第3話

 恐ろしくなった私は解かりやすく彼の方へと体を向けました。

 女を視界から消すためです。

 ですが残念なことに、運転席側の窓にもなにかが張り付いていました。

 どうやら、囲まれていたようです。

 霧ではない、なにかたくさんのものに。

「ひっ……」

 思わず息を飲みました。

「先輩? もしかして俺の運転酔いました? 一旦停めます?」

「と、停めなくていい。そのまま走ってくれ」

 気付いた……気付いたと、何度も言われているような気がしました。

 もうこれ以上気付いてはいけない。

 絶対に、反応してはいけない。

 そう悟りました。

「……悪いが、少し休憩したい。運転はそのまま続けてくれ。道が解からなくなったら起こしてくれていいから」

「わかりました! だいたい一本道なんで大丈夫っすよ」

「じゃあ、職場に着いたら起こしてくれ」

 先輩として後輩の運転を見ておくべきかもしれないが、私は彼に頼ることにしたのです。

 霧から抜ける10分だけでいい。

 そこさえ過ぎれば問題ない。

 椅子を少し倒し、目を伏せます。

 恐怖はありましたが、霧を視界から無くしたことで少し気分は落ち着きました。

 疲れが溜まっていたせいか、一気に睡魔が訪れます。

 彼の運転は心地よく、すぐに意識が遠のきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る