第9話

 一週間後――。


 僕は、あれから仕事を始めた。と言っても、アルバイトなので胸を張って言える事ではないが、何かを始めたくて、先ずは自分の生活から改善している。


 始めは、馴れない仕事なので、挫けそうになったが、岸渡さんや鎌谷さんの事を励みにしてがんばっている。


 今日は、鎌谷さんの入院している病院へ来ている。

 鎌谷さんは、あの命のオーディションの事は覚えていないと思うが、久慈さんの、別れ際の顔がどうしても気になり、僕は鎌谷さんのいる病院へと向かった。


 「すみません、こちらに鎌谷芙美江さんが入院していると思うのですが、病室を教えてください」

 「鎌谷芙美江さんですね……。大変申し上げ難いのですが、鎌谷さんは先日亡くなっていますね」

 「え!? 何でですか?」

 「失礼ですが、ご家族の方ですか?」

 「い、いえ、家族ではありませんが……」

 「それでしたら、これ以上はお話しする事は出来ません。お引き取りを」

 「……は、はあ」


 これ以上は、取り合ってくれそうになので、僕は病院を後にした。


 「ちょ、ちょっと待ってください!」


 病院の敷地内を出たところで、若い看護師さんに呼び止められた。


 「何ですか?」

    

 「あ、あの……鎌谷芙美江さんの知り合いの方ですか?」

 「そ、そうですが、何か?」

 「本当は、個人情報なので、話てはいけないのですが、鎌谷さんは手術が失敗してなくなられました」

 「……え!?」

 「元々、成功率の低い手術でしたので、鎌谷さんもご高齢の為、体力が持たず……」

 「そ、そうですか。……なぜ僕に話てくれたのですか?」

 「私、鎌谷さんの担当だったのですが、鎌谷さんな病室にはご家族の方もお見舞い来た事がなく、鎌谷さんも寂しく思っていました。手術前も、成功したらご家族に会いに行くと話していたので……。お客様が訪ねて来たので、せめて鎌谷さんの知人の方にはと思い――」


 その後の、看護師さんの話は余り覚えていません。

 それほどまでに、鎌谷さんの死はショックな出来事でした。

 久慈さんは、今日死ぬ人を決めるのが、命のオーディションと言っていました。つまりは、今日以外の死については関係がない事を指している。

 鎌谷さんは、あの時に死ななくても、いずれは死ぬ運命にあったのでした。


 どんなに、生きたいと願っても、死は僕達人間に忍び寄ってくる――。


 だからこそ、僕達は必死に生きなければならないのです。


 なぜなら、僕達は誰かの犠牲の上に生きているのだから――。

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命のオーディション 一ノ瀬樹一 @ichinokokoro

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