深紅の空と愚者の優しさ

五木史人

深紅の空と愚者の優しさ

「そちらに行くと地獄ですよ」


十数人の一行に向かって愚者は言った。

一行のリーダーらしき人物は、愚者を一瞥した。

目の前の愚者は、どう見ても愚者に見えた。


「はっ地獄だって?馬鹿馬鹿しい!」

「そちらに行くと地獄なんです。私には解ります」

「じゃあ、論理的に説明してみろよ!」


論理的にと言われて、愚者は論理的に考えてみたが、困惑するしかなかった。

何故なら彼は愚者なので、


「私は鬼を見た。あちらには鬼がいるのです」


「馬鹿か!この世界に鬼なんているわけないだろ。

逝きますよ。こんな馬鹿相手にしている暇はない!」


十数人の一行は、愚者を無視して足早に歩いて行きました。


愚者は、論理的に考えられない自身の愚かさを嘆いた。


空が深紅に染まると、一行が歩いて行った道の方から、亡者を狩る鬼の雄叫びが聞こえた。


そしてまた愚者は自らの愚かさを嘆いた。


この世界には鬼がいて、地獄があった。



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深紅の空と愚者の優しさ 五木史人 @ituki-siso

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