あーちゃんのお願い事

 書き終えた短冊を結わえて、商店街のお店をぐるりと巡った。

 半分くらいご近所の挨拶のような、やわらかく温かいやりとりをして、お店から出ては、感想をあーちゃんと話して。

 今年も、それだけで十分に楽しかった。


 和菓子の蔵田さんで新作のお菓子を買い、広場で休憩をする。

 新作は蔵田さんのお孫さんが発案したとのことで、水まんじゅうをベースにしながらも、かわいらしい飾りが施されていた。

 買うときのあーちゃんは、蔵田さんの話に食い気味でうなずいていて、興奮を隠しきれていなかった。かわいい。


「今年も楽しかったねえ」

「うん」

 お祭りといっても催しはそれほど多いわけではなく、あとは景気づけのささやかな花火と、笹と短冊のお焚き上げが残るのみだ。

 あーちゃんの短冊には、『大願成就』と書いてあった。

 わたしも『学芸が上達しますように』と当たり障りのないことを書いたけれど、あーちゃんが誰よりも神社のようなお願い事を書いていたことに、思わず笑ってしまった。



 あーちゃんがお手洗いに行きたいというので、あーちゃんの手荷物を預かって、空を見上げながら、ぼんやりと待つ。

 太陽が再びひょっこりと顔を出すようなことはなく、やっぱり夜空。天の川がよく見える、素敵な星空だった。

 そこへ花火が打ち上げられて、遅れて大きな音が、びりびりと響いた。


「待たせてごめん」

「ううん、全然――」

 戻ってきたあーちゃんが、ぶんぶんと振ったわたしの手を掴んだ。

 あーちゃんが急に手を掴むようなことはこれまでになかったので、驚いて返事が途切れてしまった。

「行こう、ちーちゃん」

 あーちゃんはわたしと手を繋いで、ぐるりと踵を返し、わたしを先導するように歩き出した。

 再び上がった花火に照らされたあーちゃんの耳と頬は、赤く染まっているように見えた。

 あーちゃんにも聞こえそうなくらいに自分の鼓動が大きく聞こえて、自分でも顔が熱くなっているのがわかる。

 まだまだ知らないあーちゃんがいるんだ。


 お願い事、叶うといいな。

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あーちゃんの短冊 久世うりう @kuzeuriu

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