第7話 ~な二人
scene 1
『よう新条、あの二人俺のトコによこせよ』
『やなこった!一課のホープだぞあの二人は…問題もかなりあるがな』
『例の件、一課から何人か借りたいんだよ。俺の言いたい事はわかるよな?』
『…返せよ、今井?』
『そんな姑息なマネを俺がするワケないだろ?』
『フン!あの二人には捜査の手伝いするように言っておいてやるよ』
『楽しみにするよ、あの二人と遊べるのをな』
『滝沢とバカスケ!ちょっと来い!』
「なんですか、課長?」
「バカスケじゃないでしょ?草薙敏夫君でしょ?」
『うるさい!バカスケ!!』
「や~い、バカスケぇ」
「バカスケ!課長が呼んでるぞぅ…僕は草薙君やから、一課のアイドル草薙君♪」
『滝沢、バカスケ、お前らしばらく四課の今井課長に捜査協力しろ』
「謹んで辞退します」
「バカスケ、頑張ってな~」
『滝沢、却下!バカスケ!そう呼ばれないようにしろ!!』
「却下って…課長、理由は?」
「智、俺なんか理由無しだぞ?しかもバカスケ呼ばわり…イジメだ!」
「ポチは黙ってろ」
「くぅ~ん」
『滝沢、胸に手ぇ当てて考えてみろ』
「…セクハラ?」
「そうそう智のヤツ、すれ違い様に尻触るんですよ」
『その件は初めて聞いた。後で他の連中にも確認しとく』
「バカ!ポチのせいで楽しみが減りそうじゃないか!…高いぞぅ」
「高い?…こないだ寿司おごったトコやんか」
『人の話を聞け!滝沢、お前射撃練習マジメにやってないらしいな?』
「へ!?…ちゃんとしてますよ」
「あ~アレだよ、智」
『バカスケが気付いてるのに、お前が気付かないワケないよな?』
「…左手の練習してるだけですよ」
「感じ悪いわな、利き手じゃないのに全弾命中なんだからな」
『士気にかかわるだろ?それも落語聞きながらやってるらしいじゃねぇか』
「オススメは志ん生師匠ですよ」
「智、その年で落語聞くのはどうかと思うんやけどな」
『他の連中から苦情が出てるからやめるように。バカスケは…ま、バカスケだからだ。詳しい話は今井に聞いてくれ』
「四課って事は、こないだ言ってた事件ですか?」
『そう、たぶんあの件だと思う。俺も詳しくは聞いてないからな』
「課長…草薙君ですよ?聞いてる?」
「ヤクザ絡むでしょ?嫌いなんですよねぇ」
『心配しなくても、お前らの好きなように捜査してくれればいいそうだ。ま、詳しい話は直接今井課長に確認してくれ』
「バカスケじゃないよぅ」
『ポチは黙ってろ!』
「課長、ポチって呼んでいいのはウチだけです」
「そうだそうだ!…違う、そうやない!!」
『わかったから、今から二人は四課に合流するように、以上』
「滝沢、ポチ両名、了解しました」
「…ポチ、了解なんかしたないけど…しますします!課長、銃口向けんのやめてもらえません?」
『気にするなよ』
「愛されてるなぁ、ポチ」
「そんな愛いらんわい!」
scene 2
「滝沢、草薙両名、一課新条課長の命により、四課今井課長の指揮下に入ります」
『そんな堅苦しい挨拶はいい』
「ですよね。で、今井さん、何やらかせばいいワケ?」
「言うときますけど、智のヤクザ嫌いは半端やないですよ」
『お前らの好きなようにこなしてくれればいいさ』
「…放し飼いですか?」
「なるほど、ソレで俺まで四課に呼ばれたんやな。智はヤンチャするからなぁ」
『お前の方が無茶してんの俺はよ~く知ってるぞ、草薙?』
「へ?なんの事です?僕は市民の生活を守る、一公僕ですよ?」
「ポチ、こないだ暴走族勧誘してたじゃんか」
「白バイ隊の即戦力じゃねぇかよ」
『…ウワサどおりなんだな、お前ら』
「ウワサ?…ポチがゲイとか、ポチが同性愛者だとか、ポチが…」
「ちゃうわい!俺は女が好きなんや!!」
『草薙…婦警らが凄い目で見てったぞ』
「あ~~!!違うんや!!女好きってワケやないんやぁ!!」
「もういないぞ、ポチ。不憫なヤツだな、お前」
「お、俺の春が遠くに…」
『捜査対象は指定広域暴力団A会系の若頭、新宮明。こいつに関しての証言をするのが、対抗してる同じA会系の牛川雄一。お前らにやってほしいのは、牛川の身辺警護だ』
「!?…ヤクザ嫌いなの知ってて身辺警護させるんですか?」
「新宮に殺られる前に、智に殺られそうやな」
『四課の連中じゃ、新宮に面が割れてるんでな。お前らなら新顔と思われるかも…滝沢、銃口を俺に向けるな』
「ヤクザ扱いしたら、今井さんでも銃殺しますよ?」
「智ってば、怖~い。…そんな目で睨むなよぅ」
『牛川が生きてて、証言できるならいい。あとはお前らの好きにやってくれ。四課の連中、何人か使うか?』
「ポチがいますから大丈夫ですよ」
「そうそう、一課のアイドル草薙君がいてますか…痛っ!智、裏券で殴んなや」
『ポチ、ご主人様の足手まといにならんようにな』
「今井さん、ポチって呼んでいいのはウチだけです。今度ポチって呼んだら寿司おごってもらいますからね!」
「智~、俺は寿司程度の価値なんか?」
「ポチって呼ぶ度に寿司おごるなんてアホらしいだろ?優しい主人に感謝して、しっかりと二人分働くんだぞ」
「…二人分?智は何するんや?」
「ちゃんとくっついてはいくさ。何にもする気はないけどね」
『お前なぁ…堂々とサボるの公言するなよ』
「好きなようにしますし、牛川の手下が何人消されようとも、牛川だけは公判の証言台に立たせますから」
「…その分俺が働くんだよな?…メンドイなぁ」
「当たり前やんか、何でヤクザの警護なんかしなくちゃなんないんだよ」
『俺は新宮の裏を取る。三日後が公判だ、その間は牛川を頼むぞ』
「今井さん、単独捜査はダメですよ」
「そうそうヤンチャはアカンです」
『お前らに言われるようじゃ俺もそろそろ引退を考えた方がよさそうだな。…二人ともキャリアの経歴に傷つけないようにな』
「キャリア?…そんなんどうでもいですよ」
「キャビアって食べた事ないんやけど、美味しいん?」
「ポチ、つまんないよ」
「うわっ、そんな直球か?ツッコミすらないのんか?」
『捜査に関するファイルを渡しとく、早々に目ぇ通して警護にあたってくれ』
「…了解」
「へ~い」
scene 3
「なぁ智、どうするよコレ?」
「しっかり読んで簡潔に説明して!」
「読む気ないのんか?」
「時間の無駄だろ?一冊しかないんだからさ」
「そりゃそうだ。…今井さん、なんで俺ら関わらせたんだろうな?」
「…ポチ気付いてないのか?」
「何を?」
「今井さんな…」
「うん?」
「ポチが好きなんだよ」
「…じょ、冗談だよな?」
「当たり前だろ」
「一瞬本気にしたじゃねぇか!で、実際のトコは?」
「話から考えたら、内部抗争に絡めて、上の幹部連中引っ張りたいんじゃないかな。でも、そうするには自分も動かなきゃいけない。そんなトコかな、今の段階で想像できるのは」
「デスクに座ってられる人間じゃないわな」
「で、本来自分がする予定だった身辺警護をこっちに振った。そんな風にも思える」
「それだけか?」
「新条課長つついた方が早いだろうな。たぶん、なんか企んでるだろうしな」
「ふ~ん。ところでさ、牛川にせよ、新宮にせよ。早々証言なんかするか?」
「…普通ならあり得ないよな」
「って事はこっちも裏がありそうやな」
「そゆこと」
「…このファイルいるか?」
「プロフぐらいなら役立つんじゃない?」
「時間の無駄やな」
「さてと、潜伏先に着きました。…どうしよっか?」
「とりあえず、挨拶ぐらいはしとくべきなんちゃう?」
「面倒だなぁ…お茶ぐらいは出るよな?」
「当然やん。一課のアイドルの訪問だよ?」
「こんちゃ~!!」
『誰だお前ら!』
「牛川さんに用があるんやけど、いるんやろ?」
『!?新宮か!!』
「抜くのが遅いよ。撃たれて死んでるぞ、お前?」
「智、銃口向けるのやめてやれよ」
『??』
「ま、いいや。とりあえず銃刀法違反で現行犯逮捕な」
『け…刑事?』
「そゆこと、牛川さんは?」
『奥に…俺、マジで逮捕?』
「当たり前だろ?ま、PC呼ぶの面倒だから自首してほしいな。減刑対象になるしな」
『…警護の人数多い方がいいだろ?』
「使えないヤツはいらないよ」
「あの世に送ってほしいのか?」
『グッ…わかったよ。親父に何かあったら、お前ら命は無ぇと思えよ』
「ふ~、脅迫までセットにすんのか?」
『チッ、冗談だよ』
『今井さんがいらっしゃると聞いてたんですがね』
「牛川さん?」
『代理の方ですか?若い連中をあんまり苛めないでやってくださいよ』
「そういう事です。苛めませんよ。犯罪を取り締まるんが僕らの仕事やからね」
「連中に帰るように言ってもらえます?ぞろぞろ動かれたんじゃ潜伏してる意味ないしね」
『そういうワケだ。お前ら刑事さんの言うとおりにしとけ!』
「…ずいぶんと素直ですね」
『善良な市民ですからね』
「善良な市民は命狙われたりなんかするかい」
『それだけ証言されたくないんでしょうな』
「…そういう事にしとくさ」
「なんで組織を裏切るんだ?」
『…確かに暴力団なんていわれてますがね。私はクスリに手ぇ出すような輩は嫌いなんですよ。ましてや、ウチじゃクスリは御法度なんですよ。裏切ったのは新宮の方ですよ』
「なるほどね。で、牛川さん、アンタが掴んだネタはなんだい?」
『証言台で話させてもらいますよ。今井さんが相手なら話は別ですがね』
「組織に隠れてクスリの売買を新宮はしてるって事か」
『えぇ』
「…三日間、アンタが証言できるようにしっかりと警護させてもらうさ」
「じゃ、牛川さん、何やって遊びます?PSとかないん?」
『…遊ぶ?』
「当たり前やんか!三日も辛気くさい顔して引き籠もってるつもりなん?健康に悪いやんか!ポーカーでもしよか」
『刑事さん、面白い方ですねぇ』
「でしょ?警視庁のアイドルやからね。智、新条さんに連絡しといてくれ。…せやな、ついでにボビーんトコでゲーム買ってきてや」
「…敏夫、ちょっとマジなってるやろ?」
「いんや、面白そうなだけや」
『何コソコソ話してんだよ。兄ちゃん、トランプ持ってるのか?』
「当たり前ですやん!こう見えて刑事にスカウトされる前は、ベガスでディーラーやってたんやから」
『姉ちゃん…アンタら本当に刑事か?』
「よく言われるんですよねぇ…女優さんですよね?って」
『……』
「ボケてるんやからツッコミいれんかい!」
「せやせや!そんなんじゃ一流の芸人にはなられへんで!」
『本当に大丈夫なのか?…お前らで?』
scene 4
「滝沢です。課長、敏夫がマジメに働き始めてるんですけど?」
『…バカスケが?…予定外だな』
「予定外?って事は何か企んでたワケですね?何やらせたいんです?」
『お前ら二人は好きなように続けてくれればいい』
「ふ~ん。じゃ、好きなようにさせてもらいます」
『ま、文句や苦情は今井に言うんだな』
「さてと、課長の言質は取ったし、ボビーのトコに……気乗りしないなぁ」
「ボビーいるかぁ」
『その声はトモ!お前が来たんなら今日は閉店や。客来ても邪魔やし』
「あいかわらず、気ままな営業してんだなココ」
『うん?トシがいないじゃないか!…やっと俺と結婚する気になったワケやな?この日が来るのをどれだけ待った事か、うんうん。式いつにする?お色直し何回ぐらいしよか?新婚旅行は…』
「ボビー…勝手に話を進めるな。それとボビーとは結婚しないぞ?一日中うるさくて生活できないし」
『何言ってるんだよ。トシみたいなのとトモがいるのが問題なんやんか!だいたいヤツはだな、人の話聞かないし、ろくな事考えてないし、よく二人して刑事なんてやってるもんだよ。しかも二人とも階級、警部なんだろ?どんな弱みを握ったんだ?上司脅してんだろ?』
「あのなぁ。ココに来たのは敏夫にゲーム買ってくるように言われたからだよ。骨董品屋なのにゲームなんか取り扱ってたのか?」
『・・・ゲーム?何のことだ?見てのとおり埃かぶってるような壷や皿しかないぜ』
「やっぱりか…『菊花』ってゲームと聞いたんだけどなぁ」
『…菊花?…他には何言ってたんだ?』
「たぶんトボけるから、おとなしく出さないならネットに流すってさ」
『あの野郎…で、お前ら、何の捜査してんだ?』
「そんなの話せるワケがないだろ」
『敏夫は俺からネタ引っ張ろうとしてるんだよ。何やってんだ?何やらかした?が正解か?』
「何か敏夫が企んでる。が正解だな」
『何で?』
「今回の件、面白そうって言うてたからね」
『…危険だな、そりゃ。とにかく、何の捜査に絡んでるのか、教えろよ。面白そうなら俺もまざるぞ』
「他で喋るなよ?楽しい捜査になりそうだな?あのな…」
『新宮と牛川か…たぶん、今井さんと新条さんは内偵してるよ』
「内偵?課が違うのに?何を?」
『あの二人は昔コンビ組んでたしな。内偵の対象は…たぶんコイツだよ』
「ちょっと待て!なんで本庁の人事ファイル開いてるんだよ」
『俺が菊花だからだよ、聞いた事ないのか?』
「何を?」
『公安が使ってたサクラとかなら聞いた事があるだろ?警察内部の捜査の為に、本庁は外部に捜査機関を作ったんだよ。それが菊花ってワケさ』
「秘密なんじゃないのか?ソレってさ」
『馬鹿だなぁ、将来の嫁に隠し事はできないだろ?』
「ボビー…ソレありえないから」
『あぁ、酷い酷いよトモ。国家機密を教えたというのに…国外逃亡しようかなぁ俺』
「餞別ぐらいはやるから安心しろよ」
『ちったぁ心配しろよ』
「ところでさ。なんで敏夫がそんなネタ掴んでるんだ?」
『さぁな。もしかしたら…トシも菊花なのかもな』
「何人ぐらいいるんだよ、菊花ってのは」
『さてな、菊花ってのはあくまでも外部機関なんだよ。予算なんかもそれなりに出てるみたいだが、詳しい事はわかんねぇ、俺達は一人一人が独自に行動してる。協力しあうなんて事はないし、ましてやメンバーの横の繋がりは皆無だ』
「ウチに隠し事をするとは…敏夫のヤツ…後でシメてやる」
『トシは何企んでるんだ?』
「わかんないよ。面白そうなだけって言うてニヤニヤ笑ってたけどな」
『ニヤニヤ?…嫌な予感するな、ソレ』
「ま、ヤンチャはさせないから大丈夫だよ」
『悪ノリ大好きじゃねぇかよ。いつでも誘ってくれよ。すぐに混ざりに行くから』
「敏夫だけでも大変なのに、ボビーのお守りまでやってらんないよ」
『何言ってんだよ、トシと俺の二人が、トモがヤンチャしないようにお守りしてんだろ?』
「フフ、どうなんだろうね?もう少し細かいネタが入ったらトシかウチに連絡してよ」
『もう行くのかよ?メシぐらい付き合ってほしいもんだ』
「非番の時に御馳走になりにくるよ」
『わかったよ。さっきのファイルの人間、本当に気を付けろよ』
「敏夫が一緒だから大丈夫だよ。ボビーまたね」
『あぁ、ネタが集まったら連絡する。またな』
scene 5
「たっだいま~♪」
「智か、ゲームあったろ?」
「面白そうなのがね」
『姉ちゃん、こいつ本当に刑事なのか?』
「牛川さん、言うたやんか、本庁のディーラーやって♪」
「もしかして、負けてるの?敏夫ごときに?」
「智、ごときとか言うなよ、牛川さんに失礼だろ。クククッ」
『姉ちゃんのが強いのかよ?』
「牛川さん、智と勝負しない方がいいぞぅ、身ぐるみはがしてもやめないような奴だぞぅ」
「人聞きの悪い事言うなよ、ギャンブルの怖さを身を持って思い知らせてやってるだけじゃんか」
『姉ちゃん…すでに現金巻き上げられてるんだが?』
「ギャンブルは危険やからねぇ」
「でも、やめないで勝負してるんだよなぁ牛川さん♪」
『勝負だ!』
「手に自信があるみたいやから、勝った分全部乗せましょか?」
『に、兄ちゃんも、じ、自信があるのか?』
「どうでしょうねぇ?なんなら警察手帳もかけましょうか?」
『いい度胸じゃねぇか、俺はココの登記簿かけてやるよ』
「牛川さん、絶対にギャンブルは止めた方がいいと思うよ」
『チェンジしないのか?』
「このままでええよ」
『俺は、フフフ、フルハウスだぞ』
「いい手やんかぁ、でも、まだまだやったねぇ」
『ゲッ!ロイヤルストレートフラッシュ?…マジ?』
「智、引っ越しの準備しなくちゃいけないなぁ♪」
「なんで、ウチが引っ越しするんだよ」
「嫌なんか?」
「当たり前だろ、コレ見ろよ」
『姉ちゃん、それは?』
「盗聴器だらけやんか、ココ」
「人気者やねぇ、牛川さん」
『馬鹿な!誰がココに!?』
「敵なんやろうなぁ」
「さてと、全部壊しといたから、ゲームでもしよか」
『本当にココにあったのか?』
「かついでも仕方ないやん」
「そうそう」
『ココで大丈夫なのか?』
「大丈夫にする為に、ココにいるんやん」
「信用できないなら帰るけどね」
『…今井さんの目を信じるとするよ』
「じゃ、桃鉄でもしよか」
『面白いんだろうな?』
「一課のゲーマー敏夫君オススメソフトだぞぅ」
「どんな肩書きだよ!さ、ゲームゲーム♪負けたら罰ゲームね♪」
ピピピピピッ
「携帯鳴ってるぞ、ポチ」
「勤務中にポチって言うな!」
『クククッ』
「負けたお前が悪い」
「牛川さん、智に負けたらヒドイ目になるんだぞぅ」
『よくわかったよ。クククッ』
「もしもし、草薙です」
『新条だ。二人とも本庁に帰ってこい』
「!?なんで?」
『…今井が殺られた』
「まさか?」
『まさかじゃない、四課の連中がそっちに向かうの無理矢理押さえて、田辺と高坂をそっちに向かわせた。打ち合わせしたいから、至急戻ってこい!いいな!』
「即戻ります」
『兄ちゃん、どうした?』
「…牛川さん、すいませんがポチ連れてコンビニ行ってきますね」
『俺の警護はどうするんだ?』
「すぐに戻りますよ。遅くなりそうなら、信頼できる連中をよこしますから」
『わかったよ。姉ちゃんには逆らわない方が良さそうだからな』
「ご理解いただけて良かった。じゃ、いってきますね。ポチ行くぞ」
「あぁ」
scene 6
「敏夫、あからさまに表情変えるなんてどうしたんだよ?」
「…今井さんが殺られた」
「それでか。でも、今井さんが誰に?」
「ボビーんトコでネタ掴んできたんやろ?」
「あぁ。菊花って何だよ?敏夫もメンバーなのか?」
「菊花は外部の人間でしか構成されてない。俺がボビーの事知ったのは、たまたまあいつがデータベース開いてたのを見たからや」
「…ふ~ん、そういう事にしといてやるよ」
「そういう事にしといてや。今井さん、何か探ってたんやろ?」
「内偵してたみたいだ、新条さんとな」
「やっぱな」
「気付いてたのか?」
「あの二人がわざわざ俺たち指名するとは思えないからな」
「ボビーからのネタはこんなんだよ。新宮のクスリの出元ってヤツだな」
「…それで内偵ってワケか。内部にいるんやな?」
「正解。で、一課から応援ってワケだ」
「新条さんと打ち合わせせにゃ」
「悪巧みの間違いだろ?」
「そうともいうな」
「…敵討ちだな」
「あぁ」
『お前達のことだ、おとなしくはしないよな?』
「当たり前やないですか」
「今井さんの敵討ちしないとね」
『…どこまで掴んでるんだ?』
「お二人が内偵してた事、今井さんをやったヤツのバック…ぐらいですかね」
『今井を殺ったのは、新宮の手のモンだろうな』
「間違いないでしょうね」
『でもな、新宮の配下に今井に抵抗する隙すら与えれないようなヤツはいない』
「情報がないだけでしょう?」
「今井さん、抵抗すらできひんかったんや…」
『ワイヤーで絞殺、仕事人みたいなヤツだよ』
「恨まれるような事、今井さんはしてないけどね」
「ワイヤー…」
『牛川の警護は一課であたる。四課の内偵はお前達に任せる。いいか?』
「頼まれなくても勝手に捜査しますって」
「今井さん殺ったのもね」
『牛川の警護には俺もあたる、安心して捜査にあたってくれ』
「課長まで殺られないでくださいよ」
「そうそう、もう年なんですから」
『年寄り扱いしてんじゃねぇ!警護にあたるから、お前らもホドホドにな』
「ホドホドねぇ…無茶するなって言わないんや?」
「好きにしろって事だよ。ね?課長?」
『ふん、お前らの捜査に口出しはしないよ。事件が片づくまで、お前ら二人は今井の指揮下なんだからな』
「…了解」
「課長もホドホドにね」
「敏夫、ワイヤー使い、心当たりあるだろ?」
「そんな危険人物の知り合いいるワケないやんか」
「何年付き合ってると思ってるんだ?」
「・・・ボビーとなんかの話してた時に聞いた記憶があるんや」
「どんな話してんだよ」
「ま、そこはそれイロイロな」
「で、思い出せそうなのか?」
「ボビーに聞いた方が早いやろな。新条さん、怒らせると危険やから」
「だわな、あの人と今井さんの方がウチらより危険やったみたいやし」
「そういうコト、暴走する前にケリつけなな」
「しかし、またボビーのトコ行くとはな」
「ええやん、ボビー楽しいやっちゃし」
「行くたびに結婚しよ!言われる身にもなれよ」
「モテモテやなぁ、智」
「…ハァ~」
「どうしたんや?ため息ついて?」
「なんでもないよ!」
「何怒ってんねんな」
scene 7
「ボビー、店閉めたままだ」
「どうせ智、来たから閉めたんやろ?」
「…商売成り立ってるのか?」
「心配せんでもえぇて、利益率がハンパやないからな」
「で、どうやって連絡するんだ?」
「店の電話、留守電やから連絡つかないぞ?」
「ボ~ビ~君♪遊~ぼ~う♪」
「あのなぁ」
『トシ、こんな時間になんだよ?』
「…ほらOKやろ?」
「お前らガキかよ」
『トモも一緒やったんか!神よ!今日という日に感謝します!トモに二回も会えた♪…トシ帰れ。二人の時間を邪魔するもんじゃないぞぅ』
「久々に遊びに来た友人に対する態度がソレなんか?悲しい、俺は猛烈に悲しいぞ。クッソ~、入れないと店の前で立ちションして帰ってやるからな」
「あのなぁ、現職の警官がそういう事言うなよ」
「智は立ちションできひんからな」
「当たり前だろ!!」
ゲシッ!!
『強烈な裏拳だなぁ。ま、俺はトモ怒らせたりしないから大丈夫だけどねぇ』
「笑ってねぇで、中に入れろよ。外は寒いんやぞ」
『トシが風邪ひくんは…それはないか。トモすぐ開けるからな』
「・・・ふぅ~」
「どうしたんだ智?ため息ついて?」
「ボビーもあれがなきゃいいんだけどなぁ」
『今井さん殺られたみたいやな』
「さすがに早いな」
「菊花の情報網ってヤツか?」
『ニュースで流れてるよ。ところで、トシ尾行されてたのはわざとだろ?』
「当たり前やんか」
「四課絡みか?」
『いや、あいつらは今井さん殺ったヤツの絡みだな』
「ワイヤー使いのか?」
「…智、お前ここでこの件からおりろ」
『その方がいいだろうな。奴が絡むとなると新条さんもヤバイぞ』
「いや、俺の方しか尾行してないみたいや」
『で、ここで襲撃されて三人仲良くあの世行きってワケか?』
「そんな鈍臭いヤツやったか?菊花のボビーさんは?」
「…本気でウチだけ仲間外れにする気なの?」
『言ってみただけだろ?トモが聞くワケないしな』
「いや、本気や。ここでおりろ」
「冗談じゃない!今井さんの敵討ちだぞ?」
『トシ、本気なんか?トモの気持ちもわかってやれよ』
「ボビー、あいつが絡んでるのにトモ連れて戦えるか?」
「…あいつって誰だよ?思い出してるんだろ?答えろよ敏夫!ボビー!」
『…トシ、お前はどうしたいんだ?』
「……ワイヤー使いってのは、ボビーの兄貴だ」
「!?…冗談だろ?」
『本当の話だよ。うちの家系はな、裏稼業で生計を立ててたんだよ。親父の代でそんな裏稼業からは手を引いたんだけどな。…兄貴は技に魅入られたんだよ』
「敏夫…一人で行く気なのか?」
「そうさせてほしいな。ボビー、生かして逮捕できひんかったら堪忍な」
『そんな心配はいらない。兄貴は一族に戻ったら殺される。逮捕されたところで一族が許しちゃいないだろうから一緒だよ』
「ボビー…」
「敏夫、ウチは足手まといなん?」
「あんな、俺はまだ捕鯨船には乗りたくないんだよ」
『先に外の連中片づけてくるな。邪魔しちゃ悪いし』
「ボビー、堪忍な」
「ボビー一人で大丈夫なのかよ?それに捕鯨船って、なんだよ?」
「智になんか起きたら、俺はこの国にいられへんやろ?」
「ウチの祖父さん、怒らせたら危険だしな」
「その祖父さんから、古武術草薙派皆伝もらってんやから安心しとき」
「敏夫…その…」
「何や?ボビーに任せきりにはできひんからもう行くぞ」
「…ウチも捕鯨船には乗りたくないからね」
「…尚更、無事帰ってこないとな。捕鯨船乗らせたないしな」
scene 8
『早いやんかトシ、愛の告白は済ませてきたのか?』
「うっせぃ!って、もう片づいてるのかよ」
『四課の新開の事は?』
「新条さん達に手ぇ回すようにネタは送っておいたさ」
『さすが菊花の次期総帥だな』
「…気付いてたのかよ」
『トモの祖父さんだろ?現総帥?』
「さすがにボビーの情報網は凄いな」
『ふん、トモの事、本気だったのになぁ』
「皆伝取らないと無理やぞぅ」
『…それは俺には無理な話だ』
「諦めたか?」
『いや、トシが捨てられる可能性があるからな』
「さらっとヒドイ事言うなや。さてと、幕降ろしに行くとすっかね」
『トモの事は任せて、片してこいよ。…俺の兄貴だと思わなくていいからな』
「…難しい注文やなぁ。じゃ、また後でな」
『おぅ、後でな』
『トモ、どうしたん?』
「知らないトコでいろんな繋がりがあったんだなぁって思っただけだよ」
『何が?…!?それって?』
「さっき出てく時に、ボビーのポッケに仕込んでみたんだよね。盗聴器」
『筒抜け?』
「筒抜け。祖父さんまで絡んで何やってんだかねぇ」
『…聞かなかった事にしといて欲しいなぁ』
「ウチに色々バレたのがバレると大変なんだろうねぇ?ボビー?」
『…何したらいいのかなボクは?』
「新開捕まえるの手伝ってほしいなぁ」
『喜んでやらせてもらいますとも!で、何すればいい?』
「新開が押収したクスリ、新宮に横流ししてるワケだろ?現場押さえに行けば現行犯だし、善意の目撃者になってほしいワケさ」
『…善意なのか?』
「悪意あってもいいんだけどね、別にさ。ようは証言取れればいいだけだし」
『……嫌な予感するんだよなぁ』
「何が?」
『…いや、なんとなくだからいい。でもなぁ、トシにシバかれるし…』
「この場でウチにシバかれて、後で祖父さんからもシバかれるのと、祖父さんにシバかれた後、敏夫シバき倒すのとどっちがいい?」
『喜んでお手伝いさせていただきます』
「さすがボビー、話がわかるね」
『新開さん、今回の取引でしばらくはおとなしくさせてもらいますよ』
『パクられるとでも思ってるのか、新宮?』
『警官殺しまでやって、息潜めないわけにはいきませんよ』
『別に俺やお前が殺ったワケじゃない』
『だが、新開さんが調べられてるのも事実ですからね』
『証拠は何一つないんだ、心配する必要もないさ』
『牛川さえ片づいたら、証拠も何もでてこないでしょうし』
『ヤツを使って、殺っておくか?』
『警護されてる状態じゃ、印象が悪くなるだけですよ』
『証言が出来ないようにすればいいだけだからな』
『その件は新開さんにお任せしますよ。いつものように代金の方は支払わせてもらいますので』
『しばらくはおとなしくするさ』
「ボビー、なんで悪役って説明じみた会話をするんだろうな?」
『トモ、それはオヤクソクってヤツだからツッコミ入れちゃダメなんだぞ』
「へぇ~、そんなルールがあったのか。今の会話しっかり聞いたよな?」
『この耳でしっかりと聞いたし、持ってたスマホに偶然録音アプリが入っててな、録音した』
「こんな場所でボビーと出会うなんて偶然って恐ろしいなぁ」
『運命で結ばれてる二人だからな。会いたいと思えば出会う事ができるのさ』
「…新開!新宮!話は全部聞かせてもらった!麻薬取引の現行犯で逮捕する!」
『シカトなん?』
『滝沢警部じゃないですか、こんな場所に単独捜査ですか?』
「お前ら逮捕するのに人まわすほど、一課は暇じゃないんだ」
『なるほど、貴方が黙ってればいいだけの話ですね』
『トモ!奇遇やん、こんな場所で会うなんて』
「あれ?ボビー?どうしたのさ、こんなトコで?」
『…わざとらしすぎるんだよ』
「ボビー!演技力なさすぎだよ」
『あ~!俺のせいなん?アカデミー賞並みの名演だぞ?』
『二人仲良く、心中って形にしといてやるよ』
『愛し合う二人だからなぁ…って、何にもしてない内に死ねるか!』
「心配しなくても何も起きないし、愛し合ってないからな」
『ふざけるのは…』
ズキューン!
「新開さん、銃抜くの遅すぎだよ」
『な!?新宮!』
ガシッ!
