第24話 公園で……ですわ

 シュエリアに散歩という口実で連れ出され、普段絶対に見れない物を色々と見た後、公園にて。



「この公園、随分とカップルが多いですわねぇ……」

「そうだな。これだと俺とお前もカップルに見られそうだよな」

「ハンッ」

「おう、鼻で笑うとはお前、どうせ『わたくしとユウキが釣り合ないのなんて発情期のバカップルでもわかりますわ』とか思っているだろう」

「大体合ってるけどその後半の明らかにモテない男のひがみの様なバカップル発言までわたくしの言葉にしないでくれないかしら」

「つまり発情期のカップルとは思っているわけだ」

「発情期とも思って無いですわよ!!」



 公園に着いた俺とシュエリアはこの場に姉さんが居ないことに安堵すると同時に、周りのカップルが気になり、公園を散歩しながらこのような話をしていた。



「正直ユウキとわたくしってカップルに見えないと思いますわ」

「まあそうだわな。まずもって恰好からしてお前と俺で差があり過ぎだし」



 そう、シュエリアと俺では格好が既に違い過ぎるのだ。



 片や綺麗な純白のドレス風のワンピース。

 片や外出すると思っても居なかった成人男性の家着。



 うん、どう考えても不釣り合い。

 というか、この凸凹コンビ感、確実に目立つよな。



「今更だけど、なんでそんな格好なんですの?」

「お前が外出するって言わずに俺を呼び出し、その上自分だけ準備終わったら手を引いて連れ出してきたからこうなってるんだが」

「そうだったかしら……気を効かせて着替えて待つとか、したらよかったのではないかしら」



 言いながらも、呆れたような顔でやれやれと言った様子で首を振るシュエリア。

 こ、コイツ……。



「お前は俺に何を求めているんだ……」

「そうよね……童貞には難しいですわね」

「何かにつけて童貞を理由に理解を深めるの止めろ?! 童貞だから仕方ないみたいに言われんのすげぇ傷つくから!」

「Mなのに……?」

「Mじゃないからなぁ!!」



 なんでコイツの中の俺はM童貞なんだ……。



「じゃあ逆に、マジで童貞ではないんですの?」

「……っ。いや、童貞、だけど」

「うわ、素直に答えるんですのね」



 俺の答えに、若干引いた様子を見せるシュエリア。

 ちょっとまて、物理的にも距離取ってんじゃねぇかコイツ。



「お前が聞いたんだよな?!」

「だからって素直に童貞って答える方もどうなんですの……」

「じゃあ童貞じゃないって言ったらどうしたんだよ……」

「そんなのぶん殴るに決まってますわ」

「なんでそんなバイオレンスな返答が?!」



 なんで殴られるって決まってるんだ……。

 引かれるか殴られるかって、酷過ぎる二択じゃねぇかな……。



「わたくし以外の女ととか、許さないですわ」

「それ普通好意を持っている相手に言うセリフだよな?!」

「……だから……あぁもう、いいですわ。はぁ」

「……え、何そのため息」

「…………はぁ」



 うーん?

 この感じだと、ため息の理由が一つしかないような……。



「お前もしかして俺の事好き?」

「……このクソオタクは……良くも悪くも補正ゼロよね……」

「はい?」

「もういいですわ……そうですわよ、好きですわ。あーはいはい、好き好き好きー」



 そう言いながら俺に軽くハグしてくるシュエリア。

 え……何この投げやりな感じ。

 あんまり好意を持たれている感じがしない……。



「これはあんまり好かれてない感が凄いんですが」

「そんなことないですわー愛してますわーラヴいですわー」

「凄く棒読みっぽいのは気のせいですか」

「これは照れ隠しですわー」

「さいですか……?」

「さいですわー」



 何だこの凄まじい投げやり感。

 シュエリアのデレってこんなやっつけ作業みたいな感じなのか……?



「そんなことよりユウキ」

「んっ? おう」



 俺がシュエリアの急なやっつけデレに困惑していると、急に素に戻った様な喋り方になったシュエリアに一瞬驚いたが、とりあえずハグからは解放された。



「とりあえず散歩はもういいですわ」

「え? もういいのか」

「えぇ、公園にも来たし、やりたいこともできたから、散歩はもういいですわ」

「ん……おう」



 なんだろう、この会話、凄く気になる部分があるんだが。

 やけに強調されて言われた気がする、



『散歩はもういい』



 っていうのは、散歩以外は何かするってことだろうか。



「シュエリア」

「なんですの?」

「この後、何するんだ……?」

「あら、気になりますの?」



 俺の言葉を待ってましたと言わんばかりにシュエリアは明らかに何か企んでいる笑みを浮かべた。

 ……これ、もしかしなくても散歩ってただの口実で、もっと別の目的の為に俺を連れ出したかっただけなのでは……。



「もしかして何か奢らされたり、むちゃくちゃさせられるのか?」

「公園にきてその発想って……わたくしのことなんだと思っているんですの……」

「嫁(仮)になってから嫁らしいことは一切せずに俺の事をしょっちゅう振り回しては奢らせたりとんでもないこと仕出かす、見た目だけは超絶美少女のヤバイ奴だとは思ってる」

「我ながら外見以外の評価が面白いくらいに低いわね……」



 そういってシュエリアは苦笑いした。



「別にそんなとんでもないことはしないですわ」

「じゃあ奢らされると」

「なんでその二択なんですの……違いますわよ」



 言いながら、シュエリアは公園の芝生に座ると俺に手招きをした。



「ん? 何」

「ほら、こっち、来なさい」



 俺は呼ばれるままにシュエリアの元に行き、とりあえず俺だけ立っているのも変だし、前にでも座ってみるかと思ったのだが。



「違いますわ、そこじゃなくて、こっち、ほら、ここ」



 そう言ってシュエリアがポンポンと叩いたのはシュエリアの真横の芝生。

 ……うん、それは……うん?



「真横に座れと」

「ですわ?」

「……なぜに」

「先に答えを求めすぎるのはよくないですわ? ほら、はよ」

「…………はぁ」



 なんだかよくわからないが、このままで居ても仕方がない。

 多分言う通りにしないと機嫌悪くなるし、話も進まないんだろうし。



「で、これでどうすんだよ。すげぇ話しにくいんだけど」



 そう言いながら俺はシュエリアの左隣に座った。

 たまに思うが、横に居る誰かと話すのって微妙な心地悪さを感じるんだよな。

 多分相手の顔を見ながら話しにくいせいで、自分の言葉に対する反応を伺えないからだろうけど、なんとなく居心地悪いんだよなぁ。



「どうするって、そりゃあ、こんなところで横に座ったら、やることは一つですわ?」

「ほう……それは――」



 俺がそれは何か、問おうとする前に、俺の体はなぎ倒された。

 シュエリアの左手によって、右側に。



「こ……れは……」

「どうかしら。わたくしの『膝枕』は」

「……どうって…………」



 いや、意味が分からなすぎる。

 これ、は……うん、柔らかいし、凄く心地のいい膝枕なんだが……。

 これがやりたいことなのか……? だとしたら――



 これ、ここでやる意味、ある?



「一応聞くぞ」

「何かしら」

「これをやる為に俺を連れ出したんでは、無いよな?」

「はぁ……膝枕するためにわざわざ公園まで来たとでも?」

「あぁ、よかった。その言い草だと違うんだな?」

「いえまあ、合ってるけれど」

「あってるのかよ?!」



 俺こんなことの為に連れ出されたのか……。

 というか、なんで膝枕。



「なんで膝枕を? しかもわざわざ公園で」

「恋人っぽくないかしら」

「……いや、まあ、ぽいかもな」

「ですわよねぇ」

「……ん?」

「え?」



 いや、なんでお前が疑問形なんだよ……意味が分からんのだが……。



「それで?」

「それでとは、なにかしら」

「いや、だから。恋人っぽいから何なんだよ」

「あぁ……恋人っぽいですわね。で、終わりですわよ」

「……は?」



 えーっと。つまり。アレか?



