第5話 恋する二人 前編

「なぁ、智、相談があるんやけどな」

「さてと、仕事仕事!忙しいなぁ」

「突然、書類なんか出すな!」

「誰に向かってそんな口をきいてるんだ?あぁ?」

「そうやってすぐに銃口を人に向けんんな!」

「気にするなよ。それに、ポチだろ?人じゃないしな」

「あ、あのなぁ…引き金引いたら俺の命がなくなるじゃねぇか」

「心配するなよ、初弾が空砲なんてのは、今時小学生だって…あぁ小学生以下だったな」

「ボソっと言うな!聞こえてるぞ!!」

「聞こえるように言うてるんだよ」

「あのなぁ」

「気にするな、事実なんだからさ」

「なぁ…年々俺の扱いが酷くなってないか?そんな気がしてしゃあないんやけど」

「気がする?…そんなワケないだろ?」

「そうだよな、そんワケないわな」

「事実だ、扱いは酷くなってるだろ?」

「あ!あ~~!!そうなんや、気のせいちゃうんや!…冗談やと思てたのにぃ~!!」

「…楽しい奴」

「俺はお前のオモチャやないんや!」

「オモチャ?…ペットの間違いじゃないのか?」

「……」

「そう落ち込むなよ笑ってないといじり甲斐がないだろ?」

「心配してるワケやないんやな」

「だってスネてるだけだろ?で、どんな風にいじってほしいんだ?うん?」

「いじらんでええんや!相談がある言うてるやないか」

「前にも言っただろ?祖父さんの遺言があるから、敏夫の相談だけにはのれないって」

「現役でピンピンしてんじゃねえかよ。智ん家の祖父さん」

「…知らなかったのか?」

「だって先週会ったばっかやん」

「……」

「…冗談だろ?」

「祖父さんな…サイボーグなんだよ」

「お前なぁ、不幸があったのかと思ったやないか!」

「ウチの祖父さんが死ぬワケないだろ?アレは殺したって死なない」

「アレとか言うなや」

「敏夫は祖父さんの実態を知らないからそんな風に思うんだよ。子供の頃からどんな目に合わされてきたと思ってるんだよ」

「嘘だろ?だって祖父さん」

「会うたびに小遣いくれるし、お菓子、オモチャはねだり放題…」

「可愛くて仕方ねぇだけじゃねえか!」

「まぁな」

「で、相談にはのってくれるのかよ?」

「…仕方ないな、今はポチだし、祖父さんも化けて出たりしないだろうし…主人としてペットの面倒はみてやらないとな」

「まだポチ扱いなのかよ!」

「性懲りもなく勝負を挑んで負けたのはポチだろうが!そもそもだな、ポチのクセに主人に楯突こうってのが間違ってる!保健所に連れてかれないだけありがたく思えよ」

「次こそ勝ってやる!次の非番もまた勝負だからな」

「わかったわかった、で、迷える仔羊の悩みはなんだ?」

「あんな…」

「なんだよ?早く話せよ」

「いや、その、なんだ」

「5、4、3、2、1、0。はい、タイムオーバー!残念だったな、営業時間の終了だ」

「聞いてくれよ!」

「仕方ないな、特別料金がかかるがいいか?」

「金取るのかよ」

「そんなアコギな事するかよ。今度の非番は見たい映画がたくさんあるから、勝負はナシで、映画のハシゴな。モチロン、料金はポチのサイフからだぞ」

「クソッ、弱みにつけ込みやがって、いいよ、その条件のんだ」

「いいんだな?ふふん♪じゃ、営業再開しますかね」

「あのな…好きなヤツがいるんだよ」

「!?ドコの犬だ?」

「なんで犬なんや」

「田中さん家のコリー犬サリーちゃんは美犬だからなぁ…って事は猫か?…わかった!佐藤さん家の…」

「違う!犬猫やない!獣でもないし、昆虫でもないぞ」

「ま、まさか…に、人間なのか?」

「当たり前や!恐る恐る聞くなや」

「そ、そんなバカな話があってたまりますか」

「おい!どういう目で俺の事を見てたんや」

「…そうか、とうとう人間を好きになれるようになったんだな。…大変な事になりそうだ…課長に報告しとかなアカンな」

「報告するような事ちゃうやろ?…ま、実際大変なんだよ。夜も眠れないし、食欲もなくてな」

「本気で言ってるのか?」

「冗談でこんな話するかよ」

「で、相手は?」

「S高校の『高畑純』って奴なんだけどな」

「高校生なのか?」

「あぁ。なんとか名前は知る事ができたんやけど…どんな奴なのかわからへん」

「本気か?名前しかわかってないんだろ?」

「考えるだけで夜も眠れなくなるんや」

「と、年の差は気にならないのか?」

「そんなんは大した事やない」

「な!?…でも犯罪だぞ犯罪」

「何言うてるんや?で、頼みってのはな…」

「頼み?相談じゃないのかよ?」

「そう言わんと聞いてくれ」

「しゃあないな、聞いてやるよ」

「高畑がどんな奴なんか調べてほしんや」

「自分でやれよ、そんなん」

「気付かれたら、後が厄介やんか」

「うわっ!変なトコで計算高い奴だな…嫌な奴ぅ」

「そういう事言うなや!」

「わかったわかった。で、何を調べて欲しいんだ?」

「恋人の有無やろ、あとは交遊関係を探ってもらえると助かる」

「…映画のハシゴじゃ安いくらいだな」

「わかったよ。その後の夕飯も御馳走してやるからさ」

「うん?『してやる』?」

「いえ、夕飯を是非とも御馳走させていただけないでしょうか?」

「回ってない寿司がいいなぁ」

「鬼!給料日前なん知ってるやないか」

「わかったよ、いつもの居酒屋でいいよ」

「ありがとうな、やっぱ持つべきものは友やなぁ」

「…ハァ~」

「どないしたん?タメ息なんかついて」

「別に、仕事の合間に調べといてやるよ」


続く

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