『逃げるのも遅いしな』
「民間人の捜査協力に心から感謝するよ」
『捜査協力?そんな大それた事しちゃうなんてボク恐いなぁ』
「滝沢から、新条へ!新開及び、新宮の身柄を拘束、Kビルまで応援要請願う」
『本部より滝沢、了解!至急、KビルへとPCを向かわせる!』
「ってなワケで、ボビー、この二人おとなしくさせといてな」
『トモは?…トシオの応援は必要ないと思うぞ?』
「兄貴なんだろ?それにコロシはまずいからな」
『・・・無理するなよ』
「体張れるような、そんなにいい給料もらってないしね」
scene 9
「兄さん、その辺でやめときません?」
『久しぶりに力を発揮できるのに、応じると思うのか?』
「困った兄さんやね。…ボビー、堪忍な」
『帰れない事を謝ってるのか?』
「アンタを無事に連れて帰れないのを謝ってるんや」
『急に動きが早くなったな』
「まだまだ早なんで」
『おもしろい動きだな』
「とっておきなん見せたいとこなんやけど」
『チェックだな』
「な!?」
『ワイヤーを張り巡らせたのに気付かなかったみたいだな。残念だが、ここまでだ』
「ついてないなぁ」
『うん?』
「こんなんで終わりなんてな」
『お前の負けだ!』
「冗談やろ?兄さん」
『!?…いつの間に?』
「張ってあったワイヤー、切れ目入れてたしな。諦めて縄について…」
ガシャン!!
「敏夫!無事か!!」
『新手か!』
ズキューン!
「智、撃つな!」
「撃ってから言われてもなぁ」
『グッ…』
「ボビーがあんたの帰り待ってる。証人保護プログラム使て、あんたの身柄は保護させてもらいます」
「今時、死を持って制裁なんてのは古すぎだよ」
『…』
「ってなワケで、しばらくはおとなしくしててもらいます」
ガシッ!
「ひどいな、敏夫。思いっきり当て身入れなくてもいいじゃんか」
「舌噛み切られても困るやんか。…あっ!智、お前頬んトコ切れてるやんか」
「ガラス割って登場してみたかったんだよねぇ」
「映画とかの見過ぎなんだよ」
「なんだよ、助けられてその言いぐさか?」
「そんなんされんでもケリついてたわい」
「反抗的だな…ポチ?」
「また、ポチかよ」
「ご主人様に逆らうとはいい度胸じゃんか」
「あんなぁ、誰がご主人様なんや」
「ウチに決まってるやんか」
「そんな傷、舐めときゃ治るわい」
「…セクハラだ」
「いつもしてんじゃねぇか!」
「世の男性陣にわからせてやってるだけだろ?」
「詭弁や、そんなん!」
「仕方ない、舐めさせてやるぞ。ほれほれ♪」
「むっちゃオッサン臭いぞ、その言動は!」
『トモ!トシ!無事か!!』
「ボビー、兄貴も無事だぞ。罪は償ってもらうがな」
「日本も司法取引とか出来たらいいのにな」
『そればっかは仕方ないさ』
「じゃ、兄貴は自首させてくれな」
「そうそう、量刑、量刑♪」
『いいのかよ?』
「殺人はまずいけどな。それなりに理由もあるだろうし…」
「しっかり証言してもらって、上まで根こそぎってのが一番だからな。トカゲの尻尾切りの片棒担ぐのは勘弁ってこと」
『…あんがとな』
半月後
「なぁ、敏夫」
「なに?」
「いつから捕鯨船乗るんだ?」
「なんでそんなもん乗らアカンのんや?」
「ウチになんかあったら捕鯨船乗る言うてたやんか」
「無事やったやんか」
「これこれ」
「頬の傷は、お前がガラスぶち破って登場したからやんか」
「ひどい!敏夫のせいで傷物にされたのに」
「人聞き悪いやろ!泣き真似すんなや!!」
「婦警がすごい目で敏夫見てたぞ」
「あんなぁ、わざとやってるやろ?」
「でな、祖父さんが絶対許さんって言うてたぞ」
「…同じ事言うたんか?」
「頬どうしたって言うからな」
「うん」
「敏夫助ける時に(ガラスに突っ込んで)傷付きました。ってな。ちなみに()内は言うてへんけど」
「肝心な部分やんけ!ってか、()内とか言うなや!」
「気にすんなよ」
「するわ!」
「で、祖父さん、恐いから捕鯨船で国外逃亡するんやろ?」
「…あんなぁ」
「ウチは船酔いするから、海外旅行、船旅は勘弁願うぞぅ」
「…ドコ行きたいんや?」
「フフフン♪…敏夫がいるならドコだっていいさ♪」
Fin
おかしな二人 ピート @peat_wizard
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