 コイツ、俺と恋人っぽい事したかった、だけ?



「恋人っぽく公園で膝枕したかった、だけ?」

「ですわ」

「…………」



 ……うん。



「お前、アホだろ」

「おっと急に来ましたわね」

「いや、急でもねぇよ。お前はいつもアホだけど今この瞬間はアホ極振りのアホだよ」



 なんでコイツこんなことの為にわざわざ公園まで来るかな。



「家じゃダメなのか」

「公園っていう場所ですると恋人っぽさが増す気がしないかしら?」

「いや……まあ、わからないでもないが、別に自宅でやっても恋人っぽいだろ」

「……それはまあ、そうなのだけれど。家だと…………ほら、アイネとか、シオンとか」

「はあ。アイネと姉さんが……まあ二人が居る前で膝枕とか、できないわな」

「でしょう?!」

「お、おぅ」



 まあ、それ自体はわかるんだが、むしろこうまでして何故これをしたかったのか。



「なんでここまでして恋人っぽいことをしたかったんだよ。アニメか? 漫画とか」

「……普通わかりそうなものだけれど。アニメの影響なのは間違って無いですわ」

「またアニメか……お前ほんと好きだよな。影響受けすぎ」

「そうですわね」

「おおぅ、気持ち悪いくらい素直だな」

「よーし、ぶん殴りますわ」



 そう言ってシュエリアは拳を振り上げた。

 俺に膝枕をした姿勢のままだというのに、これで殴られたらめちゃ痛いんですが。



「まてまてまて! この姿勢で殴られると打ち下ろしになるからむちゃくちゃ痛いんだが?!」

「大丈夫ですわ。わたくしの膝にも影響があるから……ちゃんと表面を引き裂くように拳を振るから」

「なんでそんなシコ〇スキーみたいな技持ってんだよ?!」



 素直だと言ってここまでキレられるとか一体何がどうなっているのか……。

 いや、気持ち悪いとか女の子にいったらそら怒られるか……?



「……はぁ。まあいいですわ。とりあえず、しばらくこのままでいたいですわ」

「はあ。俺は良いけど、お前はいいのか? 俺だぞ? 相手」

「ん? 別にいいですわよ」

「こういうのは普通好意がある相手にするもんで、暇つぶしでするものじゃないぞ?」

「…………ユウキって本当に馬鹿野郎よね」



 そういってシュエリアは「はぁっ」と思い切り聞こえるようにため息を吐いた。

 うーん、美少女の膝枕に顔に当たるほどの深いため息……なんというか、凄くご褒美だなぁ。



「…………」

「…………」



 その後、思ったよりシュエリアは俺に絡んできたり話してきたりせず、ただ俺に膝枕をして、時折俺の頭を撫でてずっと遠くを見ていた。

 周りのカップル達にも同じようにしている者たちが居るし、親子連れとかも居てそれなりに人気がある公園だというのに今こうしている間だけはなんというか、静かで穏やかな時間が流れている気がする。



 うん。思ったより凄く癒される。



「…………まさかシュエリアに癒しの効果があるとはなぁ……」

「さらっとディスられた気がするのは気のせいかしら」

「気のせいだろ。褒めてるよ。すげぇ癒される」

「……そう。なら来た甲斐もあったというものですわね」

「さいですか」

「さいですわ」



 シュエリアさん的には来た甲斐があったのか、これで。



「最近、ユウキ、疲れてるように見えたから」

「……ん? マジで?」

「マジですわ。だから、まあ。こういうのも良いかと思っただけで、いつもの思い付きですわね」



 それはつまり、ここに来たのは膝枕をしてみたいがアイネや姉さんの眼が届かないところがいい、っていうことではなく。

 俺を癒すために邪魔の入らない、尚且つ落ち着いたところで膝枕したかったってことか?



