第4話(完)
それから、しばらく経ったでしょうか。
体を揺さぶられる感触に目を開きます。
「もう着いたのか?」
そう口走り、揺さぶられた左腕に目を向けます。
――気付いた――
あれだけ、無視をしようと決め込んでいたにも関わらず、私は応えてしまったのです。
得体の知れない女が私を揺さぶる感触に。
「あ、ちょうど着きましたよ。駐車しますね」
運転席側から、後輩が答えます。
女の存在などまったく気付いていない後輩は、私の言葉だけに反応しているようでした。
私は30分ほど眠っていたようです。
職場に戻って来たにも関わらず、辺りは霧でした。
「……今は、晴れてるか?」
震える声で、私は彼に尋ねます。
「先輩寝ぼけてるんすか? めっちゃ晴れてるじゃないっすか。星見えますよ」
気付いた……気付いた……
女たちはずっと誰かに気付いて欲しかったのかもしれません。
いつもは10分ほどで抜ける霧が、いまはまだ私の視界を邪魔していました。
私はどうやらそのまま連れて来てしまったようです。
何人いるかはわかりません。
1人、2人……。
それ以上は、気付かないフリをしました。
気付いたことに気付かれてはいけない――そういうものなのでしょう。
「……星が綺麗だな」
私は空を見上げ、心にもないことを呟くのでした。
気付いた 律斗 @litto
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