第3話 プラスチック·プラクティス
さて、この話を書き始めて私は一時、書く気を失くしていた。
理由は簡単。神乃との日々が薄れつつあったからだ。
彼は二年前、私に
「貴女を好きになってきている。僕は女性を好きになるとその人ばっかりになって何も手がつかなくなる。牧師になる勉強をしなくちゃいけないからそんな事してる場合じゃない。
それに、風俗で働いていた前の彼女との恋愛で相当傷ついたから恋愛するの怖いんよ。一生恋愛出来なくても良い。」
そう私につらづら語った。明け方4時頃だった様に思う。
私は心の中で必死にすがった。
「私は裏切ったりせんよ!同じ目になんか遭わさせたりせんよ!」
と。
しかし、上辺だけ、見かけだけ物分りの良い女を演じた。
「そうなん。心の傷はなかなか癒えんけんねぇ。」
馬鹿やん、私。本当は掴みかかってやりたい位腹が立ってたのに。
そんな女と一緒にすんなよ!オマエ、私をどんだけ見下してんだ!?私は一山も二山も超えてきた、色んな物を背負って泥水啜って立ち上がってきたんやぞ!
帰りの車内、眠気と怒りと戦う為にアニメヒットソングCDを大音量で聴きながら大声で歌いながら2時間掛けて帰宅した。
既に双子は学校に登校していた。子供に「いってらっしゃい」も言ってやれない最近の自分の落ちぶれっぷりに更に腹が立った。
その日の昼過ぎ、神乃からメールが来た。
「牧師の試験がある二年後まで連絡はしません。手紙もメールも電話もしないでね。待たなくて良いから。受かっても落ちても連絡するから。今迄有難う。」
なんて一方的なやり口だろう。
ズルいと思った。
持っていきようのない感情を叫びだしたくなった。言葉になんかならなくて良い。
意味のない音を口から発して身体の中の毒素を抜きたかった。
それから暫く、私に異変がおこった。
真っ直ぐ歩けないのだ。
唯、立つ事も難しい。
母に連れられ病院に行った。
「身体が疲弊し過ぎている。内臓に異常はないけど精神の方で入院した方が良い。」
そう言われ、精神病院の閉鎖病棟へ初めて足を運んだ。
私は彼とのショックと仕事の掛け持ちで一気に15kg痩せた。その為、自分の力で立っていられなくなっていた。
最初の二日は死んだ様に眠った。掛け持ちの仕事も辞める事となった。
あらゆる所に鍵の付いた病院に入院する母を息子はどう思っただろうか。
酷く傷つけたのではないだろうか。
恥ずかしく思ったのではないだろうか。
双子は今、反抗期真っ只中。
女の顔を見せた母をどう思っただろうか。
私の育児は反省だらけ。
失敗と後悔と反省しかない。
前を向いて胸を張って歩くなんてとても出来ない。自分が恥ずかしくて仕方ない。
私はいつも俯いて人目を避けて生きる癖が付いた。
今の仕事は神乃に勧められて始めた「介護」寄りの仕事。詳しくは看護助手なのだが仕事の内容は介護と変わらない。
「ちゃんと資格取ってまともに生きていきぃや。」
彼の言葉が心に染みた。だから実践しようと決めた。バイトや掛け持ちで誤魔化すのは止めた。
責任のある職場で責任ある仕事を…、そして、人の命の重さに触れる…とても充実した仕事だ。
今年で神乃に会わなくなって2年目。
あの人はちゃんと牧師の勉強をしているのだろうか?
また、キャバクラにでも行って恋愛ゴッコに逃げて自分を誤魔化して生きているのではないかと過る。
その時は私の拳骨が黙ってない。
私を簡単に男を踏台にする女と同等に視て、メール一つで終わらせた。あのズルさを。
「恋愛するのが怖いだと?
じゃあ、その貴男を弄んだ女が貴男の人生最後の女になると言う事だね。お気の毒に。」
そう見下して笑ってやる!なんて少し強がってみる。
今の私に足りないモノは「トキメキだ」と同僚に言われた。トキメいてないから綺麗にメイクも出来ないし輝いてないんだ、と…。恋愛?そんなモノ、今の私にしている暇等ない。私は介護の資格を取ると決めたんだ。
私の今の一番の目標は職場の子供と心を通わせる事…。
本当は彼に、この今の幸せを一番に伝えたい。
でもそこに気持ちが寄ってしまうとまた女の顔が出てしまう。
私が高校の時、母は今の旦那さん…当時の家庭持ちの彼氏と二人で病気の私を置いて旅行に行った。食べ物の一切を受け付けなくなった私に母は「こんな時に体調壊さんといてや!どうせたいしたことやないんやけん友達でもお呼びや。」と言い放った。その時は寂しいとか悔しいとかではなく唯、唯、身体が弱い私でごめん、だった。
母の人生の足を引っ張りたくないと思っていた。しかし、実際自分が母となり母と同じ様に子供が居る身で恋愛する事を母は良く言わない。子供第一に考えなさい!家を空けたりしられん!