「たまにはいいこと思いつくじゃないか」

「たまに、は余計ですわ」

「さいですか」

「さいですわ」



 うーん、そうか……たまにはいい事もあるもんだな。

 っていうか、俺は最近疲れた風だったのか、気づかなかったな。

 まあ、ある意味コイツ等の相手は多少疲れるし、間違ってもないか?



「俺のどの辺が疲れて見えた?」

「気になりますの?」

「まあな……気を使わせてしまったみたいだし」

「ふぅん、そうですわね……」



 シュエリアは顎に手を当て遠くを見ながら答えた。



「わたくしに夜這いをしなくなった辺りかしら」

「元からしてねぇよ!」

「あとわたくしをイヤらしい目で見なくなったわね?」

「元から見てないからなぁ!」

「それに、お風呂を覗かなくなったし」

「元からしてねぇよ!!」



 何だコイツ……俺がそんなことしてると思ってんのか……。

 いやそりゃ、もし相手が本当にただただ美少女ならどれか一つくらいは当てはまったかもしれないが、相手がコイツだし、流石になぁ……。

 なんていうか、異性っていうよりは同性の友達みたいな気さくさがあるから、あんまりそういう対象としてみないというか。

 そんな感じだったんだよなぁ。



「ついでにゲームで凡ミスするし」

「ついでって……それくらいはするだろ」

「あぁ、そうですわ。料理も味が変わりましたわ」

「それはほら、たまには少し変わった味付けとかさ……」

「最後に、笑顔がいつもと全然違いますわ」

「…………いや、それは……」



 最後のは正直、無いとは言い難い。

 実のところ、最近は仕事疲れがあり本気で笑うより、苦笑いとか、営業スマイルが多かった気はしないでもない。

 しないでもないが。



「それが俺が疲れてると思った原因か?」

「まあ、そうですわね。何故疲れている様子なのかは知らないけれど、少なくともユウキが『いつも』と違うのは間違いないと思ってますわ。違って?」

「……いや、まあ。間違っても無いが……正しくもないかもな」

「……そう」



 シュエリアはそれだけ言うと特にそれ以上聞いてきたりはせずに黙てしまった。



「聞かないのか? 理由」

「無理に聞く気はないですわ」

「別に無理にって訳ではないな」

「ふうん。じゃあ聞いてあげますわ?」

「聞いてあげるっておま……」

「だって聞いて欲しいのでしょう?」

「いや……まあ……」



 特段話したいわけでもないのだが、聞かれないとそれはそれでモヤモヤするのも事実ではある。



「実は最近好きな人がいることに気づいた」

「……これはまた唐突ですわね。気づいたっていうのは、今まではそういう風に意識してなかったってことですの?」

「そうなんだよ……でもよく考えてみたら『アレ? 俺って実は好きなんじゃないの?』って」

「…………ふうん……それで、嫁(仮)のわたくしが邪魔ってことかしら?」



 そう言ったシュエリアの声は少し硬かった。

 気になって表情を伺おうと思ったのだが他所を向いていて顔がよく見えない。



「シュエリア……さん?」

「なんでさん付けですの?」

「い、いや、なんか機嫌悪そうだなぁと」

「そんなこと無いですわ」

「さいですか……?」

「さいですわ」



 そう言いながらもシュエリアの声はいつもと違った印象を受ける。

 怒っているような、動揺しているような、少し寂しい時の拗ねたような……そのどれとも違うような。



「それで、ユウキはどうしたいんですの」

「え? あぁ。いや、だからさ。その人に、どう接したらいいかなと」

「……それであんなだったんですの?」

「いやまあ、実際は他にも色々あるんだが、一番はそれだな。今まで通りでいいのかと」

「知らないですわそんなの」

