シオン 三十と一夜の短篇第51回

白川津 中々

 アリスは孤独だった。

 花園に埋もれ空を見る毎日が退屈で仕方がななく、夜毎シオンの花に「寂しいわ」と語りかける事を慰めとしていた。


「誰かいらっしゃらないかしら」


 答えはない。シオンはただ、風にゆらぐだけである。


 ある日、アリスの前に一人の男がやって来た。アリスと同じ、青い目をした男であった。


「やぁ君。お名前は? こんなところに一人でいて寂しくはないかい」


「私はアリス。ご覧の通り、寂しいわ」


「そうかい。僕はチャールズ。おいでアリス。二人で暮らそう」


「まぁ。チャールズ。嬉しいわ」


 アリスはチャールズの手を取り彼と都会に住み始めた。都会は物に溢れ、人に溢れ、臭いに溢れ、色に溢れ、音に溢れた刺激的なもので、アリスは五感全てでそれを堪能し、毎日を新鮮な気持ちで過ごすのだった。


 だが、それも一年も経てば途端に窮屈となり、街の全てが煩わしく思えた。道ゆく人も排ガスも落書きも賑やかさも、彼女を悩ます種となっていた。

 

 アリスはシクシクと夜に鳴くようになった。夜毎語りかけたシオンの花を思い出し、「花園自由な場所へ帰りたい」と呟くのだった


 見かねたチャールズは言った「あの花園不自由な場所へ帰るかい」と。アリスは頷き、街を去った。


 花園に帰ってきたアリスはまた孤独となった。

 空を見上げ、星を、雲を、青色を眺める毎日を再び送るようになった。


 アリスは夜毎、シオンの花に「寂しいわ」と語りかける。


 答えはない。シオンはただ、風に揺らぐだけである。

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シオン 三十と一夜の短篇第51回 白川津 中々 @taka1212384

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