金子と金子女

分身

第1話

 4組の連中は駅前のマクドナルドで賭ページワンを毎日やっていた。僕は高校から歩いて帰ると桐山に借りた文庫本を返しにそのマクドナルドに行った。階段を上がると二階席の一角で連中が賭事に熱中していた。

「あ、健ちゃん久しぶりー。」

 聞き覚えのある声がした。見ると中学時代の同級生の疋田がこっちに手を振っていた。友達と一緒にいる。

「おー、お前、あの娘と知り合いか?」

と桐山が茶化す。僕は恥ずかしくなってぶっきらぼうに返事をした。

「知らねえよ、あんな女。」

「健ちゃーん、ねえ返事してよー。」

 疋田はまだ手を振っている。僕は恥ずかしくて下を向いた。

「嫌だ、健ちゃん、無視するもん。」

 僕はそそくさと店を出た。


 その足で町で一番大きい書店に行って参考書を立ち読みしていると、他校の女子が参考書売り場にやって来た。何気なく彼女の顔を見て僕はびっくりして固まってしまった。


 その女子は友人の金子に顔がそっくりだった。まるで金子が女装しているかの様だった。その金子女はしばらくうろうろしていたが、マンガ売り場の方へ行ってしまった。その間僕はこっそり彼女のことを観察していた。彼女の制服は確かK女子高のもので、背は本物の金子より少し低かった。そう言うと彼女が偽物みたいで申し訳ないが。あまりにそっくりなので写真を撮ろうかと思ったけど見つかると厄介なので止した。跡をつけるのも。


 次の日の昼休み4組に行って桐山に金子女の話をした。

「まーさかー。」

 桐山は本気にしていなかった。本当だって言っても笑うばっかりだった。丁度その時噂の金子が通りかかった。

「おい金子、お前双子の妹がいるだろ。」

と僕が声をかけると金子は、

「何言ってるかわからん。」

と吐き捨てるように言って自分の席に戻ってしまった。その時始業のチャイムが鳴ったので、僕は自分の教室へ戻った。


 それから金子女のことをすっかり忘れた頃、模試があった。昼休憩に弁当を食べて会場の専門学校の校内をぶらぶらしていると、何とあの金子女が友達二人とおしゃべりしていた!僕は教室に戻り桐山を捕まえて言った。

「金子女がいたぞ!」

「えっマジか!」

 桐山を引っ張っていって、見つからないようにこっそり覗くと、金子女はまだ友達としゃべっていた。

「な?そっくりだろ。」

「すげぇ本当だ!」

 桐山は腹を抱えて大爆笑していた。金子女がちらっとこちらの方を見たような気がした。


 月曜日のお昼4組に顔を出して桐山と金子女の話をして笑っていると、金子が教室に戻ってきた。

「おう金子、昨日お前そっくりの女また見たぞ。」

と金子を呼び止めると、金子は苛ついて言った。

「まだそんなこと言ってんのか。」

 桐山も口を出した。

「ほんとほんと。マジそっくりだったぞ。」

 すると金子の顔がみるみるうちに真っ赤になって、

「そんな女はおらん!」

とでかい声で怒鳴ったので、教室が一瞬静まりかえった。金子は、フン、と鼻を鳴らして自分の席に戻った。


 今になって思い返すと、いったい金子女とは何だったんだろう、と思う。あまりに金子にそっくりだったし、ドッペルゲンガーとはちょっと違うと思う。しかしなぜ金子はあんなにむきになって否定したのだろう。怪しい。もしかして本当に生き別れの妹だったかもしれない。想像は尽きないが、今は高校を卒業して何年も経つ。桐山や金子とも連絡は取っていない。まあ謎は謎のままにしておいたほうがいいかもしれないと思う。

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金子と金子女 分身 @kazumasa7140

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