤い髪に、青と緑のオッドアイ。これほどはっきりと色が出ている者は、都でも多くはないだろう。

 そう言うと、大きく瞳を開いてグスタフを見た。

 はじめて正面から顔を見ることになったグスタフは、その美しさに胸の高鳴りを覚える。

 女性にまっすぐ見つめられたことは、皆無といっていいだろう。ともすれば、同期の兵士たちだって視線を逸らせる強面だ。

 恐いからじっと見るなよ、と上司に言われた経験は数知れず。

 グスタフは思わずこぼした。

「き、君こそ恐ろしくはないのか」

「なにがですか?」

「俺の顔は、恐ろしいだろう。自慢ではないが子供は泣くし、犯罪者だって泣いて詫びるし、俺が警邏に出ればゴロツキがいなくなると言われている。イレーグの化け物団長とは俺のことだ」

 ヤケクソ気味に叫んだ言葉に、彼女はしばし呆気にとられ、つぎに顔をゆるめた。

「では、私と同じですね」

「なに?」

「私も、化け物だと言われていますから」

「君のような可憐な女性が、なぜっ」

 ずいと思わず近づいてしまったが、アーネは怯みもせず、苦笑して言葉をつづける。

「傷を治す、痛みもなくなる、なんて。普通の人間じゃありません――」

 孤児院で育ち、怪我をした子を癒したことで露見した不思議な力。癒し手なる存在を認識したのは、傷ついた兵士たちが近隣で拠点を敷いたときだった。

 都から来た兵士の口から、癒しの力を持つ者は医師と並ぶ治療師だと知らされ、周囲の目は変わったという。それまで敬遠していた人々が、治療を求めてやってくるようになったのだが、やがてべつの問題が起こった。

 癒しの力は、あくまでも怪我を主としたものであり、身体の中をいじるような処置はできない。まして、死地へ向かう人を留めることなど、できるわけもない。

 だが、人々はそれを糾弾した。


 治る者、治らない者。

 治療を受けられる者、受けられない者。

 痛みが消えた者、消えない者。

 命を落とす者、助かる者。

 平等ではないそれらに異を唱え、声をあげる。


「馬鹿な! 医師とて、助けられない命はある。まして、年を重ねた者の命を際限なく伸ばすことなど、出来るわけがない」

 戦場で命を落とした者は、たくさんいる。

 哀しみは尽きないが、その憤りを無関係の人間に向けるのはおかしい。

 人はみな、生まれたかぎりは、終わりを迎える。

 そうした寿命に逆らうことは、この世のことわりを狂わせる行為。神への反逆に等しい。

 死を安らかに見送り、残された者に救いを与えるべき教会で、そんなことがまかりとおっていることが、グスタフには信じられなかった。

「兵団長さまは、お優しい方ですね」

「なっ――」

「ありがとうございます。私のおこないは、人を不幸にするだけではないのだと、そう思うことは罪ではないと、おっしゃってくださって」

 顔をあげ、ちいさく笑みを浮かべる姿は、朝陽のせいか光輝いて見え、グスタフは眩しさに目を細める。

 そんな彼の前で、アーネは前髪をいじり、左右色違いの瞳を上向きにした。

「この髪、子どもの頃よりも色が濃くなってきているんです。皆が言うには、私が殺してきた人たちの血を吸っているせいだとか。瞳も、片方は絵本の魔物と同じだし。私自身、人ではなくて化け物から生まれたのだと、そう思って――」

「それは間違っている!」

 アーネの肩に手を置き、その瞳を覗きこみながら、言い聞かせるようにしてグスタフは告げる。

 空の青、大地の緑。そして、命の炎である赤。

 癒し手にとって最上とされる色であり、すべてを宿したアーネは、国家が管理する癒し手の中でも、上位に位置する力を有している可能性が高い。きちんとした教えを受けさえすれば、いまよりもずっと優れた癒し手になれるはずだ。

「アーネ、都へ来ないか」

「都ですか?」

「君は環境を変えるべきだ。癒し手を拒む地にいるより、ずっと安らかに過ごせる」

「ですが、私は孤児です。都というのは、家柄が大切だと言いますし、私のような者が住むにふさわしいとは思えません」

「問題ない」

 炊き出しの最中に聞いた癒し手の冷遇ぶりには、団員たちも顔をしかめており、アーネをこの地から解放することには賛同してくれるだろう。

 身の置きどころを案じているようだが、それについては考えがあった。

 イレーグにある五つの兵団には、貴族の後ろ盾とともに専属の癒し手を抱える権利がある。

 そして、グスタフが所属するオルタ兵団には今、専属治療師がいない。彼女が同意してくれるならば、オルタ兵団の癒し手として、居場所を提供できるのだ。人選は、各団長に任されている。

「俺が君の面倒をみよう。君のことは、俺が守る」

「化け物と呼ばれる私を、ですか?」

「それは君の力の証明だろう。人は、己が持っていない未知の物に対して、恐れを抱くものだからな。胸を張って良い」

「兵団長さまも、同じですよね。あなたさまは、誰にも負けないほどお強いと聞いています。その御力は、人を死に至らしめるのと同時に人の命を救っていらっしゃる。あなたさまのおかげで、戦いは終結し、これ以上の被害が抑えられたのです」

 お救いくださり、ありがとうございます。

 深々と頭をさげた彼女を見ながら、グスタフは胸が軽くなるのを感じた。

 武器を手に、戦場を駆け抜けて暮らしてきた。

 化け物と恐れられ、味方にも遠巻きにされてきた日々は、知らぬあいだに汚泥となって、胸の内に堆積していたらしい。

「礼を言うのは、こちらのほうだ……」

 こぼれた言葉を受けて、彼女はまた小さく微笑んだ。



 イレーグの化け物団長、グスタフ・ガルンストと連れ立って歩く赤髪の癒し手の姿が話題になるのは、これより半年後のこと。

 けれど今はまだ、教会裏の小屋で、美味しいお茶を味わう時間。

 アーネの自家製ハーブティーが、ガルンスト家の味になるまでの攻防は、後のオルタ兵団に「伝説の戦」として語り継がれることになるのだが、それはまだずっと先の、別のお話。




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強面兵団長と、癒しのハーブティー 彩瀬あいり @ayase24

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