Epilogue
『はい、今日のゲストは、『FAIRY TALE』の皆さんでーす。えーと、デビューからちょうど一年が経ったということで、思いきってリスナーの皆さんからの大量な質問に答えてもらいましょう!』
『えー、どのくらいあるんですかー? オレ達ちょっと答え用意してナイっすよー』
『すごいですよー、今またファックスがピークですし。えーと、一つ目です。今までとても多様な曲を作っていらっしゃいますが、どうしていつも鍵盤楽器は欠けているんですか? 何か意図があるんですか? それとも偶然ですか? 音大生の方からです、これは結構聞きこんでますねー』
『あー、嬉しいですねー』
『作詞作曲はRYUさんがしているんでしたよね? では、答えていただけますか?』
『はい実は… 偶然です』
『あれー、そーなんですか?』
『あ、コイツぜってーウソついてる! そういう笑顔だ!』
『んー? そうだねぇ、鍵盤系のない独特の雰囲気を楽しんでもらいたいとか、それっぽいコトを言って誤魔化しておきます』
『なにっ吐け、ホントはなんなんだよっ?』
『あ、それならオレ知ってるッスよ。前に一回だけ話してくれたんスよ、なんか昔の恋人サンがキーボード上手だったらしくて、どーしても自分の曲はその人以外に弾いて欲しくないから、とか』
『じゃ、そのコ入れたら(笑)?』
『あはは、ダメなんだよね。そのコ自分の国に帰っちゃってさ、それ以来音信不通なんだ』
『…それって、捨てられたんですか?』
『うわっ、DJさんキッツー!』
『うーん…どうなんでしょう。死んじゃったみたいな…カンジなんですよね、別れ際のセリフだと。それに恋人だったワケじゃなかったんですよ、そこまでいけなかったんで』
『あちゃ………ワリ、RYU…』
『いや、イイよ別に。今度ドラムが休むヒマのないほどの忙しい曲を作って復讐してあげるからね♪』
『えーっ!?』
『波乱を呼びつつ、次の質問にとりかかってみましょう。…………………』
ラジオから懐かしい声が流れている。
マンション、空き家になっちゃってた。
名字、変わってた。
お義父さんの圧力で、あのマンションは追い出されたって聞いてる。勘当されて、名字が昔のに戻ったって聞いてる。お陰で見つけるのが大変…でもなかった。しばらくしたら、すぐにテレビの中やラジオに見つけちゃったんだもん。運命の再会にロマンチックもへったくれも皆無…ってカンジだわ。
だからせめて、逢う時はロマンスを持ちたいの。
時季はあいつの受けた『二度目の』オーディション…デビューから、あいつの夢が現実になりだしてから丁度ピッタリ一年。あはは、流石に一度目じゃ無理だったみたいだけれど、ちゃんと頑張ってたみたいだね。……ホントにちゃんと……頑張ってたんだね、隆介。
しばらく待っていると、ラジオ番組は終わった。エンディングに隆介のバンドの新曲が流れている。
ふふ、おかしいの。
変わってないんだもん。話しかけてくれる、この音。探してるよ、って言ってるみたい。相変わらずの高めの声。新しい仲間と一緒で、寂しくなんかない演奏。
BGMはコレよ。選曲の必要ナシ、これって決めてたんだもの。新曲も前のも、全部好きなんだよね。だって、隆介の曲はぜーんぶあたしのお気に入りなんだもの。
「…………相変わらず…か、お互い様だね」
「リィ?」
あたしのコートの裏側から、ルワンが声をあげた。あたしはシィ、と指をたてる。
「もう、ヘタに見つかっちゃったらビックリ人間ショーに出されちゃうじゃない、研究所に連れてかれるかもしんないんだから!」
「へいへいっと」
キミを探して幾星霜…なんて ロマンスはカケラもナイ
ただ逢いたいって感じてるんだ 夜の星空見上げてさ
また出会いたいと言ったら困るかな?