全くその通りだと思う。返す言葉もない。だが、母に言われると言う事がどうしても許せない。私は、あの頃の怒りを今になって母にぶつける。何故なのかは判らない。
あの頃自分を責めていた私が何故今になって母を責めるんだろう。理由も爆発原因も突き止められないまま私はいつも母に苛々とあたる。
優しくしたいのに出来ないなんて自分なのに脳だけ他人の物の様に感じる。
ギクシャクと違える心と頭で私は日々を誤魔化す。母と接する。
お願いだから私を苛々させないで!なんて他人に我が苛々の要因の全てを押し付けて。
私には子供が大切。我が子が一番大切。
母になんかに言われたくない。
母の身で恋愛なんかしられん。
…嗚呼、母からこの言葉を聞く度に私の中の狂気が奮い立つ。助けて!誰か助けて!私をこの汚らしい感情の汚泥から引っ張り上げてください!!!
そう何度も頭を抱えた。
これは病院に行ったってどんなに薬が増えたってどうしようもない事なのだと知る。
もう絶望すらしない。
これは私が乗り越えるべき壁なのだと気付いたからだ。
私が母を許す心を持ち、自分の想いを受け入れて欲しいと言う「慢」を捨てた時、私はきっと今より人として高みを目指せる。
だから私は少し、現実から逃げる事にした。
小説を夢中で創った。
主人公「桃太郎」は思い切り私の理想にした。欲に忠実で、好きになった人には我武者羅。調子の良い事を言われれば有頂天になって喜び、それら全てが幸せ。ささやかな事でも簡単に幸せを感じる事が出来る、単純で簡単で、欲しい物は待たずに自分からグイグイ行く。私が求める男性そのもの。
そう、私の好みはこう言う人。何でも恐れる神乃とは違うんだ!なんてまた、強がる。
でも、去年一年の私の支えになったのは小説制作であったのは間違いない。それと、介護の勉強。
さて、今年は何をしたものか…。
介護のもう一段上の勉強と、後は…実は難有い事に出版のお話を頂いている。
私の、障害を抱える長男の育児や、弱者の立場の私がどういう風にして立ち上がってきたか、神乃との出会い、心に傷を持った私の周りの大切な人達…。
エッセイと言うのは誰かを傷つけてしまう繊細な作業。誰かを責めてしまうのは間違っている。言葉を一つ一つ選びながら言葉のニュアンスを変えながら、何度も原稿を直しながら心の叫びを表現していく。
私と同じ様に思っている人にも叫んで欲しくて…。
我慢する事はない。
誰かを責めろと言うことじゃない。
唯、自分を抑え込むのは自分に良い事ではない。自分を護って欲しい。
私の本によって一人でも救われる人が居る事を願って…このエッセイはこれにて締めくくらせて頂こうと思う。
また、機会があらばエッセイを書いてみたいと思う。今度は人に笑顔を届けられるようなそんな物を書いてみたいものだ。
この世には神も仏も居やしない…と絶望している貴方へ。
神様だって完璧じゃない。世界中の人を平等に見守っている事に忙しい。そして、神様は行く末を見守るだけで決して助けては下さらない。
仏もそうだ。
静かに心を無にしなければ決して何も与えては下さらない。
つまり、神も仏も、貴方の心の中においでるのだ。
いつも貴方の傍にいて、貴方がどのように行動するのか見守っていらっしゃる。
貴方が崖っぷちを歩いていようと、どん底に居ようと、手を差し出す事はない。
どうやって貴方が立ち直るのか見詰めておいでなのだ。
自分の力で立ち上がり、もう一度自分の人生を歩む…困難な事だと思う。でも決して負けないで欲しい。貴方は試されているだけなのだ。決して負けないで。笑顔を絶やさず、自分を幸せに導いて欲しい。
これが神や仏の願いだと、私は思う。
過去の自分を笑えるように今日の自分をを活きる。それが幸せの第一歩なのだと私は思いたい。
神も仏も此処にいる 伊予福たると @abekawataruto
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