「……またズバット切り捨てるなぁ」

「実際何も知らないのだから他人事ですわ。誰が好きかも、どんな関係なのかも知らないのだから」



 まあ、そりゃあ確かにそうなんだが……他人ってことはないだろ、少なくとも俺は。



「でもまあ」

「……ん?」

「好きな人がいるなら、積極的に動いた方が良いですわね」

「ほう、それはいったいどういう」

「だってユウキって周りに女性ばかり侍らせているじゃない」

「侍らせてねぇよ」

「だから相手からしたらユウキって八方美人で自分だけを見てくれない印象とか、ライバルが多いとかいう印象があって、手を出しにくいかもしれないでしょう」

「……はあ。そういうもんかな」



 俺の侍らせてない発言はガン無視しやがったなコイツ。

 まあ、言ってることはなんとなくわからないでもないが、むしろ俺の周りってガンガン攻めてくるタイプが多いから手を出しにくいっていうか出されまくってるんだよなぁ……主に義姉さんだけど。

 その義姉さんも以前のデートで俺のことは諦めた……らしいし。なぜさっき追いかけられたのかは不明だが。



「だからユウキからいってあげた方が、いいですわ」

「……シュエリアはそう思うのか」

「そうですわね、わたくしならユウキみたいなのが相手だと、周りがヤバすぎて手が出しにくいですわね」

「なるほど」



 まあ、参考にはなったな。

 なにせシュエリアの言葉だし。

 というか実は本人もヤバいシュエリアですらヤバいと感じる女性陣とつるんでる俺ってどうなのよ……。



「具体的にどうしたらいいんだろうな、俺は。今までの関係性を変えた方がいいのか?」

「そうですわね、今までならしなかったようなことをするといいのではないかしら」

「ふむ……俺からボケるとか」

「今ので誰が好きかわからない辺りユウキの周りってボケばかりですわね」

「それな」



 ほんと、俺の周りはボケかます奴ばかりだよな……。



「じゃあ後は、そうだな、歯が浮くような言葉を言ってみるとか?」

「あら、急にそれっぽいですわ?」

「……シュエリア、今日のドレス似合ってるな、まるで花の妖精みたいだ」

「わたくしに言ってどうするんですの……」

「あれ、ボケたつもりだったんだが。ダメか」

「どこら辺がボケだったんですの……それにボケでそういうの言っちゃダメですわよ? わたくし相手だからいいようなものを、勘違いされかねないですわ」



 そういってシュエリアは大きくため息を吐いた。

 そんなシュエリアの表情は若干イライラしているように見える。



 しかし、これはどうなんだろう。

 これは失敗したのか、いや、失敗はしているんだが、失敗した要因がボケが悪かったとか以前に、俺の意図が伝わってないのではなかろうか。



 敢えて『ボケ』て『歯の浮くような言葉をいった』のだが。



「あの、シュエリアさん」

「あ? なんですの」

「おう、すっげぇ機嫌悪いな……せっかくの綺麗な顔が勿体ない」

「余計なお世話ですわ。どっかのアホにくだらないボケをかまされたせいで結構機嫌悪いんですの」



 そう言いながらも膝枕と頭撫では継続してくれるシュエリアに、こういうところがいいんだよなぁとか思ってしまう。

 そう、そうなんだよなぁ。



 意外と好きなのだ、こういうシュエリアが。



 気づいたのは最近だった。

 元からシュエリアの見た目だけは好みなんだよなぁとは思っていた。何せこれ以上ないくらいの美少女だし。でも性格はなぁ……と、思っていたのだが。



 ある日夜寝る前に疲労感を感じて、なんで最近疲れるのだろうかと考えたことに始まり、シュエリアが来てから騒がしくなったからだと思い、シュエリアといると退屈しないんだよなぁと思ったあたりで気づいた。