困らせてもイイ いたいから
ダメだと言ってもきけないね
だってキミが好きなんだから
ラジオから流れてる曲はサビを通り過ぎて間奏に入った。これが終わったら、またサビになる。その頃には目の前のラジオ局からはお忍びで出てくるかしら。
あたしは玄関の柱に持たれかかって、安物の携帯ラジオを聞いている。サングラスをかけてるし、外見が派手だから、芸能人モドキに…見えない事もない。
エレベーターのドアが開くのを視界に写して。
出てくる何人かの人影に、アイツを探す。
ほら、出てきた。
あたしに気付くかな? あいつも変装のつもりらしく、サングラスかけてるし。視界が悪いんじゃないかしら。ただでさえ、視力悪いんだから。
おや? 気付いたみたい。
誰かと間違えてのナンパじゃないでしょうね、だったら泣くわよ。
……あたしが、ユグドラシルに願ったのは。
身体、作り変えちゃうこと。
そうしてあたしは、
人間の身体に自分を作り変えた。
そう、そうしちゃえば生き返るのよね、自動的に。
そーすれば、
魔力を吸われても……生きていられるもの。
だから、生命維持は再開。生き返っちゃった。
ルワンも一緒に、皇帝の事でごった返した城の騒ぎに乗じながら長老の部屋にある直通ゲートをくぐってさ。
そして、帰ってきた。
ここに。
あなたに。
だから、お帰りの代わりに色々と言って欲しいコトがある。
色々と、してほしいコトがある。
半年分、とてもとてもたくさんね。
当たり前だけれど拒否権はナシよ、もう魔法使いじゃナイから操れないんだしさ?
「やぁ、RYUくん」
5。
「……意地が……悪いね、そんな呼び方をするのは」
おいおい、声が詰まってるわよ、男のコ。サングラスをはずして、確かめるようにあたしを見る。あたしも、自分のを外した。間奏はそろそろ終わりに近い。ちょっと大きめのラジオが、コートのポケットを不細工にしていた。
「なぁに? もっと、言いたいコトはナイの?」
「……もう、逢えないかと思ってたよ」
4。
「あたしもだよ。テレビで半年くらいみてたケド」
「リィ、本当にキミなの?」
3。
「そーよ。再生怪人です……って、死んでなかったんだケドね」
バンドのメンバーさん達が訝しげにこっちを見ている。でも、隆介はそれに気付いていないみたい。ううん、気付け…ナイのかな?
「…………」
「人間に、なったんだ。魔法は使えなくなっちゃったし、戸籍もない不法入国者だけど。ついでに、もう魔法使いだった証明も出来ないけれど」
「……リィ……」
2。
「魔女じゃなくても、……いいかな?」
「そんなの最初から関係ない!」
1。
「ホントのホントに? 怪しいなー、あんたはポーカーフェイスが凄いんだからね」
「————リィ!」
…ゼーロ!
カウントダウン終了で、間奏が終了よ!
ほら、
イヤホンからはサビが流れてる。
ジャストタイミングね、ロマンス全開だわ。
抱きしめられちゃったよ。
すごいキツく。
確かめるみたいに、必死で。
つぶれたルワンがコートの中でうめいてる。でも、あたしも隆介も無視しっぱなし。
あたしも苦しいけれど、そうは言えないかな。
あったかくて、何も喋れない。
これが、本当。
これで、本当になってくれた。
全部が本当になったわ。
ほら、色んな奇跡はこうやって起きる。
こうやって、奇跡を起こすのよ。
あたしは人間だけれど、こんな奇跡ぐらいなら起こせる。誰だって起こせるんだから。
奇跡が、起こせて当たり前のモノじゃないって……知ってるけれど。
自分が思うだけで、それが奇跡になるんだから。
魔法なんかなくたって、いくらでも奇跡は起こせるんだから。
あたしは魔女でなくてもいい。
それでも、奇跡は起きたもん。
それって、凄くない?
狂った愛に殉じてみない?
キミとならきっと時間空間世界観だって飛び越えられる気がすんだけどさ
また見つけた時は きっと言うよ
誤魔化さずに 本当を
イヤだと言ってもきけないね
こんなアイはしまっておけないさ
魔法使いの願い事 ぜろ @illness24
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます