第28話 アルミニウムの発見
「いつの間にか植物も生育しないほどの高度まできていたのか……」
俺はこの日、クウネルから「珍しいものがあるから見て欲しい」と声を掛けられ、とある山中を進んでいたのだった。
そこはミズイガハラから北へ、アイネルで二日ほど進んだ場所で、北の大地の玄関口のような所であった。
そこは溶岩でできた黒くゴツゴツとした台地と、そこからそびえ立つ二つの大きな山が特徴的であり、クウネルが言うには二つの山を越えた先が北の大地であると言う。
「あの先が北の大地……」
"ゴブリン"などの魔物達が追いやられた地。俺達はその目前まで来ていた。そしてそんな場所に訪れるとなると、俺とクウネルだけでは不安が残る。
ということで、今回も当然ながらファティマに護衛をお願いしていた。
「集団でこられたらさすがにひとたまりもないな」
ファティマは自身の発言とは裏腹に、その顔はニヤリと笑っている。
「まあぁ、ファティマさんがいればぁ、なんとか逃げ切れますよぉ」
クウネルのファティマに対する信頼も相当なものである。
「あ、もうすぐですよぉ」
クウネルがそういうと、小高い丘のような所を指し示した。
そこは二つの山のうち、手前側にある山の麓であった。
クウネルはなぜこんなところまで来ていたのだろう……そんな疑問が頭によぎる。
「クウネルさん、よくこんなところまで来ましたね……」
俺はクウネルにカマをかけるように尋ねた。
「情報が商売で最も大切なものですからぁ。北の大地の動向を探ってぇ、今後売れそうな商品を事前に仕入れておくのが優秀な商人になるための秘訣ですぅ」
なるほど、クウネルの考えは最もなことだ。やはりクウネルは生粋の商人なのであろう。
「こやつは逃げ足だけは超一流だからの。魔物に出くわしても早々問題にはなるまい」
そんな話をしているうちに、クウネルが指し示した場所へと到着した。
「これですぅ。これがなんだかわかりますかぁ?」
クウネルが指した先には所々に、くすんだ銀色をした小さい鉱物のようなものが埋まっていた。
「……これは……」
俺はその鉱物のようなものをまじまじと観察する。
くすんだ色はどうやら酸化してしまい変色した様子である。
そして俺は用意していたハンマーとノミを使い、鉱物を採取した。
小さな欠けら一つを手に取り、さらに観察を続ける。
その欠けらは非常に軽く、鉄と比べても半分以下のように感じる。
そして表面を少し削ってみたところ、表面の硬度もそれほど硬い印象はない。削った面からは少し光沢のある銀色が顔を出した。
このことから俺は一つの結論に辿り着く。
「これは……アルミニウムだと思います。自然の中で見つかるなんて珍しいですね」
アルミニウムは通常、ボーキサイトなどから精錬して精製される。
それには大量の電気や、化学物質が必要なのだが、自然界でも条件が整えば自然のアルミニウムが現れることもある。
元の世界ではごく稀に発生する程度であったが、この世界の環境は条件が整いやすいのかもしれない。
俺がじっと考え込んでいると、いの一番にファティマが突っ込んできた。
「アルミニウム? なんだそれは?」
「アルミニウムは金属の一種で、硬すぎず柔らかすぎず、また融ける温度が低いことから加工のしやすい金属なんですよ」
俺は元の世界で得た知識を二人に伝えた。
「ほう。そんなことよく知っておるな。どこでそんなことを知ったのだ?」
ファティマは俺に対しやたらと好戦的であった。
おそらく、クウネルから"異世界からの旅人"について聞いているのであろう。
なんとか俺の口から"異世界からの旅人"について話をさせようとしているように思える。
「ファティマさん、いじわるはやめてください……元の世界で見聞きした知識ですよ」
俺は早々に観念し、自白した。
「ふむ。──すまぬな。クウネルが知っていて私が知らぬというのは納得ができなくてな」
ファティマはニヤリとした笑みを浮かべながら謝罪した。
「それはそうとぉ、これで何がつくれるんですかぁ?」
「うーん、例えば食器とか、あとは建物の材料になったりしますね。ただ、そこまで高度な加工はここでは難しいので、主は食器になると思います。木と違って腐食しないですし、なかなか便利ですよ」
「そうですかぁ。食器だけとなると、危険を冒してここまで採掘しにくるリスクとコストにあわないですねぇ……。残念ですが、今は諦めますかぁ」
クウネルは残念そうな顔をしているものの、何か期待した眼差しでこちらを見つめている。
仕方なく、俺は一つの可能性を示した。
「やるとすれば……鋳型をつくって鋳込めば建物にも流用できると思います……。ですが、材料を結構食ってしまうので、大量の鉱石が必要になってしまいますね」
「いやぁ、さすがカズトさん。では早速ミズイガハラへ戻り、算段をつけましょう」
さすがクウネルだ。切り替えがはやい。
「ふむ。それで、あそこに見える"オーク"はどうするかの?」
ファティマは落ち着いた口調で俺達に告げた。
俺はファティマの指す方を慌てて確認した。
俺達から1キロメートルほど離れた場所であろうか、そこにはくすんだ緑色の異形がこちらを見つめていた。
遠目であるためわかりにくいが、"ゴブリン"の3倍はあろう体躯に筋肉質な体。そしてその手にはこん棒のようなものが握られていた。
「……まだ離れていますね。"オーク"は集団で行動するのですか?」
「どこかを攻めるとかぁ、そういったことがない限りは個人行動ですねぇ」
「うむ。クウネルの言う通りだな。だからこれはちとまずいかもしれんな」
「……え?」
俺はもう一度"オーク"のいた方へ目を向けた。するとそこには2体3体と徐々に増える"オーク"達が確認でき、最終的には総勢20体ほどの群れになっていった。
「これはぁ……まずいですねぇ……」
「ええ、まずいですね……」
「逃げるぞ」
ファティマの一言を切っ掛けにし、俺達は全力でその場を離れた。
幸いにも"オーク"の目的は俺達ではなかったようで、こちらを追いかけてくることはなかった。
「しかし、どうして……」
「もしかするとあの洞窟の件が既に魔物の中で伝わっているのかもしれんな」
「"オーク"は魔物の中では"ゴブリン"とつながりが深いですからねぇ。なにかあるかもしれませんねぇ」
「とりあえず、警備隊に報告しましょう」
俺はそう言うとアイネルに合図を送り、ミズイガハラへの帰途についた。
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