 そう、気づいたのだ。

 シュエリアの見た目以外を好きな事実に。


 そして先日の義姉さんとの話で完璧にシュエリアを好きだと認識させられた。



「なあシュエリア」

「だから、さっきからなんですの?」

「俺さ、さっきから『ボケ』てるし『歯の浮くような言葉』も言ってるんだけど、ダメそう?」

「少なくとも別の女性に練習みたいにそういうことを言うのはダメに決まっていますわ」

「あー…………うん」



 なるほど、そうなりますか。

 なるほどなぁ。うんうん。



 つまりシュエリアは俺がシュエリアを好きなんてこれっぽっちも想定してないから、こういう反応なわけだ。

 いや、まあ、そんな気はしてた。



「練習どころかバリバリ本番なんですが」

「…………へぁ?」



 シュエリアはそう、間抜けな声を出すと眼を見開いたまま俺を見つめてきた。



「本……番?」

「そう」

「今さっきのが?」

「だな」

「わたくしに言った、アレですわよね?」

「そうだが」

「…………」



 そこまで聞いたシュエリアは顔を赤くして眉を吊り上げた。



 あれ、怒ってる? これ。



「本当に馬鹿ですわねっ!!!!!!!!」

「おおおぉう、すげぇ音量で怒られた」



 それはもう、さっきまで自分たちの世界を作っていた周りのカップル達がこっちに意識を持っていかれるくらいにデカい声で怒られてしまった。



「そんなに馬鹿か、俺」

「馬鹿ですわ?! 普通好きな女性に恋の相談して、その結果得た情報をその場で試して、あまつさえ本人に感想聞くとかありえないですわ!」

「いや、ここに実体験があるのですが」

「前例がないって言ってんですわ!!」

「いやあ……人類史も長いし、意外と歴史を遡れば……」

「そんな細かい事どうでもいいですわ!!!」

「あ……はい」



 また怒られてしまった。

 そんなに変か……覚えた知識は忘れる前に自分の物にするのがとても効率的かつ効果的だと思うのだが。



「……それで?」

「ん?」

「わたくしのこと、好きなんですの?」

「そうなんだよ。気づいたときにはビックリしたわ、俺」

「わたくしは呆れましたわ……」



 いやあ……まさか好意を明かして呆れられるとは……。



「じゃあ、まさかと思うけれど、最近笑顔が微妙だったり、料理も微妙だったり、なんだかんだ色々微妙だったのは……」

「そうなんだよ、シュエリア綺麗だなとか、笑顔が凄く可愛いなとか思ってたらつい、な」

「もう歯の浮く言葉でボケるのはいいですわ……」

「いや、これは割と素なんですが」

「……なお質が悪いですわね……こういうのってもっとそれっぽい流れとかあってから来るイベントじゃないかしら」

「それが日常の一コマで済んでしまうのが現実だな」

「妙にそれっぽいこといいますわね、童貞のくせに」



 いやはやこれまた辛辣な……。

 今の会話の感じだと脈まったくないのでは。



「じゃあ今のこの状況ってどうなんですの」

「好きな人に膝枕されて頭撫でられるとかいう天国みたいな状況だな」

「まあ、好きな人に呆れられてる状況でもあるわけだけれども」

「そうなんだよなぁ……なんでだろう」

「あんたがアホだからですわ」



 そう言いながらもシュエリアはまだ頭を撫でてくれている。



「で、どうなんですかね」

「何がですの」

「いや、そうだな。うん」



 そうだよな、どうっていうより、やはりちゃんということは言わないとな。

 そう思い切り、俺はシュエリアに告げた。



「シュエリア、俺はお前を愛してる」

「ぶっっ!!!!」

「オイ」



 ……なんだろう、今すっごく傷ついた。

 まさか告白して断られるとか、嫌がられるとかでなく『吹いたwww』的な反応されるとは思わなかった。



「いえ、だって……ふ……ふふ……ひ、膝枕された状態で、決め顔で見上げ…………ふふふふ……告白って……ぷっ!!」

「…………」



 うん、とっても傷ついたよ、俺。

