第30話 アルミニウム採掘①
翌日、俺はヤクマと共にアルミニウムの採掘に出発していた。
往路だけでも二日かかる道のりにおいて、無口なヤクマとの会話は中々に苦労するものとなっていた。
さすがに二日目ともなると会話もなくなっていた。
無言でもいいか……。
そう思っていたが、ふとあることが気になりヤクマへ尋ねてみた。
「そういえばミズイガハラの領主は俺達が警備隊と関係していることを知っているんですか?」
「ああ、あの領主か。もちろん、領主の耳には入っているだろうね。君達の功績は領民達の噂になるぐらいだから」
「それじゃあ、何か妨害されたりとかは……?」
「今のところそれはない。あの領主は見ての通り、自らの私腹を肥やすことばかり考えている。そのことは国の方でも把握されていてね。領主の権力の一部は国にはく奪されたのだが、そのうちの一つが我々の警備隊だ。真に守るべきは領主ではなく、領民だ。私腹を肥やすために街の守りがおろそかになってしまっては、本末転倒だからな」
「……つまりヤクマさん達警備隊は国直属の機関である、と?」
「ああ、そう受け取ってもらって問題ない」
領主は国からも目を付けられているのか……。俺はそう思うと共に、領主の独裁を阻む仕組みを導入しているこの国に感心していた。
「あ、そろそろです」
北の大地の玄関口である二つの山が視界に入ってきた。
「ほう。周囲には……敵影もなさそうだ。だが念のため斥候を出しておくか」
ヤクマはそう言うと警備隊へ合図を送る。
すると警備隊の進行は停止し、その後方に控えていた偵察隊が先行する形となった。
偵察隊の動きは非常に素早く、身のこなしも軽やかであった。
その速さはアイネルに乗っているかの如く、そしてその姿は瞬く間に
「カズト君、先ほどの話の続きなのだが……確かに領主には警備隊に指示を出す権力は持っていない。だが、私設の兵力は有している。あの領主は追い詰められたら何をしでかすかわからないからな。君達も少し用心しておいたほうがいい」
「……はい」
確かにここ最近の俺達の動きは領民からの信を得るようなことばかりだ。事実、領民からの認知度は大幅に向上し、街を歩くたびに感謝の言葉を告げられる。
そして領主はそれを良く思わないだろう。たまった鬱憤の暴発も、あり得なくはない話であった。
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偵察隊が部隊を離れて1時間ほどが経った頃であろうか。偵察隊が無事に帰還した。
しかし、偵察隊の面々の表情は少し曇っていたように思える。
「報告します。目標地点まで偵察を行いましたところ、目標付近にて3体の"オーク"を確認しました。どこかへ移動する気配はなく、野営を行っている模様」
「……なに?」
偵察隊の報告により部隊には緊張が走った。
野営を行っているということは、他の"オーク"との合流を待っている可能性がある。
仮に3体を撃退したとしても、その危険は残る。
ヤクマは一瞬の間ののち、部隊へ檄を飛ばすかのごとく話し始める。
「ーーしかし、我々が欲しているのは大規模侵攻を食い止めるためにはどうしても必要なものだ。それであれば危険を冒してでも行かざるを得まい」
そしてヤクマは腰に携えた剣を抜き、号令を掛ける。
「皆のもの、戦闘準備を整えよ! "オーク"の動きは遅いと聞く! 弓兵を先頭に、距離を取って殲滅せよ!」
部隊はその号令に端を発し、編隊を組み替える。
ヤクマの指示通り、弓兵を先頭にしその後ろには盾兵、槍兵、剣兵と続く編成となった。
そしてヤクマの合図により、部隊は進行を開始した。
しばらく進行していくと、偵察部隊からの情報の通り"オーク"が3体野営しているのが確認できた。
まだ相当な距離を保っているため、こちらにはまだ気付いていないようである。
「射程ギリギリまで進行する。各員、音を立てぬよう注意せよ」
射程まではあと200メートル程度といったところだろうか。
わずかな距離ではあるが、時間をかけてゆっくりと近づく。
そして"オーク"達が弓兵の射程に入った時、ヤクマが弓兵へと手で合図を送る。
その合図を切っ掛けに、弓兵や弓に矢をセットし、その弦を引く。
「放て!」
ヤクマの言葉と同時に、弓兵達は弦を引く手を離した。
"オーク"目掛けて飛来する10本以上の矢。
その7割以上は"オーク"の巨体に見事命中した。
しかし、"オーク"達は倒れるどころか、こちらを認知し雄たけびをあげた。
「うがああああぁあぁぐああああぁ!!!」
その雄たけびの迫力は遠く離れていても、屈強な警備隊員を後ずさりさせるほどのものであった。
そして"オーク"は警備隊目掛けて突進を始めた
「このままの距離を保持し、弓を射続けろ!」
ヤクマの指示により、"オーク"の動きに合わせて警備隊も後進しつつ、攻撃を続けた。
幸いにも"オーク"の突進速度は予想以上に遅く、すぐさま距離を詰められることはなかった。
しかし、"オーク"の屈強さは異常なほどで、矢が何本刺さろうとも突進が止まることはない。
次第に矢の残量も不安なものとなってきた時、ヤクマは号令をかけた。
「弓兵下がれ! 盾兵前へ!」
その言葉と共に、盾兵が編隊の最前列へと出る。
そして盾の先端を地面に突き刺すようにして構えをとる。
盾兵は大型の鋼製盾を二人で一つを保持し、敵の動きを食い止めるのが役目だ。
盾を突き刺すのはアンカーの役割を持たせているのであろう。
「うがああああぁあぁぐああああぁ!!!!!!」
次第に近づく狂乱の声。
そしてついに盾兵と"オーク"とが会敵した。
異世界からの旅人 〜【知識マニアで現場監督】の俺は【自然の産物】を利用して世界を変えてみようと思います〜 山崎リョウタ @RyotaYamazaki
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