第29話 オーク
ミズイガハラへ戻った足でそのまま警備隊へと向かった俺達は、応接室へ案内されていた。
俺達とヤクマは対面となって座っている。
「それで、今日は何の用件だろうか?」
ヤクマは単刀直入に話を振った。
「はい。実は先ほどまで、北の大地の手前である鉱物の採取をしていたのですが、その時に"オーク"の群れを発見しまして」
「……ほう。それはどれくらいの数だ?」
まるで事前に情報を得ていたかのように、ヤクマからは冷静な反応が返ってくる。
「目視できたのは全部で20体ほど。こちらの存在には気づいていたようですが、目もくれずに南東方向へと進んでいるようでした」
「南東……か。やはり、と言うべきなのだろうな。実は調査部隊からも報告が上がってきている。北の大地から南東に行った場所にある開けた地に"ゴブリン"が集結してきていると。──もしかすると数週間以内、いや2週間以内に大規模な侵攻が起きる可能性が……いや、間違いなく起きる。"オーク"もそれに合流しているのかもしれないな……」
ヤクマが眉間にしわを寄せているのがこちらからでもわかる。
「それはどれくらいの数なんだ?」
間髪おかずに、ファティマがヤクマへ問いかける。
「いま現在把握しているのは"ゴブリン"が1000ほど」
「ふむ。それで、それはどれくらいまで増えると予想しているのだ?」
ヤクマは少し考えたのち、こう答えた。
「--"オーク"の合流も加味すると、その数は8000ほどまで膨らむ可能性もあるだろうな」
「8000……」
俺はたまらず息をのむ。あんな化物達が8000体も……。
そう考えると足がすくんでしまう。
だがファティマはそうではなかった。
「それでこちらはどの程度の戦力を用意できるのだ?」
「他の街の警備隊に応援を要請したとして、4000……いや4500が限界であろうな」
「ふむ。私の傭兵500を追加しても5000か……。圧倒的に足りんな……」
いくら魔物が直線的な侵攻しかしてこないと言っても、数で劣り個の力でも劣っているとなれば、防衛戦であろうともかなりの被害が出ることが予想された。やもすれば街自体の存在も危うくなる。
応接室には緊迫した空気が流れていた。
しかしそんな空気を破ったのはクウネルであった。クウネルは唐突に俺へ話を振った。
「カズトさん、何かアイディアがあるんじゃないですかぁ?」
「--え??」
俺は困惑した。この時点で俺の頭には何も浮かんでいなかったからだ。いや、正しくは何も考えていなかったとも言える。
俺の専門は建築や材料の知識と経験だ。魔物との戦争に俺の出番はない、そう考えていたのだ。
「この間もぉ、カズトさんのおかげでぇ、無被害だったじゃないですかぁ」
「うーん……そう言われても……。──それじゃあもう少し魔物の侵攻について教えていただけますか?」
俺は妙案が浮かぶ自信はなかったものの、ダメ元で魔物達の動きについて詳しい説明をお願いした。
そしてヤクマから教えてもらった魔物の侵攻の特徴はこうであった。
「これは承知のことかもしれないが、魔物は群れごとに固まって直線的に攻めてくる。そして、こちらの防壁が薄い街の入り口を目掛けて突っ込んでくるのが基本だ。他部族との連携もなく、ただただ固まってまっすぐに向かってくる」
「--そうすると、こちらの防衛は一方向だけでいい。ということですか?」
「ああ、入り口の方向さえ死守できれば問題はない」
思いのほか、魔物達の動きは単純であるとわかった。
そしてここで俺はあることを思いついた。アルミニウムのもう一つの使い方を。
そしてそれは元の世界では禁忌とされる使い方であった。
「──それであれば何とかなるかもしれません。ですが、準備に非常に手間がかかってしまいます。順調に進んだとしてもギリギリ間に合うかどうか……。そしてもう一つの問題として、この準備には北の大地の眼前に広がる台地で取れる鉱物を大量に必要とします。そこで採取して運搬して、となると相応の危険を伴うことになります。私にはクウネルさんのような一般の商人達に危険を冒して取りに行けとは言えません。そこを警備隊の方々でなんとかしていただければ……」
「ほう。何やら策があるのだな。──君の策であれば信用に値する。警備隊は全力で協力させてもらおう。それで何を取ってくればいいのだ?」
「アルミニウムという鉱物をお願いします。初回は私も同行しますので、詳しいことは現地でお話します。それとクウネルさんとファティマさんには硝子の大量生産をお願いしたいです」
「ふむ。何やら面白そうだの」
ファティマの顔は先ほどまでと異なり、明らかに輝いているのがわかる。
「私はぁ、硝子の材料を集めてくればいいんですねぇ?」
「さすが、話が早いですね。まずは鍾乳石と砂漠の砂、そして植物の灰を大量に準備しておいてください」
「わかりましたぁ」
その後、順番が前後したが俺は作戦の概要を伝える。しかし、作戦の肝となるアルミニウムを使った部分はこの世界では馴染みのないもののようで、すんなりとは理解されなかったように思える。だが、作戦の流れは理解してくれたようだ。
「それでは明日より準備を各々開始せよ」
ヤクマの号令により、この日は解散となった。
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