 正直こう言われてみると確かにシュールな絵面だとは思う。



 好きな人に膝枕されながら顔を見上げて真剣な顔して告白するとか、うん、アホかと。



「しかしここまで笑われると若干どころでなく傷つく」

「ふ。ふふ……面白いからいいのではないかしら」

「さいですか」

「さいですわ……ふっ」



 くそ、コイツいつまで笑ってやがる……。



 …………可愛いなコイツ、ほんと、はぁ。可愛いな。

 シュエリアはこの笑顔がすこぶる可愛いのがいいところなんだよな……それだけにこのタイミングで俺の好きな笑顔が見れている理由が俺の告白っていうのが非常に皮肉だと思う。



「そろそろいいですかね」

「ふふ……何がかしら?」

「いや、だから、俺はシュエリアに告白したわけですよ」

「え? あぁ……そうでしたわね」

「おおぅ、面白さが上回って忘れられてたヤツか」



 なんてことだろう、この分じゃ下手したら一生ネタにされかねない。



「えぇ、まあ、そうですわね……はぁ。笑い過ぎて気恥ずかしさなんて全く無くなってしまいましたわ」

「さいですか」

「さいですわ。で、そうね、ユウキ」

「はい?」

「わたくし、ユウキのボケ、全然好きじゃないですわ」

「……おっと」



 これはあれですか、遠回しに断られたってことか。



「……でも、歯の浮いた言葉は結構面白かったからこれからも一生楽しませてくれて、いいですわよ」

「……え、マジで?」



 それはつまり、これからもシュエリアを褒めて、楽しませろと。

 それも『一生』だ。



「それは、好きと捉えていいのか?」

「えぇ。好きですわよ。というか好きでもない相手に膝枕なんてしないですわ? だから、これからもその似合わないセリフを言って、かまって、笑わせて、幸せにしてくれなかったら、許しませんわ」

「お、おお。おう」



 まさか、そうか、いいのか。

 あんまり嬉しいのと、思った以上に好意的なセリフ。

 それ以上にシュエリアの嬉しそうな笑い泣きの顔があまりにも印象的で、頭の中がそれで一杯な為か、言葉が全く出てこない。



「じゃあ、今日から俺達は……」

「えぇ、わたくし達は……」

『恋人だな(夫婦ですわ)!!』

「…………え?」

「…………は?」



 ……おっと、これはしくじったな?

 俺はてっきりカップルからだと思っていた。

 しかし、シュエリアは違ったようだ。



「今は嫁(仮)なのだから、その先は普通、夫婦になるのではないかしら……」

「あ、あぁ……そういう。いや、恋人から初めて、もちろん結婚は前提に置いてるぞ? でもな、とりあえず恋人からだな?」

「とりあえずってなんですの」

「あぁ……いや、すまん、てきとうな言い方はよくないな」

「当たり前ですわ」



 う。うん。

 怒ってるな、シュエリア。目に見えてわかる。顔がもう、笑顔なんて欠片も無い。



「……でも、な」

「でもなんですの?」

「俺、シュエリアとはちゃんと結婚式とかしたいし」

「……え」

「それに指輪をプレゼントして、ちゃんとしたプロポーズとかもしたいし」

「…………」

「そう考えるとやっぱり――」

「――恋人ですわね!!!!」

「そうなります?」

「そうなりますわ!!」



 そう、いつものノリより大分前のめりに返事をしてくるシュエリア。

 よかった、ちゃんと理解してもらえたようだ。



「ということで、よろしくお願いします彼女」

「しかたないからよろしくしてあげますわ、彼氏」



 と、まあ。



 こうして、俺とシュエリアはなんてことのない日常の中で、特にイベントとか、それっぽい流れもフラグも無く、付き合うことになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

娯楽の国のエルフの暇 ヒロミネ @SHIRAIKI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