第6話 恋する二人 後編

「智~どうだ調子は?」

「朝からなんだよ?まぁ、フルマラソン完走できるぐらい元気ではあるけどどな」

「そうやなくて、頼んでたアレだよ、アレ」

「あ~…アレな」

「そうアレ。で、どうなん?」

「どうも4課絡んできそうだな。…ヤクザ嫌いなんだよなぁ~」

「!?4課?…なんかの事件に関係してんか?」

「関係も何も、犯罪者だよ。殺人の容疑は決定的じゃないか」

「あ、あ~~・・・高畑がそんなヤツやったなんて」

「高畑?…あぁ、あの高校生か、評判はいいみたいだぞ」

「うん?犯罪者なんやろ?」

「あぁ、手配書が回ってるじゃないか」

「手配書?…昨日、課長が言うてたヤツか?」

「当然だろ?高校生の犯罪なら、ココが出張ってく前に少年課の仕事じゃないかよ。ましてや4課が絡むなんて相当な事だぞ」

「俺が頼んでた件だよ。課長からの頼みなんて放っておいても、誰かが解決させるからええんや」

「うわっ!職務怠慢だ、税金ドロボー!」

「ちゃんと納税してるわい!…そうやなくて、高畑の件や」

「朝からウルサイ奴だな。明日の非番の約束はキチンと覚えてるんだろうな?」

「映画見て、夕飯も何もかもご馳走すればええんやろ?」

「何もかも?…そうそう何もかもな♪」

「?…早く高畑の件を聞かせてくれよ」

「もう一回確認するけど、本気なんだな?」

「何がだよ?」

「高畑の件だよ」

「…あぁ、認めたくはないんやけどな」

「そうか…周囲が何と言おうがポチはポチだからな」

「何言うてるんや?早く聞かせてくれ」

「S高校の高畑純で間違いないんだな?」

「あぁ、そうや」

「S高校普通科2-B、出席番号16番、血液型はO型、身長172、体重52キロ、テニス部に所属、運動だけでなく、成績もいいみたいだな。入学以来20番以下になった事はないそうだ」

「えらい細かく調べてくれたんやな」

「当たり前だろ?ポチのご主人なんだからな」

「…ホンマにありがとうな」

「現在恋人はいないようだが、好意を寄せてる相手はいるようだ。相手の特定までは出来なかった。ま、ウワサだけかもしれないけどな」

「…好きな相手がいるのか。まぁ、いない方がおかしいわな」

「友人や近所の評判を聞く限りでは、性格もいいみたいだぞ。イマドキなかなかいないタイプかもしれないな」

「そうか、それなら安心やな」

「…ポチ、本気で高畑純なのか?」

「そやけど、何か問題でもあるんか?」

「いや、調査してみたけど、特に問題なんてないよ。電車で席譲ってる姿まで見たしな」

「へぇ~優しいヤツなんやな」

「でも…男だぞ?」

「何か問題があるのか?」

「いや、それは互いの気持ちの問題だからな。周りがとやかく言う事じゃないと思う」

「そうや、その通りや。互いの気持ちが一番大切なんや、周囲がゴチャゴチャ口挟む事やない」

「だからだったのか…長い付き合いなのに、今まで気づかないなんてな…」

「何が?」

「ポチに恋人がいない理由だよ」

「!?理由もなにも……決まってるじゃねぇか」

「何、赤くなってるんだよ」

「お前が変な事言うからや」

「変な事?」

「俺に恋人がいない理由だよ」

「もうわかったからいいよ…ゲイだったんだな」

「はいぃ~?だ、誰がだよ?」

「ポチに決まってるじゃないか」

「何で決まってんねん!俺はゲイだからって差別するようなヤツじゃないけどな、断じてゲイやない!!」

「好きなんだろ?」

「だ、誰を?」

「高畑の事だよ」

「そうや」

「やっぱりゲイじゃんか」

「何言うてるんや!高畑は高校生だぞ?しかも男や!」

「だから、ゲイなんだろ?更に言えば…ロリコン?いや、ショタコンになるのか?…ま、どっちにしたってウチは差別したりしないからな」

「高畑の事を好きなんは、妹の聖や!!」

「聖ちゃん?…高校生になったんだっけ?」

「今年の春からな、で、相談されたんや。妹思いの兄としては協力しないワケにはいかんやろ?」

「何で自分で調べないんだよ?」

「ちゃんと付き合うようになった時、顔合わすの気まずいやん?」

「そんな心配してたのかよ?」

「そん時にチョロチョロしてたん兄貴やったんか!って感づかれたら聖が可哀想やないか!」

「その考え方がいやらしいんや!」

「うっ!それはそうかもしれへんけど…聖が悲しい思いするのは嫌やんかぁ」

「……ヤキモキさせた罰だ。明日の夕食はやっぱり寿司だ寿司!仕方ないから、回ってるので許してやるよ」

「給料前なんやぞ?」

「ウルサイ!全部ポチが悪い!!」

「なんなんだよ、ソレ」

「ところでさ…」

「何だよ?」

「恋人がいない理由って何?」

「……」

「何で黙るんだ?黙秘権か?取調室でじっくり訊問してやろうか?」

「…気づいてへんのんか?」

「何を?」

「……そんならええ、完全黙秘や」

「気になるだろ?」

「気にせんでええんや」

「ケチ!」

「…寿司でええんやな?」

「回ってるのだろ?」

「回ってへんのがええんやろ?」

「おぉ~!ポチの恩返しやな」

「ところでさ…」

「何?」

「何で恋人つくれへんのんや?」

「…気づいてないのかよ?」

「何を?」

「……バカ」

「なんやねんなソレ」

「ウルサイな!バカだからバカって言ってるんだよ」

『朝から痴話喧嘩してないで、とっとと捜査に出て行け!!』

「ゲッ!課長!」「うわっ!課長!」



「怒られたじゃんか」

「ポチが悪いんだよ」

「智が悪いんやん」

「何で?」

「気づかないからだよ」

「何を?」

「自分で考え」

「ポチだって気づかないじゃんか」

「何を?」

「それこそ考えろよ」

『いいから行け!!』

二人は口喧嘩を続けながら1課を後にした。


Fin

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