第8話(後編) 力を与えたい子と、里帰りすることになった


 僕は母上をそっと下ろし、立たせた。

「大丈夫か、ご婦人」

「は、はい……」

 気丈に言う母上。だがその体は小刻みに震え、目には涙が。しかもドレスはびりびりに破かれ、豊かな肢体が露わになっている。慌てて僕はマントを脱ぎ、母上に着させた。

 痛ましくて、たまらない。

 おのれ、よくも、よくも……!!

「レイヴン様……レイヴン様ぁあああッ!」

 姉上が後ろから抱き着いてきた。

「久しぶりだなアンジェラ。お前は何もされていないか?」

「はい」

「そうか。よかった……本当によかった……」

 凌辱とかされてたら、母上が悲しむからな。

 そんな僕の内心も知らず、姉上は「レイヴン様、そこまで私のことを」と感涙している。

 さて。


 復讐の時間だ。


 僕は二メートルはあるデカい傭兵に向き合った。ミスリル製の鎧を着て、剣を腰に挿している。

「レイヴンだな? 俺はベルンハルト。鬼哭兵団の団長だ」

(ああ、キティとかいう奴の兄貴か)

「なぜ貴様が、ここにいるのかは知らんが……その強さ、見せてみろ!」

 ベルンハルトが抜剣し、襲い掛かってきた。

 僕はかわしながら観察する。

(なるほど。『王国で五指に入る』と言われたワルターでさえ、比べ物にならないほど強い……まあ僕より全然弱いけど)

 さてどうしよう。普通に殺しても溜飲りゅういんは下がらないし……

 あ、そうだ。

 ナイスアイデアがひらめいた瞬間、ベルンハルトが叫んだ。 

「やるな、ならば受けてみろ。わが最大奥義・五月雨斬り!」

 

「【停止】」


 時間を止める。インターバルをとったため、再び使えるようになった。

 僕は大きく跳躍し——再び都市オルガナの外に出て、駆けた。

 そしてあるものを持って戻り『変わり身の術』の要領で、僕がいた場所に置く。


 時間が動き出した。


 ベルンハルトが凄まじい速さで剣を五度振り、大量の鮮血が飛び散った。

「ははは、とらえたぞ——なあッ!?」

 驚愕、そして絶望の叫び。

 ベルンハルトが切り刻んだのは、僕ではなく……

 妹の、キティだった。

 僕は時間を止めて、キティ(リネット、ガルムと対峙していた)を持って戻ってきたのだ。

「あ、あにき。なんで……こんな……?」

「おお、キティ、キティ!」

 ベルンハルトは妹にすがりつくが、すぐに事切れる。

 僕は額に手を当てて、心の底から嘲笑した。

「なるほど、お前の最大奥義とやら、すさまじい威力だな」

「……」

「ただ威力はともかく、どういう技なんだ? 妹を召喚して惨殺する技か?」

「貴様!!」

 ベルンハルトが激高し、修羅のごとく向かってくる。

 その斬撃を、僕は暖簾のれんでもくぐるようにけ、間合いを詰めた。

「歯を食いしばれよ」

 身体能力千倍での、腹パン。

 ミスリルの鎧を突き破り、べきべきと骨を砕き、内臓を破壊する。ベルンハルトは大量の血を吐き、気絶した。しばらく目を覚まさないだろう。

(リネットを襲う命令を出したのは誰か、後で聞き出さないとな)

 いちおう逃げられないよう腕と脚の骨を粉砕し、ロープ(姉上に持ってきてもらった)でぐるぐる巻きにしておく。

「う、嘘だろ。一発で団長を……?」「バケモンだ。勝てるわけねえ」

 ベルンハルトの部下たちが、悪鬼と遭遇したような視線を向けてくる。

(さて、こいつらや、都市に散らばってる鬼哭兵団はどうしよう)

 今すぐ皆殺しにしようか……いや。


 いいことを、思いついたぞ。

 

 僕はワクワクしながら、近くにいるベルンハルトの部下達を軽く殴り、気絶させる。

 続いて、町中を駆け回り……

 我が物顔で暴れまわっていた鬼哭兵団を、同じ要領で気絶させていった。

 ぐったりした彼らを、住民と協力して、街中央の広場に集める。復讐のために殺そうとする住民もいたが、それは止めた。

 日が完全に暮れたので、篝火かがりびをたくさん焚いてもらう。

 傭兵ひとりひとりを縄でつなぎ、簡単には逃げられないようにする。人数は三百人くらいかな。

(よし、始めるか)

 僕は布をかぶせた台を傭兵たちの前に置いた。そこに座りながら、 

「鬼哭兵団ども、起きるがいい!」

 たっぷりと殺気を込めたので、弾かれたように皆が起き上がる。さすが歴戦の傭兵団。

「我はレイヴン。団長ベルンハルトは我が一撃で倒した」

「う、嘘だ!」「団長がやられるはずねえ!」

 ベルンハルトはよほど信頼されていたのだろう。反論があがる。

「これを見ても、そう言えるかな?」

 僕は尻に敷いた台の、布を取り払った。

 そこにいたのは瀕死の重傷を負い、ロープで拘束したベルンハルト。

「あ、ああ、団長……」

 傭兵の中には、僕がベルンハルトをワンパンで倒すところを見ていたやつもいる。

 その話も伝播でんぱしていき……傭兵たちは皆、僕を恐怖のまなざしで見つめてきた。

「さっきお前たちを気絶させたのも我だ。その気になれば皆殺しにすることなど、造作もない」

 固唾かたずを飲む傭兵たち。

「だが我は……お前たちに、生き延びるチャンスを与えよう」

 そして僕は、ここにいる誰もが想像もしないことを言った。


「これから貴様らは、オルガナの住民と決闘してもらう。それに一度でも勝てたら、貴様らも団長も解放してやる」


 オルガナの街を、沈黙が包んだ。

 そして……

 傭兵たちは歓喜の声をあげ、住民たちからは困惑のざわめきが起こった。苦情を唱えるものもいる。

「勝てるわけないじゃないか!」「レイヴン! 貴方は我々の味方じゃないのか!」

 ひととおり聞き流したあと……

 僕は一喝する。

「貴様らは悔しくはないのか!」

 住民たちは、ビクッとおののく。 

「長年住んだ街を壊され、財産を奪われ、家族を傷つけられ! 自らの手で、仇を打ちたいとは思わないのか!」

「それは」

 互いに顔を見合わせる住民たち。

 そして、一分ほど経ってから……

 十二歳ほどの少年が歩いてきた。涙をたくさん流したのか、目が腫れている。

「僕、仇をとりたいです」

「ほう、誰のだ」

 少年は、激しく嗚咽しながら、

「と、父さんも母さんも……あいつらに殺されたんです。僕の目の前で……」

 そして僕は。

 仮面の下で悪魔のようにわらう。


「力が欲しいか?」


「え?」

「今一度、問おう」

 僕は両手を広げ、

「復讐を成すための力を、お前は欲するか?」

 少年は拳を握り、絶叫した。

「欲しい。欲しいですッ!!」

 ああ、なんて渇望に満ちた叫びだろうか。実に与えがいがある。

「よかろう。ならば——くれてやる!!」

 身体能力を百倍にする付与魔法を、少年にかける。

 そして鬼哭兵団に目を向け、

「さあ決闘の始まりだ! 我こそと思う傭兵は、出てこい!」

 一人の傭兵が立ち上がった。僕が風魔法で縄を切ってやると、腕まくりして飛び出してくる。

 負けることなど微塵みじんも想像していないようだ。少年に薄笑いを向け、

「ガキが。オヤジとオフクロの後を追わせてやる。せっかく生かしてやったのに、命を粗末にしやがって」

(ほう、こいつ、この少年の両親を殺したやつか?)

 少年が怒りにかられて向かっていく。稚拙な体当たり。歴戦の傭兵に通じるはずもない……

 だが。

 ぶつかった瞬間、まるで車にでも跳ねられたように、傭兵の体が吹っ飛んでいった。

 誰もが唖然とする中、少年は傭兵にマウントポジションをとって殴り続ける。

 傭兵の頭蓋骨が砕け、脳漿のうしょうが飛び出したあたりで、 

「勝てる」

 住民の誰かが、そうつぶやいた。

「レイヴン様に力を授かれば、勝てるんだ!」

 住民たちが押し寄せてくる。

 子供を殺されました。妻を犯されました。財産を奪われました……

 皆、力を求めている。

 『大切なものを壊された復讐』という、きわめて正当な目的のために。 

(ははは、そんなに焦らなくても大丈夫だよ)

 僕は『力が欲しいか』がしたくて、生きているのだから。


 僕は住民たちを並ばせ、一人一人に動機を尋ね、人柄を観察してから力を与えていった。無論、ふさわしくないと思った奴には与えない。

 住民の復讐は次々と成され、傭兵は順調に死んでいる。広場は血と臓物の匂いであふれていた。

 どんどん力を与えられて、ご機嫌な僕だが……

 姉上も来たのにはびっくりした。

「アンジェラよ、お前も、力が欲しいか?」

「いえ、欲しいのはレイヴン様です。結婚してくださいっ」

 いや、だから姉弟きょうだいだから無理だって。

 僕は頭痛をこらえながら、

「我としては、受け取ってほしいのだが」

「つまり私へのプレゼントですね!」

「……まあ、そうだ」

 姉上にも力を与える。次にこういう事態があったとき、母上を守ってほしいからな。

 少し経つと、姉上は傭兵の首を十個持ってきて、

「見てくださいレイヴン様、こんなに殺しました! 褒めて!」

 うむ、ボディーガードとして充分やれそうだ。これで母上の身も安心だ。


 広場での饗宴きょうえんも、終わりに近づいてきている。

 全敗の傭兵は、もはや自分から決闘に立ち上がらなくなった。それどころか少しでも順番が後になるよう争っている。

(すこし、疲れたな)

 これほど沢山の人間に力を与えたのは、初めてである。

 だが心地よい疲れだ。この上リネットに力を与えられたら、最高なんだけど。

 僕は住民の一人に休むことを告げ、広場沿いにある小さな建物に入った。どうやら酒場らしい。傭兵に荒らされたらしく、床には酒瓶が割れて散乱している。

(まあ休憩できればいいや)

 僕は椅子の一つに座り、大きく息をついた。

 すると。

 ドアが開いて、人が入ってきた。

(えっ)

 なんと、母上ではないか。

 僕が貸したマントを羽織って、こちらへ歩いてくる。

(あ、そこ、割れた瓶落ちてる。危ない)

 ひやひやしながら見ていると、母上は僕の向かいの椅子に座った。

 意図がわからず、困惑したが……『レイヴン』として声をかける。

「どうされた、ご婦人」

 母上は微笑して、

「いくら演技をしても、わかります。母ですから」

「な、なに?」

「あなたは……アルドちゃんね」

 


 私——リネットは、都市オルガナの門をくぐる。

 全身に受けた傷のせいでうまく動けず、到着まで随分かかってしまった。

(今日は、不思議なことばかり)

 百人ほどの傭兵に襲撃されたと思いきや、その9割近くがとつぜん消えた。先程まで戦っていたキティも、同様にだ。

 レイヴン様の配下・ガルムは、私を守るように後ろからついてくる。

 オルガナの大通りには……誰もいない。あるのは荒らされた家屋かおくや店、住民の死体。あまりに痛ましい光景。

 鬼哭兵団による略奪が起こったようだが、レイヴン様はどうしているだろう。

(それに、アルド君は今頃どこにいるのでしょうか……いいえ)

 あんな薄情者など、気にすることはない。

 私が心中で、吐き捨てたとき。

 

「やれ!」「そうだ殺せ!」

 

 大通りの向こうから、声が聞こえてきた。

(戦闘が続いているのでしょうか)

 住民を、一人でも多く救わねばならない。

 傷ついた体で懸命に進んでいくと、広場に出た。

 異様な光景が、そこにあった。

 篝火かがりびで照らされ、沢山の人が見守るなか、住民と傭兵が一対一で戦っている。

 普段は帳簿でもつけていそうな、痩せた男が……屈強な傭兵を、圧倒している。

「よくも俺の店を、子供を!!」

 傭兵を殴って吹っ飛ばす。住民たちが熱狂し、縄で拘束されている傭兵たちは青ざめていた。

 広場の隅には傭兵の死体が積みあがり、むせかえるような血の匂いを放っている。

(これは……)

 付与魔法で、だれかが住民に力を与えているのだろうか?

 脳裏によみがえるのは、レイヴン様の口癖。


『力が欲しいか』

 

 ——そうだ。レイヴン様が力を与えて、傭兵を殺させているのだ! 

(一体なぜ、こんな事を)

 近くにいた住民に、彼について尋ねる。

 住民は、レイヴン様がどれほど鮮やかに街を救ったか語ったあと「今はそこにおられるよ」と広場の一角を指さした。

 小さな建物があった。向かってみる。

 ドアをあけようとすると、中から女性の声が聞こえてきた。

「アルドちゃん。私の可愛い坊や」

(アルド?)

 オルガナに来ていたのか。『坊や』ということは、声の主は母親?


「ねえ坊や。どうしてあなたは正体を隠し『レイヴン』などと名乗っているの?」


「!?」

 心臓が跳ね上がった。

(臆病者で弱いアルド君が、レイヴン様? そんなことありえません)

 幸か不幸か、ドアは傭兵が破壊したのか、小さな穴があいていた。そこから中を覗き込んでみる。

 金髪の女性と、レイヴン様が向き合って座っていた。

 レイヴン様は、ゆっくりと仮面に手をかけ……

 外した。


 現れた顔は、間違いなくアルド君だった。


(!!)

 私は声をあげるのを、口に手を当ててこらえた。

 アルド君は、仮面をテーブルに置く。

 そして正体を隠している理由を、ゆっくりと話し始めた。

「母上もご存知でしょう。この国で起きている王位継承争いを。そのために、どれほどの血が流れているのかも」

 私はうつむいた。

 今日のオルガナの惨劇も、それによる余波であろう。

「僕は一刻も早く『この争いを終わらせたい』と思いました。リネット様こそ女王にふさわしいと考え——王位に就くのを手伝うため、騎士養成学校へ入学しました」

 私が騎士養成学校に入ったのは、アルド君——レイヴン様より後のはず。

 だが底知れないレイヴン様のことだ。自分には想像もつかないルートで、入学の情報をつかんだのだろう。

「ですが表立ってリネット王女の手伝いをすれば、母上あなたや姉上が危険でした」

「なぜ」

「このオルガナの市長は、第一王子の派閥。母上や姉上に危害がおよびかねません。ですから仮面で正体を隠し『レイヴン』としてリネット王女と接していたのです」

(!!)

 なんという深謀遠慮しんぼうえんりょ。そして家族へのやさしさ。

(なのに私はアルド君に……『意気地なし』などと、心無い言葉をかけてしまった)

 後悔で胸が締め付けられる。

 アルド君の母親は頷き、

「わかったわ。貴方がそれほど立派なことを考えていたとは。ママが気づかないうちに、大人になっていたのね」

「恐縮です」

「では次の質問。なぜ外で、あんな殺し合いを? 私は怖いわ。普段は優しい街の皆さんが……」

 そうだ。

 住民に力を与えて傭兵を殺させ、なんになるのだろう。

 だがアルド君は、よどみなく答えた。

「住民の皆さんに、立ち上がる力を得てほしいからです」

「どういうこと?」

「襲撃によって、住民の自尊心は大きく傷つけられました。僕に助けられるだけでは、深いトラウマに悩まされたでしょう」

 ですが、とアルド君は続ける。

「己の拳によって町を守ること。その誇りを胸に、再起してほしかったのです」

 アルド君は唇をかみしめ、うつむく。

 その瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

「こ、この都市は、僕の愛する故郷ふるさと。傷つけられた人々の心をどうすれば奮い立たせられるか、僕なりに、考えてっ……」

 声が震えている。きっとアルド君は悩みぬいた末に、住民に力を与えたのだろう。

(何もできなかった私が非難するのは、間違っている)

 そう。何もできなかった。

 この都市を鬼哭兵団から守ったのは、アルド君だ。圧倒的な力を持つ、彼なのだ。

(アルド君は、私が王位に就くため死力を尽くしてくれていた)

 正体を隠し……恋心まで押し殺して。

 彼は道中の馬車で、こう言っていた。


『ねえリネット。君の「レイヴン」への恋は実らないと思う。だから別の男性を……』


 レイヴン様——つまりアルド君は、私と相思相愛のはず。

 なのになぜ、こんなことを言ったかというと……

(私が女王になれば、自由な恋愛など許されないから!)

 当然、有力貴族か他国の王族から婿をもらうことになるだろう。地方都市の下級貴族、アルド君と結ばれるはずもない。 

 アルド君は私への恋心を胸に秘め、身を引くというのだ。そして私が王位に就くことを優先したのだ。

 平和な国を作るために。

(なんて……なんて素晴らしい人)

 あまりの感動に、涙があふれる。

 彼の至誠しせいにこたえるため、私にできることは……




(ふー、なんとか言いつくろえたな)

 母上が去ったあと、僕は再び仮面をかぶり、一息ついた。

(さすが母上。僕の正体を見破るとは)

 しかしまあ、母上からの二つの問いには、我ながらうまく言い訳できた。

 『なぜ服装と偽名で正体を隠しているのか』『住民に傭兵を殺させているのは何故か』……。

 まさか『かっこいいから』と、『「力が欲しいか」やりたかっただけ』とは言えない。

 特に前者の言い訳『オルガナの市長が第一王子派だから、リネットと表立って接触できなかった』は我ながら秀逸しゅういつだ。ナイス後付け。

 涙を流すのも、太ももの肉を千切ちぎれる程つねれば何とかなる。

(おかげで母上も、納得してくれたし)

 最後は『一人で苦しんでいたのですね。私はいつでも貴方の味方ですよ』と抱きしめてくれた。

 手袋のプレゼントも喜んでくれたし、すげー嬉しい。

(ああ、今日はいい日だ)

 そう思う僕だが。

 この日一番素晴らしい出来事は、まだだった。

 ドアがノックされる。「入れ」というと、扉が開き……リネットが現れた。

 怪我のため、オルガナへの到着が遅れたのだろう。

(さて、どう言いくるめて『力が欲しいか』の流れに持って行こうか)

 そう考える僕の前で、リネットはひざまずき、

「レイヴン様、お願いがあります」

「? なんだ」


「私に、力をください」


(!?)

 僕は、驚愕したあと……

 仮面の下で満面の笑みを浮かべる。声がうわずらないように注意しつつ、

「心境が変わったのか?」

「はい。私はようやくわかったのです。この不毛な継承戦は、一刻も早く終わらせねばならない。その為に必要なのは、貴方から地道に剣を教わることではない……」

 リネットが見上げてくる。その瞳には強い決意が満ちていた。

「圧倒的な——貴方のように圧倒的な、力なのだと!!」

(く、くくく)

 なんか知らんが、ようやく……

 本当にようやく、その気になってくれたか。

 いいだろう。僕の全身全霊をもって、力を与えてやる。それで王位につき、この国を変えるなり、世界中に戦争を挑むなりするがいい。

 どう活用してくれるか、実に楽しみだ。

 僕は立ち上がり、手を振りかざす。

これ以上ない多幸感に包まれながら、叫んだ。


「よかろう——ならば、くれてやる!!」

 




後書き:連載のモチベーションにつながるので、

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とにかく僕は死にかけのヤツに「力が欲しいか」と言いたい 壱日千次 @itinitisenji

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