第42話
教師陣からの最終通告に潔く従った俺は、そのまま職員室へと連行された。当然ながら、俺の親も召喚され、夜遅くまで事情聴取を受けた。
だが、この事情聴取の中で、俺は妹の件を必死に主張した。だが、俺が女子に対して暴行を働いたという点の方が問題視され、まともに取り合ってもらえないまま、家へと帰宅する羽目になった。
ただ、家に帰ってから、父さんと母さんは俺のことを特に責めてこなかった。むしろ、私たちが気付かなかったから、妹を守るために動いただけでもうれしいと言われた。もちろん、暴力をふるうのは間違っているとも言われたけども。
「お兄ちゃん、ごめんね」
寝る前に、俺が花楓の様子を見ようと部屋を開けると、花楓が一人でベッドで泣いていた。その姿を目撃した俺は、すぐに花楓のそばに駆け寄った。
「花楓、お兄ちゃんは気にしてないよ」
「いや、花楓が悪いの。あの子たちにやられるがままになっちゃってたから」
そう言いながらも、花楓は俺に抱きついて嗚咽を漏らした。悔しいのかもしれないし、悲しいのかもしれない。ただ、俺が今できることは花楓のことを慰めることだけだ。
「花楓、お兄ちゃんにして欲しいことがあったら何でも言っていいよ。だから、一人で抱え込むのはやめてほしいな」
「...うん。分かった。ありがとう、お兄ちゃん」
この夜は、久しぶりに妹の本心を聞けた気がする。だが、俺にとっての地獄は終わるわけではなかった。
次の日。教室に入ったとたんに、俺に向けられた視線は、従来のものとはかなり違った視線だった。
不審に思った俺は、クラスの友人たちに話を聞こうとしたのだが...
「受験期に何をやってるんだ」
「お前みたいなやつと付き合う義理はない」
昨日とは大きく違ったクラスの反応に俺は戸惑ってしまう。そんなに仲が悪くなかった友人たちも一斉に俺のことを懐疑的な目で見ている。
俺は、この心理的苦痛に耐えながらも、なんとか情報を聞き出すことに成功した。
自分なりにまとめてみると、昨日、花楓をいじめていた連中の兄や姉が俺と同じクラスだったという。もちろん彼らも教師に事情は聴かれているはずだし、注意も受けたはずなのだが、どうやら彼女らは未だに不服に思っているのだろう。
だが、いじめていた対象の兄という存在から実力を行使されたという事実は彼女らには大きくのしかかる。俺が現場で「次は無い」と脅しをかけたこともあってか、花楓には手を出しずらかったのだろう。
となると、彼女らにとって俺の存在はとてつもなく鬱陶しいのである。いじめの対象を変えるにしても、俺への恐怖心は消えないし、それと同時に花楓への腹立たしさもそのままの状態だ。
そこで、彼女らは俺を潰すように仕向けたのだろう。
俺は小学校の時も、中学校になってもこんな仕打ちは受けたことがなく、相当メンタルがやられていた。そこに加え、俺は同級生からのいじめにも合うことになった。
彼らのいじめはかなり露骨で、部活も退部になった俺は、ついに学校に行くことをやめてしまったのだかなり親しかった友達などにも全員に裏切られ、人間不信になった俺に学校に行く理由など存在しなかったのだ。
人間不信に陥った俺は、家に引きこもるようになった。幸い、妹や家族がメンタルがズタボロになった俺のことを支えてくれたおかげで、家族だけは信用できた。
ちなみに花楓はその後、いじめてきたグループとは一切かかわらなくなり、静かながらも学校生活を楽しく過ごせていたという。
「そんなことがあったんだね。浩司」
霧島の手はいつの間にか俺の後頭部にあり、俺は抱きしめられていた。俺も霧島に母性を感じてしまったのか、心がさっきより穏やかだ。
だが、いつまでもこの感触を享受するわけにもいかない。なにせ、俺が原因で霧島に迷惑をかけることはあっては申し訳ないからだ。
「なぁ霧島。相談があるんだが」
「ん?なに?」
俺は霧島の手の上に通帳を置いた。これはもともと霧島のお父さんから預かっていたものなのだが。
「なに、これ」
「霧島のお父さんが手配してくれた生活費だ。近々、霧島の新しい家も手配できる手筈になってる」
「なんで...?」
霧島は一転して、泣きそうな顔でこちらを見てくる。
「なんでって、霧島にこれ以上迷惑をかけたくないから。俺と一緒にいることによって、風評被害もあるだろうし」
「別に私は気にしない!っていうかなんで別の家に住む必要があるの?」
泣きそうな表情と声で霧島は俺に問いかけてくる。だが、ここで甘さを見せつけては、結局自分の首が絞まる事態になるだけだ。
「そもそも同じ家に男女が二人で住むっていうのが間違っていたんだ。それに俺はトラウマを忘れるために、ちょっと違う生活をしてみることにしたんだ」
「違う生活って?」
「ちょっと旅に出ようかなって」
通り魔から助けた美少女が隣の席になった話。 こああい @koutan_japan
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