第41話 更なる逆転と本当の勝者
「って事はどうゆう事かもうわかりますよね?」
「しばらく二人きりになる……?」
「はい、そうです。つまりそこでボロボロになったそらにぃを心配する振りをして優しくしてあげたらどうなると思いますか?」
「未練が残る……というか更に好きなる可能性がある」
「そうですね。私この日の為に学校でしか甘えてきませんでしたから。やっぱりギャップって大事ですよね。それにそこまで来たら私だけを見てくれてると思うんです。もう誰も見向きもしないぐらいに。でも正直に言うと――」
「言うと?」
「さっき私が素直に告白を受けていたら、多分そらにぃの場合後で白雪七海に……って未練が残ってしまうと思うんですよね。だから今は辛い思いをさせるかもしれない……だけど未練を残さない為にも一旦全てリセットする必要があったんです。そう、私とも白雪七海とも。そしてやっぱり最後は私だけを……」
育枝は心の中で呟く。
『だって白雪七海が色目を使って来たら、もしかしたらまた心が揺れるかもしれない。正直そらにぃの本気度はわからなかった。だけど相当な物だったはず。それは四月の全てが証明している。本気の初恋って本当にそれくらい理屈じゃない。病気と一緒でいつまた再発するかわからない怖さがある。だって私は過去に叶わないんならと考え何度も諦めようと思ったけどダメだった経験がある。それにそらにぃは別に白雪七海を嫌いになったわけじゃない。そこを勘違いしてはいけない。したら間違いなく足元をすくわれるから。結局の所、やっぱり女の子は好きな人にはどんな時も自分だけを』
そして。
「見てもらいたいから」
『ここまで慎重になるの。そう最後の最後まで。これでもかと言うぐらいにね。それだけ大好きって感情が大きいし傷付きたくないし不安にもなりたくないし……とダメだとわかっていても我儘にもなっちゃうのが恋という病』
だけどこれで私の勝ち。
――長かった。
だけどこれで私とそらにぃが結ばれて本当の意味で幸せになれる。
そらにぃが初恋を忘れられるぐらいにこれからは私だけを見てくれる、と思う。
頬を緩ませて育枝が教室の中をチラッと見て勝ち誇ったように。
「明日からの十連休中に私とそらにぃが復縁しても周りは連休中に何かあったと思いそこまで深く詮索してこないと思うんですよ」
「育枝ちゃん可愛い顔してどんだけ腹黒いのよ……」
「えへへ~ありがとうございます。それに白雪七海と言う存在は私にとっては私を妹から異性へと上げる最高のライバルでもありました。流石にかなりの理由がないとそらにぃは私の事を異性として認識しても認めてくれないのはわかっていましたから。だからこそ【奇跡の空】を復活させる必要もあったんです。とは言ってもギリギリでしたが」
「ギリギリって?」
「そらにぃは見ての通りギリギリまで私と白雪七海どちらを取るか悩んでいました。私言い方はあれですが全力で告白してくれて振られてくれればと内心ずっと思っていました。そらにぃには幸せになって欲しい。だけど自分とは別の相手とはなって欲しくない。恋心があれば当然誰だって思う事です。水巻先輩もそうですよね?」
「まぁ、それは当然よね」
「【奇跡の空】は自分の想いに素直な作家。だからこそ素直な気持ちでぶつかって振られてくれれば後は連休中に私がそらにぃを落とせると思っていました。そう素直になったそらにぃなら私に対する想いにも素直になってくれると思っていたんです。昔から薄々好意があるのは気付いていましたので。だけどまさかあんな事になるとは思いもしませんでした」
育枝の言うあんなこととは、白雪がした告白の話しだとすぐにわかった。
「私全部話しましたので今度はそちらが全部話してください。本当は白雪七海と色々と繋がっていたんですよね?」
「どうしてそう思うの?」
「教室でそらにぃが告白された時チェックメイトって言いましたよね。それはつまりこうなる事を知っていた、もしくは仕組んでいた、からではありませんか?」
「私以上に勘が鋭いのね育枝ちゃん。いいわ、だったら全部話してあげる」
「七海も育枝ちゃんと同じで【奇跡の空】が自分の想いに素直な作家だと知っていたわ。それは作品を読めばわかる」
「まぁ、そこはわかります」
「だから七海も【奇跡の空】の復活を願い、そこに焦点を当てたの」
「ん?」
「簡単に話すと、育枝ちゃんという彼女が住原君に出来るまでは特別扱いをしてじっくり時間を掛けて高校を卒業するまでの三年間の全てを使い確実に好きにさせて恋人になろうと七海は考えていたのよ。そしてそれは自分をヒロインとして住原君を新条空としたプロット通りに動く事によって徐々に距離を詰めていき、最後は告白されると言う初恋物語」
「つまり?」
「育枝ちゃんが頭の中で色々と考えていたように七海は七海で一つの作品を作りその中のメインヒロインを演じるようにして動いていたのよ。事実住原君は今年に入って急に七海を異性として意識し始めた」
「綺麗な容姿のくせに計算高い。というか腹黒過ぎる……」
「育枝ちゃんがそれを言うのかしら。まぁいいけど。だけど今年に入り予定外の出来事が起きた。大半の事は全て織り込み済みだったけど、それをも凌駕する問題」
「私が彼女になった……?」
「そう。一年生でとても可愛いと学校内で噂になり既に何人者男を振った女が住原君の彼女になった。それも誰がどう見ても住原君より育枝ちゃんの方が溺愛した状態でね」
