第37話 見なくなった光景
「エリックさん!」
「よく戻ってきた!」
ロビーにはエリックと、他に現在動ける所属冒険者が数名集まっていた。
「この3人はうち所属の冒険者で、リストア、ライラ、クイックだ。3人とも手練れ、今後役に立つと思い今回の話に加えた」
「よろしくねー!」
「よろしく」
「たのむぜ」
3人とも見ただけで熟練者だとわかる。リストアとライラは肌の色が周りの人と違い若干暗く、都市内でも珍しい。しかし、少数しかいないながら適正があるのか冒険者として成功している人も多い。
リストアはエリックに負けず劣らず筋骨隆々だし、ライラに関しては容姿の美しさもあるがその立ち姿が歴戦の冒険者のそれだ。クイックは彼らと違いクロンのような肌の色で、少し冒険者としてはそこまで筋肉質ではないが、フロウさんを思い出し、きっとすごい強いのだろうと評価する。
「話は聞いている。この3人を加えた総勢8名でドライアド大樹海へ向かうことになる。奥地に入る場合カテゴリー3も増える。かなり危険な旅になるが、クロンのチームにフロウをつけることでそれをカバーする。俺とリストアたちのチームはそれぞれ別れて敵を探すことになる」
そう言うと、エリックはそれぞれのチームに笛を渡す。
「大樹海で端末は役に立たない。ドライアドでも、例の4人組でも、他の強力な獣に出くわした場合でも。自分たちの手に余ると判断した時はその笛を吹いてくれ。特殊な笛だ。人間や獣には聞こえない音が出るが、腰の端末は拾う。無茶はするな。いいな」
応! とそれぞれのパーティーが呼応する。本来奥地まで入るならばクロンのチームは少し危ない。新人戦の戦いぶりを見ているからギリギリいけるだろう、フロウもついているしとエリックは考えた。それよりも、クロンとラビがゼータと面識があると言うアドバンテージをとったのだ。
「よし、いくぞ。他の商社にも応援要請をしたが、おそらく間に合わない。そもそも有事ではあるが奥地へ行くことをためらうチームもあるだろう。我らだけでも、ドライアドを獲られるのを止める。いいな!」
エリックの気迫に押され士気を高めるが、クロン、ラビ、カエデは少しだけ乗り気ではない。つい最近入り口で幽霊に追いかけられたことを思い出していた。
「まあ、行かないとだめだよね」
「フロウさんいるしなんとかなるわよ」
「……いこー」
合計8人。ゲート【VIII】へ向かう。電車を捕まえ、乗る。
「いやー電車に乗るのは久しぶりですね」
そんなことをリストアが言う。クロンは近くに座っていたため自然と会話をすることになる。
「そうなんですか? 僕らは外に出る時使いますけど…」
「アタシらは自前のリニアカーゴ持ってるからさ、ゲートまではそれで行っちゃうの」
「へー、僕らもほしいなぁ」
「うふ、頑張ってね! 社長にいい報告できればボーナス出るよ〜!」
ライラが答えてくれる。どうやら社長にいい報告、おそらく『発見』の類だろうな、それでボーナスをもらって買ったらしい。そんなにもらえるのだろうか。
「俺らの場合、何種類か新種の獣見つけてるからな。それでだいぶ稼いだよ。新種発見は会社だけでなく協議会からも金一封出るからな。そいつの賢者の石で新しいエネルギーの使い道が出たら、相当もらえる」
「もらえるぜ」
クイックも話に加わってくる。クロンは先輩冒険者のためになる話を聞きながら、クロン達は電車に揺られゲート【VIII】を目指していく。
◆◆◆
時は
エレベーターは、ゆっくりと上昇していく。
「これ上で人と会ったらどうするのー? 通るのになんか必要だったら最悪だよっ?」
「そうじゃのぉ……。ま、会ってから決めればいいじゃろ」
「そんなのでうまくいきますかね?」
「ふぉふぉふぉ、なんとかなる」
「ボク弱いんだからちゃんと守ってよ」
会話中の4人を上へ運ぶエレベーターが止まる。
「さて、吉と出るか凶と出るか。入るのになにもないといいのだが」
エレベーターから出ると、広めのフロアが広がっており、正面にここの職員だろう、人が二人ボックスに収まっている。
「これは、なにかが必要なようじゃの」
そう言うとシャオロンは一歩先へ出て職員へと近づいていく。
「ちょ、ちょっとシャオ爺?」
リィズが止めようと声をかけるがシャオロンは止まらない。
職員が近づいてくるシャオロンに気づき、口を開く。
「おかえりなさいませ、ライセンスカードをご提示ください」
「ふむ、ライセンスカード、か。それが必要なのか」
「あ、あの、おかえりでしたらライセンスカードを提示してくださらないと」
「あぁ…...落としてしまってのぉ」
シャオロンはスラスラと嘘をつく。落とした場合、入れるかどうか確認する意味合いもあった。すると職員は呆れたようにため息をつくと、それに対して返答する。
「ライセンスカードの紛失ですか……では端末から紛失届けを出していただいて。後ろのお三方はライセンスカードの提示ブッ」
シャオロンが、道衣の袖に隠した
「……シャオ爺、なにも殺すことは」
リィズをはじめ後ろにいた3人は顔を歪める。それを見たシャオロンは不思議そうな顔をした。
「なぜだ? これ以上話をすれば確実にボロが出る。ならば殺して先に進む方がいいじゃろが。……チッ、少し甘いな……」
シャオロンは3人に聞こえないボリュームで言葉を囁くも、他の3人には聞こえない。そのまま4人は職員ふたりの死体を横目に、オリエストラ内部へと侵入する。
「外から見た時は立派だと思ったけど、ゲートから入ったらなにもないじゃーん」
「本当だ。しかしこれは、農業ですか。量子コンピューターで多元管理もされていない昔の農業。実に原始的ですが、なにか懐かしく感じますね」
「ボク農地って見たことないや」
「今はすべて屋内栽培じゃからのぉ。100年以上前から続く気候変動の影響で、自然農業は不可能になっておるからしょうがないんじゃが」
ゲート【X】から出た4人は遠くに見えるビル群に少し目を向けた後、近場に広がる田園風景に視線を落とす。彼らの地球ではすでに見なくなった、映像でしか残っていない農業形態は、4人の人としての本能を刺激し、感傷を覚えさせる。
「今回は比較的時間にも余裕があります。任務は調査のみですし、ここにくるまでにある程度賢者の石も回収している。とりあえず途中までは情報収集がてら歩きで行きましょう」
「そうじゃの、それも悪くない」
「「えー歩くのー?」」
若いふたりには不評なようだが、シャオロンは久しく見なくなった人の営みの中を歩きたい衝動にかられる。ジェイドもまた、親から聞いていた世界が目の前に広がっていることに感動を覚えていた。
そのような心持ちがわからないリィズとゼータは文句を言うも、年長者に逆らえるはずもなく、そのままゲートから出ている鉄道のようなものには目もくれず、田んぼのあぜ道を通り、歩きで近くの街を目指した。
自己再生なんて、ぜんぜんギフトじゃない! 氷見野仁 @himinojin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。自己再生なんて、ぜんぜんギフトじゃない!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます