ギルドのクエスト達成ってどうやって報告してるの?

ちびまるフォイ

その状態でちゃんと倒したと報告できますか?

「俺が? クエストに同伴するんですか?

 魔法も武器もなにも使えませんよ?」


「いいのだよ。そんなことは望んでないのだよ」


「はあ」


冒険者のパーティになぜかよそ者の俺が呼ばれることに。

渡されたのは肩にかつぐほど大きなカメラ。


「君はこれを持ってついてくるだけでいいのだよ」


「なんでこんなものを……?」


「君はクエストが完了したかどかを

 どうやってギルド側が判断すると思うだね?」


「もしかして、クエストの依頼が達成されたかを

 証拠としてコレに録画して渡してるんですか」


「そうなのだよ、では出発するなのだよ」


あらゆる武器や防具を揃えた冒険者の横に

ひとりカメラを担いだ一般人がいるのも不思議な光景だった。


一同は道中の雑魚を斬り倒し、魔物の総本山へと向かう。


「今のかっこよく映ったのだよ!?」


「カメラ映えを狙って雑魚を殺さないでください」


クエスト依頼のあった強力な魔物が住み着く山へと到着。

まがまがしい気配に腰が引ける。


冒険者は道中で用意していたであろうセリフを放つ。


「みんな! 俺たちの手で村の人の自由を取り戻すのだよ!」


冒険者たちと魔物の正面衝突がはじまった。

もって2秒ほどで全員が瀕死となった。


「た、退散なのだよ!!」


冒険者と俺はお土産も買えないほど短時間で逃げ帰ることとなった。

青白い顔の冒険者は暗い顔の仲間に告げた。


「え……めっちゃ強いのだよ……勝てるわけないのだよ」


「……でしょうね。なんで受けたんですか」


一部始終をカメラに収めていた俺としても全面同意だった。


「ギルドが書いたクエスト難易度なんて

 あてにならないのだよ! こんなに難しいと思わなかったのだよ!」


「それじゃどうするんですか?

 装備を整えて再挑戦するんですか?」


「殺す気なのだよ!?」


冒険者は手を伸ばしてカメラを塞いでしまった。


「いいかよく聞くのだよ。

 お前には契約料の2倍を払うのだよ。

 この録画を加工して倒したと報告するのだよ」


「いやでもまだ魔物は生きているじゃないですか!」


「黙るのだよ! ここでクエスト失敗だとばらして

 冒険者ランクが下がったらそれこそ、

 もうあの魔物に挑戦する人がいなくなるのだよ!」


「そのためには倒したと偽っていいんですか!

 報告を信じて山を訪れる人もいるかもしれないのに!」


「そんなやつは魔物の餌にでもされればいいのだよ!」


「それが冒険者の言うことか!?」


「この場でお前を消すこともわけないのだよ。

 お前ひとりくらい、冒険者にかかれば……」


「そ、それで俺のような一般人を……!」


「どうされたいか選ぶのだよ。

 生きて帰るか、ここで消し炭になるのか」


「……わかりました」


「ようし。ではちゃんと加工するのだよ」


魔物は倒したものとして処理されることとなった。

冒険者たちは報酬を受け取り、何食わぬ顔で生活している。


「やっぱり……こんなのおかしい!」


俺は加工される前のレコーダーをギルドに提出した。

ついに冒険者たちの不正が暴かれることとなった。


クエスト偽完了を報告した冒険者たちは呼び出された。


「お前! なんてことをしてくれたのだよ!!」


「悪いのはそっちでしょう!

 倒していない魔物を倒したことにしたくせに!」


「魔物がいると信じて怯えて暮らすより、

 嘘でも、魔物がいないと安心できる方が

 村の人達にとってもいいことなのだよ!」


「自分が倒せないだけでしょうが!!

 こっちには言い逃れできない証拠もあるんだ!」


冒険者はそれを聞いて開き直ったような態度になる。


「認めるのだよ。まあ、たしかに倒してもいないのに

 魔物を倒したと報告したのは謝るのだよ。

 だが、お前も悪いわけじゃないのだよ?」


「……は?」


「まさか、自分だけがレコーダーだと思っていたのだよ?」


冒険者は仲間のひとりを呼びつけた。

仲間が出したのは別のレコーダー情報だった。


そこには自分がレコーダー情報を加工する自分が記録されていた。


「俺はたしかに悪かったのだよ!

 だが、一度は約束しておいて後で裏切るなんて

 それこそ人として悪いことじゃないのだよ!?」


「話をすり替えるな! 俺はあんたの不正を……!」


「約束を勝手に破るような二枚舌のくせに、

 なにを正義ヅラで文句言っているのだよ!!」


「俺は悪いことをあきらかにしただけだ!」


「嘘をついた点ではお互いに同じ罪なのだよ!」


二人の言い争いは割り込んできた村人に遮られた。


「た、大変だ! 魔物がやってきたぞぉ!!」


ギルドの外へと出ると、村の外から見覚えのある魔物が迫っていた。


「あ、あれは……あのときの……!?」


「どうしてこの村を襲う必要があるのだよ!?」


「そりゃあんたが道中に雑魚を好き勝手殺したり、

 勝てないとわかってから毒をまいたりしたり

 恨みを買うようなことはあるでしょう!」


魔物を討伐に人間の冒険者が一度攻め込んできた。

という出来事は魔物にとって大きなもの。


民家に野生のクマが降りてくれば、

専門の人達が駆除をするためやってくるのと同じだ。


駆除されたと確認できなければ、

いつまでも永遠に眠れぬ夜を過ごすハメになる。


「どうするのだよ!?

 あんな魔物に勝てるわけないのだよ!」


「冒険者全員の力を合わせて対抗できないんですか!」


「そんなこと出来たら最初から合同クエストにでもしてるのだよ!」


魔物はみるみる人里へと近づく。

もはや一刻の猶予もない。


「倒せなくても撃退くらいできないんですか!

 せめて撃退できれば、もっと強い冒険者を呼び寄せることも……」


「お前、あの魔物の強さ知ってるだろうだよ!

 倒すつもりで戦って、傷一つ入れれなかったのだよ!?」


「もうそこまで来てるんですよ!?」

「だからってどうすることもできないのだよ!!」



『ゴアァァーーーッ!!』



魔物は発する地鳴りのような叫び声を出した。

今にでも尻尾を撒いて逃げてしまいたい。


「あれは……まさか、まさかなのだよ!?」


冒険者はなにか見つけたように目を凝らしていた。


「行くのだよ! お前も手伝うのだよ!!」


「ちょっと! なんで俺も!?」


冒険者と俺は魔物に向かって突き進んだ。


その奥の相手をボコボコにすると、魔物を撃退させることができた。

村の人たちは何度も感謝した。


「魔物をしりぞけてくださってありがとうございます。

 一時は本当にどうなることかと思いました」


「魔物を撃退できてよかったのだよ」


「でも、また魔物が来るかもしれませんから

 次はちゃんとした冒険者を村に呼んでくださいね」


「ええ、ええ。それはもちろんですじゃ。

 それと……一つだけ良いかな?」


尊重は頷いた後、思い出したように告げた。


「どうして村を襲おうとする魔物に目もくれず、

 その後ろにいる雑魚を二人がかりで袋叩きにしたんじゃ?」


冒険者と俺の答えは同じだった。


「「 カメラを持っていたのがそいつだったんです 」」


魔物は冒険者討伐の報告ができなくなりさぞ困ったことだろう。

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