「それで?」
「そこで七海は内心かなり大慌て。全シナリオを急遽書き直して何度も試行錯誤をした。本業の作品の締め切りが近いのに原稿が書けなくなるぐらいに心の中は破天荒となっていたわ。そこで私が七海に協力をする為に住原君と友達になった。そう【奇跡の空】をちょっと荒療治になるけど強引に引きずりだそうとしたのよ」
「あっ! そうゆうことだったんだ」
水巻はすぐに頷く。
ここまで言えばもう全ての事を話さずとも、育枝なら察してくれるだろうと思った。
事実そうだった。
後は水巻が白雪とは別に動く事でイレギュラーな存在でもある育枝の行動を妨げる事で白雪の手助けをしていたのだと。この時、水巻は自分の判断で色々と動いていた。だから育枝ですら最後まで白雪の協力者である水巻の存在に気付かなかったのだ。水巻はずっと気付いていた。育枝の目は恋のライバルである白雪を警戒するのに精一杯で尻尾を出さなければバレる事はないと。必要な情報は空哲本人から聞き必要に応じて白雪に情報を流していた。だから今日空哲と育枝の二人が作り上げたプロットが意味をなさなかったのだと。
「って事は私の一人勝ちではないと言うわけか」
「まだ育枝ちゃんの勝ちよ。結局の所ね七海は育枝ちゃんと一緒で住原空哲と言う人間も本当は好きで、好きで、好きで仕方がなかったの。だけど結局は振られた。あれはしばらく立ち直れないわよね。ついでに言うと、作品の連載が止まって住原君が七海の心配を今後するであろう保険付きでもあるけどね」
育枝の表情から余裕がなくなる。
「まさか!?」
「そう。明日からのGW(ゴールデンウィーク)中に一度でも手が止まればもう確実に原稿は間に合わない。住原空哲を手に入れる事を前提に七海は全てを懸けていた。そして私は負ける可能性がないなら問題ないよねと言ったら当然と言って七海は意気込んでいたわ。だからGWを使うのは育枝ちゃんだけじゃないって事。つまり……私と貴女の引き分けって所かしらね」
「……って、それじゃ結局先輩の一人勝ちじゃないですか!」
「あら、褒めてくれてるのありがとう。そうね結局の所、勝敗だけで見れば育枝ちゃんも振られ、七海も振られ、住原君も振られたままだもんね~。このままGWで復縁しても結局辛い思いしちゃうかもね……あはは~。さぁて、お話しは終わり。私達は二人の元へ戻るわよ!」
そして水巻は最後に心の中でこう呟く。
『だから私言ったわよ、「チェックメイト」ってね。途中から私は気付いていたわよ、育枝ちゃんもまた七海と同じぐらいに本当は住原君の事が大好きだって事にね。だからここまで必死だったって事もね』
水巻はそう言って落ち込む空哲と白雪の元へと戻っていく。
そしてさっきまで勝ち誇っていた育枝は大きなため息を吐いてとぼとぼと戻っていく。
盲点だったのだ。
兄が白雪七海のファンだった事がまさか致命傷となるとは……。
一人の刺客により育枝も最後の最後で心に大きな傷を負ってしまった。
二人の女は初恋の相手とこれだけ頑張ったのにも結果付き合えず、一人の男は二人の大切な女(存在)を失ったと思い込んでいる。
最後の最後で恋の神様は手のひら返しをして、水巻小町の味方をしたのだった。
だとするならばこの四人がこうして出会った事も。
全ては神様のさじ加減一つであると考えられることから――。
――出会いは必然であって偶然ではない。のかもしれない。
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第一節 終わり
後書き
最後まで読んで頂きありがとうございました。
もし良ければ最後に作品の評価をお願いします。今後の創作活動の糧にしたいと思います。
最初は育枝と空哲、もしくは七海と空哲を繋げる方向で考えていました。
しかしプロットを作り終えた時にこっちの方が、個人的にはいいなと思いこっちのルートにしました。
好きな人に見てもらえるように頑張る育枝と素直に中々なれない、だけどなんとか理由をつけて素直になろうとする白雪をもう少し見てみたいという流れからです。(デレVSツン ? 少し違うかも)
ですが、長すぎてもと言う観点から区切りが良いと思われるここで完結、今後の展開は皆様のご想像にお任せしたいと思います。
ちなみにもっと前の一番最初の原稿では育枝と白雪が実は裏では仲良しで白雪は空哲から異性として見てもらう、育枝は義理の妹から異性として見てもらうために恋のライバルが手を組んだと言う話しが昔はありました。育枝実は白雪のファンで空哲と白雪が同じ学校に通っている事を知っていたという設定が昔は……あったかな。結局色々と考えた末、全て第四ルートを採用しましたが。
他作品でお会いできるのを楽しみにしております。
(もし需要があればまだ未定のお話しですが、続編を書くかもしれません。その時は第二節でお会い出来ればと思います)
本作品に対する感想やコメント等は基本的に全て拝読させて頂きますが内容によっては返信をしない物もありますので、予めご了承ください。(例:続編はこのルートで作って。等)
学校一の美女だろうが私のお兄ちゃんを振るとはいい度胸じゃない~義妹とはあくまで偽物の恋人であって本物ではないはずなのだが、妙に色々とリアルなのはなぜ~ 光影 @Mitukage
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